荒野の救世主過剰供給
「ひ……ヒャッハー! 汚物は消毒だぁーッ!」
世紀末の乾いた風が吹き荒れる荒野。けたたましいエンジン音とともに、改造バギーに乗ったモヒカン頭の暴徒たちが、小さな村を取り囲んでいた。村人たちは身を寄せ合い、ガタガタと震えている。
「ヒャッハー! 水と食料とガソリンを全部出せ! さもなくば——」
暴徒のリーダーが火炎放射器の引き金に指をかけた、その時だった。
ドォォォォン!!
荒野の地平線から、もう一台のバギーが猛スピードで躍り出てきた。黒いレザージャケットを纏い、胸に傷を持つ男が立ち上がり、夕日を背に静かに言い放つ。
「お前たちの身勝手な暴力……この俺が許さん」
村人たちの顔に歓喜の色が浮かぶ。
「き、救世主様だ! 救世主様が現れたぞーっ!」
だが、その感動はわずか3秒で粉砕された。
「待ちな!!」
反対側の崖の上から、トゲトゲの肩パッドを着けた別の男が叫びながら飛び降りてきた。
「その獲物は俺のだ! 昨日からこの村のレスキュー枠にエントリーしてたのは俺だぞ!」
さらに西の丘から、巨大なV8エンジンを爆音で唸らせるインターセプターが突っ込んでくる。
「引っ込んでろ! 俺のほうがマッドでワイルドなチェイスをお見せできる!」
「いや、俺の北斗〇拳のほうが死兆星が見えてる!」
「俺のほうが奇跡の拳法歴長いし!」
「俺はV8! V8! V8!」
気づけば、村の広場は地平線の彼方まで埋め尽くす「救世主」たちの群れでごった返していた。黒革ジャン、肩パッド、七つの傷、無口なニヒリスト、拳法家、バギー乗り——総勢、およそ一万人。
「おい、順番を守れ! 俺は今朝の4時からこの村の前で待機してたんだ!」
「秘孔を突くのは俺の担当だ! お前は後ろで落ち落ちしてろ!」
「うるせぇ! 聖帝十字陵を破壊する権利をかけ、じゃんけんだ!」
救世主同士が胸ぐらを掴み合い、誰が一番カッコよく暴徒を退治するかで大喧嘩を始めている。
あまりの光景に、火炎放射器を持っていた暴徒のリーダーはポカンと口を開け、構えていた武器をゆっくりと下ろした。
「……なぁ、頭」
手下のモヒカンが小声で囁く。
「なんか……俺たち、完全に放置されてね?」
「ああ……。なんか、邪魔すんのも悪い空気だな」
リーダーは深いため息をつくと、火炎放射器をバギーの荷台に戻した。
「おい、撤収だ。今日は隣の村に行こう」
「でも頭、隣の村にはさっき『南斗の救世主グループ』が五百人くらいバスで乗り込んでましたよ」
「マジかよ……世知辛い世紀末だな、おい」
暴徒たちは肩を落とし、誰にも気づかれないまま静かに去っていった。
一方、村の広場では救世主たちの喧嘩がヒートアップしていた。
「おい見ろ! 暴徒が逃げたぞ! お前の前置きが長かったからだ!」
「なんだと!? 俺の『お前はもう死んでいる』のタメ時間を愚弄する気か!」
揉め続ける一万人の救世主たちを眺めながら、村の長老がポツリと呟いた。
「……なあ、みんな」
村人たちが長老を振り返る。
「救世主様が多すぎて、うるさくて昼寝もできん。それに、あの人たちのバギーの排気ガスで畑のトマトが枯れそうだ」
「そうですね……」と、若者が頷く。
「ぶっちゃけ、暴徒より救世主のほうが場所取って邪魔ですよね」
「よし」
長老は固い決意を込めて言った。
「自分たちで竹槍を作って、村の周りに柵を立てよう。暴徒が来たら自分たちで追い払う。……あの一万人には、一刻も早くこの村から出て行ってもらおう」
「「「オーッ!!」」」
こうして、世紀末の荒野に小さな自警団が誕生した。
自分たちの手で暮らしを守り始めた村人たちの背後で、一万人の救世主たちは今日も「誰が真の救世主か」を決める会議を延々と続けているのだった。
(了)




