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第10話 パニック

扉が開くと同時に、新幹線から人の波が溢れた。


「新幹線に爆弾が!」という叫び声を聞き、

ホームにいた人間も慌てて波に乗って改札へと向かう。


その勢いは凄まじかった。


寿々菜たちも、新幹線から出たというより押し出されて、

ホームに降り立つ。


寿々菜と山崎はそのまますぐに走りだそうとしたが・・・

足を止めて上を見上げる和彦と武上に気付き、立ち止まった。


「和彦さん?武上さん?どうしたんですか?」


武上は寿々菜の声には応えず、和彦の方を見た。


「・・・これは・・・」

「な?だから、手遅れだって言っただろ?」


武上は青くなって頷き、再び目を上に向けた。

寿々菜もつられて、同じ方向を見る。

その視線の先には、駅の名前を示す看板が、ホームの屋根から吊るされていた。


「・・・え?」


いくら漢字が苦手な寿々菜でも読める。

そこに書かれた駅名は・・・


「品川!?東京じゃなくって!?」

「・・・くそ!」


武上は、急いで携帯を取り出した。

が、和彦がそれを制する。


「どーせ、ヘリが新幹線の上をずっとつけてたんだろ?新幹線が速度を落とした時点で、

東京駅じゃなく、品川駅に止まることはわかったはずだ。もう、本部にも連絡行ってるだろ」

「・・・」

「ま、それでも、ここに駆けつけるには間に合わないけどな」


武上は地団太を踏んだ。



くそっ!

東京駅に1億円を用意させたのは、

新幹線が東京駅に止まると思わせるための罠だったのか!!

本当の目的は1億円ではなく、他にあったんだ!

雑な要求だと、思っていたのに・・・

くそ!!!



もちろん、品川駅にも、そして先ほど通過した新横浜駅にも、

万一を考えて警察は配備されている。

しかし、それは東京駅の比ではないし、何よりこの大騒ぎ。

混乱に乗じて、他の電車にひょいっと乗ってしまえば、簡単に行方をくらますことができる。


武上は、手を握り締めたまま、今まで自分が乗っていた新幹線の方を向いた。


そこからはまだ、大勢の人が押し合いへし合い、出てきている。



その時、武上は気付いた。

自分と同じようにホームに立ち止まり、新幹線の方を見ている男に。

いや、身体は新幹線の方を向いているが、その視線は下に向けられている。


奥山である。


武上は、その異様な雰囲気が気になり、奥山に近づいた。


「おい、武上、どこいくんだ?爆弾は混乱を起こすための狂言だとは思うけど、

万一ってこともある。さっさと逃げた方がいいぞ」

「ああ。お前は寿々菜さんと山崎さんと一緒に、先に行け」


奥山は武上より新幹線に近い場所にいた。

つまり武上は、奥山の背中を目指し、人の波に逆らって歩くことになる。

自然、人とぶつかり合い、足の速度も遅くなる。


「武上さん!危ないですよ!一緒に逃げましょう!」


寿々菜が慌てて武上の後を追う。

しかし、騒ぎでその声は武上にまで届かない。


「おい!寿々菜!」


武上の後について行った寿々菜を、和彦も追う。


武上が奥山の所に辿り着いたとき、

その武上のすぐ後ろに寿々菜、そして更に後ろに和彦がいた。


「あの、すみません」

「!!なんですか!?」


突然後ろから肩を叩かれ、奥山が飛び上がる。


「もしかして、さっきのアタッシュケースを取りかえそう、と思ってますか?」

「・・・だったら、なんなんですか!?」


奥山が噛み付くように武上に言う。


「どれほど大事な物かは存じませんが、今はここを早く離れた方がいいです。

犯人達も、もう逃げてるかもしれません」

「ほっといてください!」


奥山は再び視線を下に落とした。


「しかし、爆弾が」

「武上さん!」


寿々菜が武上の腕にしがみつく。


「寿々菜さん!?」

「早く、逃げましょう!」

「何やってるんですか、先に・・・」

「いた!!」



え?



と、武上と寿々菜が思う間もなく、奥山が突然駆け出した。

そして、ちょうど新幹線から出てきた、背の高い男にタックルする。


「貴様!」

「うわ!なんだ、お前!」


タックルされた男はふらついて、大きな鞄を地面に落とした。


「何すんだ!!」

「貴様!さっきの、黒づくめだな!?」

「・・・え?」


奥山の剣幕に背の高い男が動揺した。


「な、何、言って・・・そんな訳ねーだろ!何を証拠に!」

「靴だ!」

「え?」

「どうせ、変装して逃げるだろうとは思っていたが、靴は変えないだろうと思ったんだ!」

「く、靴?」


背の高い男は、思わず自分の靴を見た。

白っぽい服装には似合わず、靴だけは真っ黒だ。


そう、さっきの黒づくめの男達がはいていたような黒い靴。


そして和彦は、その声にも聞き覚えがあった。


「おー。その声は間違いなくノッポだな?」

「あ!お前!」

「ほら、その『お前』って言い方。間違いない」

「・・・く!」


和彦が自信満々に頷くと、背の高い男・・・ノッポは、

慌てて鞄を持ち上げ、一目散に走り出そうとした。

が、もちろん奥山も武上もそれを許さない。

必死でノッポの前に立ちはだかった。


「どけ!」

「そうは行くか!その鞄、置いていけ!」

「嫌だ!」


さすがに和彦も「知ーらない」とは言ってられず、

武上と共に、ノッポの行く手をふさいだ。


「おい、ノッポ。全然見えねーだろうけど、こいつは刑事だ。諦めろ」

「け、刑事!?」

「そうそう。ここで逃げたら、公務執行妨害の罪までおまけでついてくるぞ」

「くそお!」


だが、もちろん、じゃあ諦めます、というはずがない。

ノッポは鞄を握り締め、尚も抵抗をする。


その時。


「か、かずひこさぁん・・・」


和彦と武上の後ろから、情けない声がした。

嫌な予感がして、和彦と武上は、恐る恐る振り返る。


「寿々菜!」

「寿々菜さん!!」

「・・・ごめんなさい」


そこには、寿々菜とサングラスをかけた男が立っていた。


もちろん、仲良く手を繋いで立っていた訳ではない。

男は左腕で寿々菜を後ろから抱きしめ、右手の銃を寿々菜のこめかみに当てていた。


周りにはたくさんの人がいるが、誰も彼も逃げることに精一杯で、

この危機的状況に気付いていない。


「道をあけてもらえるかな?」


サングラスの男は穏やかに言った。





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