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戦うヒト  作者: ミドリ
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1話 東京

数ヶ月前の大晦日、両親は仕事でいなかった為、俺は、一人でテレビを見ていた。

国が突然始めた謎の抽選会の番組だ。

抽選会で選ばれた人間は、今では国の一部の人間しか出入り出来なくなっている大都市「東京」へ連行される。

一体何の為なのか、知る者は、連れて行かれた人間と、政府の人間だけだろう。


政府の人間が、くじを引いている。

今年は50万人が選ばれるらしい。


まさか自分が選ばれるなんて夢にも思っていなかった俺は、画面の当選者一覧に自分の名前と顔写真が写っているのを見て、言葉を失った。

まるで宝くじに当たったような感覚だった。

いや、実際に宝くじに当たった事はないのだけれども、本当に、呆気に取られて、しばらく動くことが出来なかったくらいだ。


数分後、電話が鳴った。

ビクッと体をびくつかせ、恐る恐る受話器を取る。

大体予想はしていたが、政府の人間だった。


「貴方が大神竜二(オオガミリュウジ)君ですね。君は今回の抽選会で見事選ばれました。では、明日の朝にはこちらからお迎えに上がらせて頂きますので、お待ちください。」


電話を終えると、俺は静かに受話器を置いた。

またすぐに電話が鳴ったが、その電話に出る気にはなれなかった。

とにかく現実を受け入れる事が出来ず、電話コールが鳴り響く中、俺は一人、呆然としていた。


両親が帰宅してから、俺は二人と話し合った。

既に知り合いから話を聞いていたらしく、両親は最初から暗い表情だった。


「どうして竜二が・・・。」


「くそ、一体国は何がしたいんだ。」


両親は俺が自分の部屋へ戻ってからも、何やら話し合っている様子だった。

あの時、俺はもう何も考えられなかった。とにかく、恐怖と不安で起きている事すら苦しかったんだ。

俺は東京へ持って行くものを鞄に詰めると、直ぐに眠ってしまった。


次の日の朝。

予告通り、政府の人間が俺を迎えに来た。

従兄弟や祖父が俺を見送る為に向かってきていたらしいが、間に合わなかったようだった。

最後に顔が見られなかったのは残念だったな。


そうして、俺は両親に見送られ、政府の車に乗った・・・。

その後の事はあまりよく覚えていない。

何処で眠ってしまったのかも分からないが、とにかく俺は途中で眠ってしまったみたいだ。


次に目が覚めた場所は病院のベッドの上だった。

目が覚めるとすぐに、ベッドの横に座っていた黒スーツの男に、俺の新しい住居であるマンションの一室へ連れて行かれた。


俺はそこで、ここは既に東京であること、ここに人を集めている理由は今は話せないということ、最低限の生活は出来るよう、毎月支援金を受託出来るということ、メールなら東京外とでもやり取りが出来るが内容を国が確認するということ、最後に、東京でなら自由に生活して良く、学校へ行く必要も働く必要もない、ということを教えられた。




こうして、俺はここ、東京で一人暮らをすることになったわけだが・・・。

はっきり言って、かなり満足している。


最初は不安もあったが、慣れてしまえばこれ程快適な生活はない。

何もしなくても生活ができ、親の監督も受けず自由に暮らすことが出来る。

本来なら高校一年生で毎日毎日学校へ行っているところだが、俺は学校にも行っていない。

東京の学校は、何処も受験をせずに入学できるらしいのだが、俺は受験も受けず、バイトもせず、毎日をダラダラと過ごしていた。


世間ではニートというのだろうが、ここ、「東京」では、それが認められているし、当たり前のこととなっている。

俺はニートこそ最高の職業だと自負している。但しここでは、だけど・・・。


俺は昔から元々真面目な性格ではなく、どちらかというと不良、といった感じだった。

不良といっても、喧嘩をしたりバイクを乗り回したり、というような不良ではなく、学校の授業をサボったり、授業を真面目に受けなかったり、程度の、あくまで自分の欲求に正直な面倒くさがり屋、という感じだ。


そんな俺が、何もせずに生きていける環境で、何かをするわけもない。

今日も俺は、特に目的もなく、街でも放浪しようと部屋を出た。


「竜二~~。」


と、部屋を出た途端に声をかけられる。

横を見ると、隣部屋に住んでいる涼風翠(スズカゼミドリ)がニコニコ笑顔で立っていた。


鈴風翠。

俺は、馬鹿で無邪気で子供っぽい、という印象を持っている。

実際馬鹿っぽい発言や行動も多いが、本人はそれを楽しんでいるようで、あまり気にはしていないらしい。

だからこそ、馬鹿な発言や行動が減る事が無いのだろうけど・・・。


小柄で黒髪のショート。ルックスも普通で特におしゃれもしないという、至って普通な少年。いや、むしろ優等生っぽい。

しかし、残念ながら翠も、中学では居眠りの常習犯だったらしい。

まあ俺と似たような感じだろう。

そんな奴が、この状況で学校などに行っているわけがない。


俺と翠はいつの間にか友達、というやつになっていたようで、よく一緒に町に出かけたり、今ではダラダラした生活を共に楽しんでいる同士だった。


「翠か。おまえも相変わらず暇人だな。」


「いやいや竜二に言われたくないしっ。」


と、いつものようなやりとりをしながら階段へ向かう。


「何処か行くのかよ。」


俺は翠を面倒くさそうな表情で見ながら皮肉のように言う。

こいつは少し弄ると面白い。


「いやいや、俺竜二を呼ぼうと思ってたんだ。そしたら竜二が出てきたからさ!いや~、びっくりしたね。以心伝心ってやつ?」


「いや、俺は別にお前を誘いたかったわけじゃあない。」


俺が素っ気無く言うと、落ち込んだように翠が肩を落とす。

なんなんだこいつは?俺とどういう関係を望んでいるんだ?と、たまに不安になる。


階段を下りると、俺は大通りへ向かう。ここからだとそんなに遠くはない。

翠は相変わらず俺について来ている。


俺は昼過ぎまで寝ていた為、外はもう夕方だったが、基本俺達は夜に行動している。

まあ、ただ単に起きる時間からそうなってしまうのだけれど。

もちろん、真夜中まで外をぶらついている事はないが・・・。


夕方の大通りは学校帰りの生徒で溢れ返っていた。

俺達は適当に店を回る。

特に目的が無いのはいつもの事だ。そうして適当な時間までぶらつき、適当に帰宅する。


「はぁ~。いや~学生さんが多いですな~。」


「なんだ?学生に憧れてたりするのかよ。」


翠の呟きにいじわるっぽく聞いてみる。

まあ、別に憧れていないのは分かっている。

憧れていたとしても、それは制服にだとか、学生というリアルが充実していそうな単語に、だろう。

学校に行きたいと思っているとは思えない。


「いや、そんなわけないっしょ。ないない。」


翠は素っ気無く言うと、古本屋の前で立ち止まり、中に入っていく。

目当ては漫画だろう。もちろん翠の事だ。立ち読みに決まっている。



「本屋かよ・・・。」


俺はとくに目当ては無かったが、翠にしぶしぶついて行き、本屋へ入って行った。

流石に一人で何処かへ行ってしまうほど、自己中心的な考えは持っていない。

俺達は、古本屋で適当に漫画を立ち読みし、時間を潰す事にした。

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