現実4『たぶん僕のこの魂は腐っているのだろう』
『ログアウトしますか?』
――たぶん僕のこの魂は腐っているのだろう。
しかばね。
というのは中学校時代に目を付けられていた教師に付けられたあだ名だ。名字を文字って、僕を呼んだつもりらしい。
文句も言わず放っておいたらたちの悪いウィルスのようにクラスメイトが真似し始めて、あっという間に浸透してしまった。
まあ高校生となった今やこの名前で呼ぶのは葬式屋だけであるのだけれども。
その教師、曰わく僕の目は「死んだ魚の目」みたいであるらしい。根性が歪んでいるから濁り、熱がなく、深く沈んだ色をしているのだと当時はよく言われていたものだ。
『ログアウトしますか?』
あながち間違っているとも思っていない。
何故なら僕はこれまで日々生きているなかで、全くもって情熱だとか志だとか生き甲斐だとかそういったもがどういうわけか欠如していた。
この繰り返される毎日のほとんどの時間について意味のない退屈な繰り返しとしてしか認識することが できず、好奇心や感情の起伏や情緒といったものを抱けないでいた。
『ログアウトしますか?』
流れないままの水が淀むように。
水のない花が枯れてしまうように。
鮮度を失った肉が腐っていくように。
たぶん僕のこの魂は腐っているのだろう。
『ログアウトしますか?』
だから生きているようで死んでいる。
だから生きながらにして死んでいる。
だから僕も僕自身のことを生ける屍なんだと思うことにしていた。
『ログアウトしますか?』
『ログアウトしますか?』
『ログアウトしますか?』
『ログアウトしますか?』
何かの終わりを告げようと明滅する赤い信号。
鳴り止むことのない急き立てるような警戒音。
僕は小さく溜息をついて『はい』を選択する。