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第1話 返品

「これ、返品する」


そう言われれば、たいていの場合、言われた方はいい顔をしない。

しかし、今回ばかりはその限りではない。


返品された側の面々は、笑顔で返品されてきたモノを受け取った。


「おかえりなさい!」

「待ってましたよ!」

「まあ、無事でよかったな」


すると「返品されてきたモノ」は不敵な笑みを浮かべて「まーな」と言った・・・






事の起こりは、1時間と少し前の寿すずの寝坊だった。


「スゥ!起きてるか!?」


マネージャーの山崎が、寿々菜の部屋の扉をドンドンと叩いた。

と言っても、ここは寿々菜の家ではない。

京都の老舗旅館の一室である。


誰もが知るトップアイドル、KAZUこと岩城和彦いわきかずひこ 21歳と、

誰もが知らない駆け出しアイドル、スゥこと白木しらき寿々菜 16歳と、

寿々菜ではなく和彦のマネージャー、山崎 30歳と、

警視庁捜査一課の刑事、武上 24歳、

というよく分からない面子で、何故京都へやってきたのかは、

「波乱の京都旅行 前編」を読んで頂くとして、割愛しよう。


ついでにこの4人の複雑極まりない関係も割愛・・・したいところだが、

今後の進行に支障をきたすかもしれないので、これは説明しておこう。


寿々菜と山崎(ちなみに男)は、和彦を巡りライバル同士。

若き刑事の武上は寿々菜に惚れていて、寿々菜が好きな和彦とは犬猿の仲。


早い話が四角関係である。

え?全然複雑じゃない?


まあ、それはともかく。


こんな4人での京都旅行なんぞ、無事に終わるはずが無い。

そして案の定、4人は京都でとんでもない、というか、くだらない事件に巻き込まれてしまった。

しかし一度巻き込まれてしまえば、「もうこんなことも無いだろう」と、

憑き物が落ちたように4人はさっぱりした気持ちで残りの旅行を楽しめた。


が。


そうは問屋が卸さない。

最後の最後で、4人は再び事件に巻き込まれることになるのだが、

そんなこととは露知らず。

低血圧の寿々菜は、外から叩かれる扉の音を布団の中で夢現に聞いていた。


「どーした、山崎。寿々菜の奴、まだ起きないのか?」

「あ、和彦さん。いえ、起きてはいるみたいなんですけどね・・・

全く、あんな低血圧でよくアイドルなんてやってられるな!」


仕事がないから、やってられるのだろう。


山崎が頭を抱えた。


「ああ!新幹線が出てしまう!」

「仕方ねーなあ。おーい、寿々菜!聞こえるか!?」

「・・・ふぇ」


聞こえているのか聞こえていないのか、よく分からない返事が返って来る。


「寿々菜!後10秒で出てきたら、おはようのキスしてやるよ。いーち、にーい、さー」

「おはようございます!!!」


人間、やればできるもんだ。



残念ながら、武上と山崎によって、和彦の約束は全力で阻止されてしまったが、

和彦の機転により、4人はなんとか京都駅に辿り着いた。


「・・・辿り着いただけだけどね」


山崎が、小さくなっている寿々菜を睨む。


「間に合わなかったじゃないか!どうするんだ、スゥ!」

「すみません・・・」

「まあ、まあ。いいじゃないですか、山崎さん」


寿々菜に甘い武上が、山崎をたしなめる。


「寿々菜さんも和彦も山崎さんも、今日は仕事はないんでしょ?

新幹線の1本や2本遅れても、問題ないじゃないですか」

「まあ、いいんですけどね」


山崎が新幹線のチケットを4枚取り出した。

4人とも稼ぎのある身なので、新幹線代も宿泊費も、

自分の分は自分で出している。

ただ、全般の管理はやはり職業柄、山崎が担当していた。


「グリーン車分のお金が無駄になるだけですから」

「・・・」


そう。

武上・山崎、そして悲しいことに寿々菜もグリーン車なんてセレブな車両に乗る必要は全くないが、

「誰もが知るトップアイドル」和彦は、そうはいかない。

グリーン車に乗ったところで顔を隠せるわけではないにしても、

グリーン車に乗る人間達というのは、それなりに立場やらプライドやらがあるもので、

例え芸能人を見ても大騒ぎしないものである。


だから和彦は仕事でもプライベートでも、新幹線はグリーン車を利用している。

特に、以前「ま、いっか」と自由席の車両に乗り、女子高生達に見つかって大騒ぎされて以来、

すっかり懲りてしまった。


もちろん今回の旅行も例外ではない。


「和彦さんと僕は、次の新幹線のグリーン車のチケットを取りますけど、

武上さんとスゥはどうします?」

「・・・」


出発前、寿々菜が「和彦さんと一緒がいいです!」と言うので、

行きも帰りも、寿々菜と武上は和彦たちと同じグリーン車のチケットを取った。


既にそれを無駄にした上に、また新たにグリーン車のチケットを取るとなると・・・

武上は頭の中で収支のバランスを計算した。


しかしそんな計算も、寿々菜の「私ももう一度グリーン車のチケットを取ります!」という一言で、

ご破算となった。


寿々菜とて、少々の稼ぎがあると言っても女子高生の身。

苦しいことに変わりはないが、和彦と一緒にいられる時間はプライスレスである。



こんな愉快な仲間達を乗せた東京行きの新幹線が京都駅を出発したのは、

午前11時10分のことだった。





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