第4話 漫才コンビ登場
自動ドアは確かに静かに開いた。
が、入ってきた2人の黒づくめの男は、お世辞にも静かとは言いがたい。
「おお!ここがグリーン車ってやつか!」
「アニキ!俺、生まれて初めて入りました!」
「俺もだ!うわ、座席広いな!」
和彦は通路に少し顔を出し、2人の男を見た。
言うまでも無く、さっき運転室にいたノッポとチビである。
どうやらノッポが「アニキ」で、チビが子分のようだ。
わかりやすい。
「なんだありゃ?新しい漫才コンビか?」
「和彦!静かにしろ!・・・2人の手を見ろ」
「え?」
武上に言われて、和彦は目を凝らした。
黒づくめの2人の手には・・・拳銃らしき物が光っている。
「じゃあ、あれが犯人か?」
「だろうな」
「あんなサンタクロース漫才コンビが?」
「・・・」
和彦がそう言ったのも無理はない。
ノッポとチビの2人は、サンタクロース顔負けの白い大きな袋を担いでいたのだ。
ご丁寧に覆面なんぞ被っているが、それが逆に面白い。
「新幹線なんかジャックする、ってだけでもそーとー間抜けなのに、
あんな格好見せられちゃ、一気にテンション下がるな」
「なんのテンションだ。そんな余計なもの上げずに、大人しくしてろ」
武上が小声で和彦に怒っている間に、2人の黒づくめは、車両内に響き渡る大きな声で言った。
「おい!聞け!この新幹線は俺たちが占拠した!命が惜しかったら、この袋の中に、
現金や腕時計なんかを全部入れろ!わかったな!!」
2人はそう言うや否や、早速前の席の乗客から金を巻き上げ始める。
さすがに乗客たちからは、先ほどまでの悠々とした雰囲気は消えた。
山崎が、向かいに座る武上に小声で話しかけた。
「どうしますか?」
「取り合えずここは言う通りにしましょう。あいつらが別の車両に行ってから、警察に連絡を取ります」
「でも、犯人があの2人だけとは限りませんよ?他にもいるかも・・・」
「ええ。少なくとも運転手についている奴があと1人いるでしょう。合わせて3人以上はいることになる」
山崎が神妙な面持ちで頷く。
武上も緊張からか、黒づくめ達を鋭い視線で睨んでいる。
そして寿々菜は青い顔で隣の武上に少し近づいた。
和彦は・・・
はあ。これじゃさすがに駅弁は食えないなあ。
と、ため息をついた。
「よし、次はお前らだ。さっさと袋に金を入れろ!」
ついに黒づくめ達が、向かい合わせに座っている和彦たち4人のところへやってきた。
武上は、男達を観察したくてわざとゆっくり財布から金を取り出した。
山崎もそれに従う。
寿々菜は、ゆっくり出すほど金を持っておらず、
5千円札を一枚、袋の中へ入れた。
が、それより先に、和彦がバサバサと大量の1万円札を袋に投げ入れた。
「おおお!さすがにグリーン車に乗ってる奴は金持ちだな!」
「すげえ。お前、今、いくら入れたんだ?」
「さあ。あるだけ入れた」
「うわ・・・気前いいな」
全部入れろと言ったのはお前達だろ。
和彦が冷ややかな視線を黒づくめ達に送る。
そして・・・2人はソレに気付いた。
「あれ、アニキ!こいつ、KAZUですよ!」
「KAZU?あの『御園探偵』ってドラマの主人公やってる奴か?」
「そうですよ!うわ、さすがグリーン車!」
何をそこまでグリーン車を崇めているのかわからないが、
チビはしきりに感動した。
「な!お前、KAZUだろ!?」
「ああ」
「やっぱり!!!」
黒づくめ達の大きな声に、他の乗客たちも振り向き、小さな歓声が起こる。
だがこの状況では、KAZUがいても大して騒げない。
「へえ!芸能人って本当にいるんだな!」
ノッポが関心したように言った。
当たり前である。
「よし。なあ、お前。サインしろ」
「は?」
「俺の彼女が、あんたのファンなんだよ」
「ええ!?アニキ、彼女いるんすか!?」
「おう」
「前、いないって言ってたじゃないっすか!」
「1週間前にできたんだよ」
「えええ~いいなあ~。俺も彼女、ほしい・・・そうだ!ついでに写真も撮っといたらどうです!?」
「ここでか?そりゃまずいだろ」
「この新幹線の中だってわかんないように撮ったらいいっすよ!」
「そうか、なるほどな」
「決まりっすね!よし、お前!俺達について来い!」
チビが和彦の腕を引っ張った。
和彦が少し顔を歪める。
が。
「おい、ちょっと待て。この車両で金目のモン集めてからにしようぜ」
ノッポがそう言うと、チビがハッとしたように和彦の腕を離した。
「そっか!そうっすね、アニキ!仕事はちゃんとやらないと!おい、お前、ちょっと待ってろ!」
「へえへえ」
和彦は呆れたように座席に座り直し、腕を組んだ。