第8話 計算間違い?
「1億円!?ふざけんな!」
和彦は憤然として言った。
「なあ。ふざけてるだろ?」
「全くだ!人質の中に俺がいるのに、なんだそのしらけた金額は!」
「・・・」
「どうせなら派手に1兆円くらい要求しろってんだ!」
武上は呆れて物も言えなかったが、
寿々菜と山崎は珍しく意気投合し「ですよね」と頷く。
「・・・ん?ちょっと待て、1億円?1千万円じゃなくて?」
和彦がふと思いついたように、武上に訊ねる。
「間違いなく1億円だ。ちなみに1兆円でもない」
「1億・・・なんでだ?ただ単に、あいつがやっぱ馬鹿なだけか・・・?」
和彦は独り言のように呟き、腕を組んだ。
「どうしたんですか?」
寿々菜が和彦を覗き込む。
「いや、さっきあのノッポと話した時にさ。あいつ、儲けの9割くらいは親分が持って行っちまって、
自分らの取り分なんてせいぜい百万だって言ってたんだ」
寿々菜は一生懸命計算した。
「ノッポさん達の取り分は儲けの1割で、それが百万円だから・・・
全体の儲けは1千万円、くらいですか?」
「そうなる。1億円じゃなくて1千万円だ」
「でも、和彦さん」
珍しく山崎が和彦に横槍を入れる。
「子分が大勢いたら、子分1人当たりの取り分は百万になるって意味かもしれませんよ?」
「いや、親分1人に子分2人の合計3人らしい。子分2人で百万だ」
「おい、和彦」
今度は武上が突っ込む。
「なんでそんなこと、知ってるんだ」
「だから、さっきのノッポから聞いたんだよ」
「そーゆー重要なことは、早く言え!」
「何だよ、自分もさっきまで弁当食ってたくせに」
「・・・」
和彦は大きく背伸びをして、そのまま手を頭の後ろで組んだ。
「はあ、一体1千万って金額はどこから出てきたんだ?つーか、助かるなら、どーでもいーけど」
「和彦、お前な。少しは探偵らしく解決しようとは思わないのか」
「俺、本物の探偵じゃないしー。アイドルだしー」
「・・・」
その通りである。
「それに、もう時間なさそうだぜ?」
「時間?」
「ああ」
和彦は新幹線の外を指差した。
「ほら、今、新横浜を通過した。もう間もなく東京でーす」
「・・・」
これまたその通りである。
「和彦さん、せっかくここまで解決したんですから、頑張って最後まで解決しましょうよ」
「あのな、寿々菜。ここまで、って全然解決してねーだろ。それに本当にもう時間がない」
そう言って、和彦は車両前方の扉の上にある電光掲示板を見た。
通過した駅の名前が出たり、ニュースが流れたりするアレである。
こんな状況なので、もはや意味をなさないだろうが、
もしかしたら終点の東京駅まで後何分かが表示されるかもしれない、と思ったのである。
って、止まる予定だった新横も通過しちまったから、
あの電光掲示板の情報は本当に意味ねーか。
・・・って、ん?
和彦は座席から身を起こし、
電光掲示板に見入った。
「・・・そうか、もしかして・・・」
「どうした?」
武上も、和彦につられて電光掲示板を見たが、
そこには今日の全国の天気が流れているだけだった。
しかし、和彦の目の輝きは普通ではない。
これは、そう。
何か閃いた時の目である。
「おい、武上。東京駅には警察も来てるんだろうな?」
「当たり前だ。私服警官も大勢いるはずだ」
「1億円と車の準備もできてるのか?」
「多分な」
「・・・ふーん」
和彦はニヤニヤしながら、座席に深く座り直した。
「なんだよ?何が言いたいんだ、和彦」
「手遅れだな」
「手遅れ?」
「ああ。だって、」
その時、車内にアナウンスが再び鳴り響いた。
「乗客の皆様にご連絡致します。当列車は・・・ハイジャック犯によって爆弾を仕掛けられました・・・
停車後、5分以内に当列車は爆発します!」