スケルトン Lv2
「きょうかいのてさき、があらわれた!」
■■■■■■■■■■■■■■
《名前》「ヒナゲシ(罪滅ぼしの寺院)」
《職業》「修道司祭」
《Lv》「11」
《HP》6/6
《スキル》
「祈祷/白亜教/+5」:行使できる祈祷の種類については別途マニュアルを参照。
「白き標の祈り/祈祷/白亜教」:葬式にて死者をともらいとして行われる祈り。修道司祭が行うことでアンデッドモンスターを強制的に浄化させる。成功率90。
■■■■■■■■■■■■■■
《名前》「ヒマワリ(罪滅ぼしの寺院)」
《職業》「修道司祭」
《Lv》「11」
《HP》35/35
《スキル》
「杖術/白亜教」:六面ダイス+「打撃ダメージ」「浄化」。
「矢のごとく腕/巨人の末裔」:巨人族の血筋を引いている者は、生まれつき身体が大きく高い身体能力を持つことがある。このスキル所有者は、「近距離用武器を通常よりも2倍の間合いから繰り出せる」+「先制攻撃」。
《所持品》
「戒めの職杖」:本来は祭事で使用される杖を、懲罰用に改良したもの。罪滅ぼしの寺院に引き取られた孤児たちは、聖書よりも先にこれを配布され鍛えこまれる。
ダンジョンは荒れ果てた墓地の遺跡―――地下寺院を利用して造られている。その構造は彼女の行動圏内である最下層(「書架」などはここにある)を含めた、地下十二階層からなっていた。
地下一階から地下十一階までについては、どのフロアも至る所にアンデッドモンスターを主する モンスター勢や、悪辣なトラップ類が配置されておりセキュリティゾーンとしての機能を担っている。勿論それは自称勇者から、彼女の生活、研究・資産が存在している最下層を守る為だろう。
まあ俺がその殆どを攻略し尽くしてしまったわけだが。
そのなかの地下二階については元歴戦の戦士としての視点から一言で述べるとあそこは「練習場」である。どういう事かと言うと比較的モンスターやトラップの数が少なく、危険度もえらく低い場所なので、肩慣らしや訓練に最適なのである。
フロア全体がまだ元の寺院としての原型を留めておりその遺跡的価値を考慮して、魔王が改築の手を緩めたのではないかと読んでいる。
「うえええん。うええええ。ぐすっ」
「ヒナゲシ。うるさいから泣くな」
「ぐすんっ……だってだってえ」
「近くにモンスターがいたら寄ってくるだろ」
「うう」
「負けたのが悔しかったら雪辱は闘って返すんだね」
通路の先から声が聞こえる。人数は二人。どちらも若い女。彼女たちが侵入者だろう。
俺は足音を立てないようにそろそろ壁に身を擦り寄せながら歩みを進める。ダンジョンは基本的に地下なので陽が差すことのない暗闇の空間。視界はそれでも、地上の昼間と変わらないくらい良好だ。ゾンビの時も同じだったがアンデッドモンスターには「暗視」が備わっているらしい。おかげで灯りを携帯する必要がないし、闇に姿を溶け込ませて気配を消す事もできた。
カンテラの光。
二人組の少女がいる。袖口で目元をごしごしこする小柄なほう。その頭を、やたらと背の高いほうがわしゃわしゃ撫でている。
ヒナゲシと呼ばれていた小柄なほう。白い祭服。腰まで届く勢いの長い髪。幼そうな顔立ち。記憶が正しければ、侵入者百人ほどを返り討ちにした時にいた修道司祭である。どうやらこの前のリベンヂにきたらしい。
もう片方もおそらく修道司祭。癖のあるベリーショートの美人。身体よりも一回り小さいぴっちりとした白い司教服――おそらくサイズがないのだ――で脚を露出させている。
巨人の血を引いていると思わせるほど背が高く、超弩級の獲物――職杖を軽々と肩に担いでいたが、彼女にかかると普通のサイズに見える。
「しっかし臆病なあんたが魔王討伐に参加するなんて驚いたね。この話をしたらマリア先生、泡吹いて倒れるよ」
「ぐすん。目的は懸賞金なの。お金が入ったら院のみんなも喜ぶでしょ」
「そうだな。私らが倒せば一目置かれもする。院の立場だって見直されるかもしれない」
「そうしたら毎日黒パンとスープ以外の御飯が食べれるもん。陰者って後ろ指さされないもん」
「ああ黒パンにはうんざりだし、教会連中のあの見下した目もうんざりだね」
「でしょでしょ。だからヒマワリも協力してよねっ」
「ふん。他ならぬ親友の頼みとあっちゃ断れねえな」
「へへへありがとう。でも気をつけてね。このダンジョンにはものすごく強いゾンビがいるんだよ。討伐隊を簡単に倒しちゃったし私の祈祷だってきかなかったんだ」
「へえ。あんたの祈祷が? 何かの間違いだろ」
「本当だもん。本当にいたんだもん」
「まあ信じるけどさ。でもたかだかゾンビだろ。頭を潰しゃあくたばるさ」
おもうむろに職杖を持ち上げる背の高い少女――ヒマワリ。
ぐるぐる、ぐおうん、ぐおうん。バトンのごとく回転させた後、大きく二度振る。空気を混ぜる音がまるで獣の唸り。おっかねえ。あれをまともに喰らった部位は、ただのダメージじゃすまないだろう。
彼女たちとは十メートルも離れていなかったが未だにこちらの様子に気がついてない。どうやら本当に「死臭」は消えているらしくそれの確信できただけでも収穫はあった。
「ようお嬢さん方」
俺は、暗闇から灯りの前へと姿を晒した。
あのまま「奇襲」をかけてしまえば意外にあっさり撃破、もしくは驚かして追い払えることも可能だったのかもしれない。だが今回の目的はあくまでスケルトンとしての自分の戦闘能力を計ることにあるのだ。
「早速で悪いけど肩慣らしさせてもらうぜ」