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第11話 大物小物

コイツが、稼ぎの9割を持って行っちまうってゆー「ボス」だな?



和彦は、心の中で舌打ちをした。

さすがに寿々菜を人質に取られては、和彦と武上は手も足も出せない。


それとは対照的にノッポは、助かったとばかりに、

和彦の脇をすり抜け、ボスの方へ駆け寄った。


「すみません」


と、申し訳なさそうに頭を掻く。


「まあいい。ちょっとお荷物ができたが、連れて行こう」

「へえ」


ボスは「じゃあな」と言うと、寿々菜を左腕で抱きしめたまま、

和彦たちに背を向け歩き出そうとした。


「おい!ちょっと待て!寿々菜は置いていけ!!」

「それは無理な相談だな。お前達がそこで大人しく突っ立ってりゃ、

明日には返してやるよ。無事に、とは言わないが」

「ふざけんな!」

「寿々菜さん!」

「和彦さーん、武上さぁ~ん・・・」


寿々菜の涙声を聞き、武上の方が泣きたくなった。



ああ!寿々菜さん!

俺がついていながら・・・!!!



しかし、やはりどうすることもできない。

和彦と武上は、ただただ小さくなっていく寿々菜を見つめた。


その時・・・誰も予期せぬことが起きた。

確かに、寿々菜は和彦と武上にとっては大事な存在で、

寿々菜を人質に取られている以上、手も足も出せない。


そう。和彦と武上は。


だが・・・



見知らぬ小娘なんか、どうでもいい!

とにかく設計図だ!



なんと奥山が、人混みにまぎれて立ち去ろうとするノッポに、後ろから飛び掛ったのだ!


「こいつ!設計図を返せ!!」

「ふわああ!」


不意をつかれたノッポは、情けない声を上げながらも慌てて奥山を振り払う。

振り払われた奥山は、元々力仕事は苦手なのか、簡単に吹っ飛ばされ・・・


なんの偶然か、ノッポの隣にいるボスに、身体ごとぶつかった。


「きゃあ!」

「な、何をする!」


こちらも不意をつかれ、しかも片腕に小柄とは言え女子高生を1人抱えているのだ、

見事に寿々菜ごとひっくり返ってしまった。


が、さすがは「ボス」。

すぐに起き上がると体勢を整え、憎憎しげな表情で、

ホームに転がった奥山と寿々菜に銃口を向けた。


「よくも!!」

「ひ、ひい!」


奥山は地面にへばりつき、身を小さくした。

そして寿々菜は・・・

転んだ拍子に奥山の下敷きになっていた。


つまり奥山は、地面にへばりついたのではなく、

正確には寿々菜にへばりつき、寿々菜を抱えるようにして身を縮めたのだ。



一瞬の出来事に、あっけに取られていた和彦と武上も、

ようやく我に返り、寿々菜目掛けて走り出す。


「寿々菜!」

「寿々菜さん!!」



でも・・・くそ!間に合わない!!!



2人が同時にそう思った瞬間、

一発の銃声が、ホームに飛び交う悲鳴に掻き消された。







「遅いですな」


R社の社長・久保は、自社の応接室のソファに腰かけ、ため息をついた。


「申し訳ありません。もう間もなく到着すると思います」


久保の向かいでヘラヘラした愛想笑いをしながら座っているのは、

奥山が勤めるB社の社長・小久保。


その名の通り、体格も風格も久保に比べて「小」久保である感は否めない。



奥山が極秘の設計図を届けるはずだった約束の時間から、すでに15分が過ぎていた。

いつもは寛大な久保も、さすがに少し苛々していたのだが、

本来なら真っ青になっていてもおかしくない小久保は、

何故か「もう少々お待ちを」と、余裕の態度。


久保が不審に思っていると、応接室の扉がノックされた。


「なんだ」

「失礼します」


振り向くと、秘書の女性が頬を少し紅潮させて入ってきた。



よし!やっとだ!



小久保は思わずニンマリした。



早く、今入った連絡を久保社長に伝えろ!

そうすれば・・・



ところが、小久保の予想に反した言葉が、

秘書の口から発せられた。


「お約束のお客様がみえました」

「そうか!早くお通ししろ」


久保の顔に安堵の笑みが、

そして小久保の顔に引きつった笑みが浮かぶ。



来た、だと!?

そんな馬鹿な!



「あの、それが・・・」


何故か秘書の女性の視線が、久保社長と、後ろに控えているらしい「客」の間を行き来する。


「どうした?早くしろ」

「は、はい。あの、」


秘書の女性が何か言いかけた時、後ろの「客」がそれを遮り、

応接室の中に強引に入ってきた。


久保はその「客」を見て首を傾げた。



はて、見たことのある男だな。

人の顔を覚えるのは得意で、一度会えば、忘れないのだが・・・



男は、およそこの応接室にふさわしくない雰囲気だった。

理由は、ジーパンという軽装にもあったが、

何より素人離れした美貌が、周囲を圧倒していた。


ただ、よほど大急ぎで走ってきたのか、髪は乱れ、息は上がっている。

そして久保社長を見て、息も絶え絶えに声を出した。


「あんたが、」


しかし男は言葉を切ると、一度息を飲み、それから深呼吸をした。

ついでに髪に手櫛を通し、羽織っていたシャツの襟も正す。

そして次の瞬間には、この場の雰囲気にふさわしいビジネスライクな笑顔に変わっていた。


「遅くなって申し訳ありません。久保社長でいらっしゃいますね?」

「ああ」

「私は、B社の奥山の代理で、設計図を届けに来た者です。

お約束の時間までにお届けできず、申し訳ありませんでした」


久保は、言い訳もせずガバッと頭を下げた男を見て、さっきまでの苛々がすっと晴れた。

そして笑顔で言った。


「もういいですよ。とにかく無事、届けて頂いて助かりました。それで、設計図は?」

「はい、ここに」


男は久保の前のテーブルの脇にひざまずき、シルバーのアタッシュケースを開くと、

中の設計図をテーブルの上に並べた。


それを見て久保は頷いた。


「確かに、R社の社印が押されていますね。では、早速拝見させ・・・」

「ちょっと待ってください!」


久保が設計図を手にしようとした時、

突然小久保が叫んだ。


「馬鹿な!それは偽物です!本物の設計図がここに届くはずがない!」





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