表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第9話 停車

だから、「ハイジャック」じゃないだろ!


とは、さすがに誰も突っ込まなかった。

新幹線の中全体に緊張が走る。


「扉が開きましたら、どちら様も落ち着いて外に出て、急いで電車から離れてください。

大丈夫です、5分あれば、乗客乗員全員が外に出られます。貴重品だけお持ちになり、

大きなお荷物はそのままで・・・」


そこでアナウンスは唐突に切れた。

おそらくアナウンスの最後の方は、運転手の独断で言ったもので、

犯人にマイクを切られてしまったのだろう。


一気に車内が騒がしくなり、乗客たちが我先にとデッキに向かう。

しかし、せっかくの運転手の努力も虚しく、

みんなしっかりと自分の荷物を全部持っている。


「運転手さん、大丈夫でしょうか?」


寿々菜が不安げに武上を見た。

武上も、同じ気持ちだったが、今ここで寿々菜にそんなことを言っても、

余計に寿々菜を不安にさせるだけだ。


「大丈夫ですよ。運転手に何かあれば、この新幹線は動きませんから」

「そ、そうですよね!」


寿々菜はホッとして、運転手に言われた通り財布と携帯だけ持ち、

デッキへと続く長い行列の最後に武上たちと共に加わった。

しかしそのすぐ後ろに、小さな子供を2人連れた母親が並んだのを見ると、

寿々菜は自然とその後ろへ並び直した。


武上は微笑んで、そして和彦と山崎は肩をすくめ、寿々菜に続く。


だがその後ろにも、すぐに長い列ができていった。

行楽シーズンでも帰省シーズンでもないのにグリーン車にこんなに客がいる訳がない。

おそらく「グリーン車の扉の前の方がすいているだろう」と考え、

流れてきた一般車両の客だ。

こうすれば、一般車両の扉の前も少しすく。

なかなか賢い客たちだ。


武上は、和彦の横で訊ねた。


「和彦。お前がさっき言ってたのって、」

「もう説明の必要ないと思うぞ。ほら、新幹線が止まる」


和彦の言う通り、新幹線の速度が落ちた。


武上は、チラッと列の前方を見た。

アタッシュケース男こと奥山の後姿が見える。

もちろん今はその両手は空だ。


まあ、怪我をしなかっただけでも幸いである。


その時、突然新幹線の速度がガクッと落ちた。


「うわ!」

「きゃあ!」


立っている乗客全員の身体が大きく揺れ、みんな思い思いに近くの座席にしがみつく。

しかし、堪えきれず転倒する者も少なくない。

鈍い寿々菜も危うくひっくり返りそうになったが・・・


「大丈夫か?」

「和彦さん・・・すみません」


こんな時なのに、和彦に腕を握られ寿々菜は頬を赤らめる。

いつもならば、こういう時に黙っている武上ではないのだが、今はそれどころではない。


「武上さん?」


山崎が、呆然とする武上に声をかける。

が、窓の外に姿を現し始めた長いプラットホームを呆然と見つめる武上の耳に、その声は届かなかった。






「おいおい、気をつけてくれよ」


大きく揺れた運転室の中で苦笑しながらも、

「ボス」は銃の向きを変えない。

運転手は、自分を落ち着かせるために大きく息をついた。


「すみません・・・わざとじゃ・・・」

「わかってるさ。銃をつきつけられてりゃ、いつも通りの運転なんてできない。そうだろ?」

「は、はい」



なんてミスを。

乗客は大丈夫だっただろうか?

転んで怪我をしている人はいないだろうか?



失敗はしたものの、

運転手は少し落ち着きを取り戻していた。

もうすぐ停車するから、ということもあるが、

運転手には黒づくめ達の作戦が読めたのだ。

そして恐らくそれは、このままだと成功する。



なんとかして、外部と連絡を取り、

犯人達の考えていることを伝えたい!



しかし、ボスは運転手の考えなどお見通しだ。


「よし。俺はそろそろ行くからな。お前はちゃんと言われた通り新幹線を止めて扉を開け。

そしてお前もすぐにここから出て行け」

「はい」

「妙な真似をしたら、乗客を殺す。わかってるな?」

「・・・はい。あの、」

「なんだ?」

「あの・・・本当に爆弾を?」


ボスはニヤッとして言った。


「さあな。仕掛けてないと思うなら、お前はここに残れ」

「・・・」


そしてボスは運転室の鍵を開き、悠々と出て行った。



おとなしく、言われた通りにしよう。



運転手は心を決めた。



犯人の目的が何なのかはわからないが、

とにかく人の命が第一だ。



今度はいつも通りゆっくりと慎重にレバーを引く。


そして・・・ついに、新幹線線は停車した。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ