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彩時〜基本色編〜  作者: ビードロくん。


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#65318e

映像の先で繰り広げられる戦いに身体がうずうずして仕方がない様子の鶴見。

何度か森河にバレないように部屋からの退出を試みるが、毎回扉のノブに手をかけた瞬間声をかけられてバレてしまう。


そんな行動を繰り返してしまった今……各々の席で仕事をしていたはずなのに、監視という名目で同じ机で、しかも隣同士で作業をするという体制を取られてしまった。


元々、ヤンチャで暴れるのが大好きな鶴見は最大限のお預けを食らっている状態で、昔ならいつ飛び出してしまうのか分からない状態であった。


そんな鶴見も遥冴と出会ってから二十年、肉体、精神共々成長し、集中……は出来てないものの何とか報告書を残り一割という所まで進める事が出来た。


「つっかれたぁ……はぁ我ながらよく頑張っただろうよ」


鶴見はキーボードから手を離し伸びる。


「終わった様な声を出さないでください、報告書を作り終わってもまだまだやることは沢山あるんですから」


隣から聞こえる声に鶴見はやる気を無くした。


「はぁぁぁぁ……この後、飛ぶの? やばいだろ…死んじゃうよ? 四十七だよ、俺。 四十八だよ?」


鶴見達は報告書を制作し終えたら、その報告書を持って飛行機で国際会議の場に向かわねばならない。

だが、幸いな事に玄德が戦場にいる事で記者会見が開かれないという事でいつもよりも気が楽であるという点。


「……五十手前なのが信じられないくらい、子供ですね」


「それってバカにしてる?」


「いえ? 褒めてるんですよ、いつまで経っても子供心を忘れないのはすごい事ですから」


森河はそう言うが、声色や表情は人を小馬鹿にする時のそれそのもの。


「ふーん……そっか、なら良いや。森河、いまやってる所俺が引き継ぐから、移動準備してもらっていいか?」


急に真面目な事を言い出す鶴見、それに慣れてしまった森河。


「ご自身でお願いします」


「頼むよ、これくらいいいだろ? どうしても交渉は苦手なんだよ」


鶴見が頭を地に着けてでもやりたく無さそうなので、森河は仕方なく引き受ける事にした。


「ありがとうな、森河」


「お礼はいいですから、その代わりに手を動かしてください」


「はーい、頑張りまーす」


鶴見は残り一割、森河のと合わせて二割程残っている仕事を真面目に真剣に取り組む。

鶴見の集中力は長続きしないが、その効果は絶大で集中すれば一時間かかる事を二十五分で終わらせる事出来るほどに。


だが、鶴見の集中力が持つのは十分が限界。

一時間かかる仕事を終わらせる事は不可能だ。


「………? …………?? ……あっ」


鶴見はパソコンの画面を見ながら、顔を顰める。


十分後。


「ギリギリ終わったぁ……はぁ、後はデータを移動させて……これで良し」


作成し終えた報告書のデータを印刷機に送る。

鶴見は席を立って森河の元へ向かう。


「森河。こっちは終わったけど、どんな感じ?」


「たった今、準備が終わりましたので移動を開始する事ができます」


「……ここから、会場までどのくらい?」


「一時間しないくらいですね」


鶴見は顎に手を当てて考える。

移動時間、印刷完了時間、飛行時間……全てを考慮してどのパターンで動くのか導き出す。


「そうか、ならもう移動しちゃうか」


「分からない移動時間に印刷終わりますかね? 今結構な量ありますが……」


「多分、移動時間は伸びるから大丈夫だと思うよ」


森河は飛行機に向かいながら、不安そうにしているが鶴見の発言によって注意がそれた。


「移動時間が伸びるとはどういう事ですか?」


「そのままの意味よ。今、日本の中心であんだけドンパチしてんだから、多少なりとも影響は出る。それに、ミサイル? が飛んでるって話だから遠回りになるだろうし」


鶴見はふざけているように見えてちゃんと考えていた。


「なるほど、確かにそれなら納得です」


少し真面目に話をしながら歩いていると、いつの間にか飛行機に乗り込んでいた。

二人は各々の指定席に座る。


「印刷してきます」


「おう、頼む」


森河は機内に設置してある印刷機を使って、先程死に物狂いで作成した報告書を印刷していく。


「鶴見さん、もう出発しちゃっていいですかね?」


「うーん、あいつ立ってるけど……良いか。

うん、出発しちゃって良いよ」


「分かりました、掴まってくださいね」


「おう、わかった」


鶴見の指示でパイロットのガウラ隊員は飛行機を飛ばす。

飛行機が離陸するのと同時に、鶴見は自分の後ろの方から何か声が聞こえた気がしたが、気にしたらいけない気がして無視した。


飛行機が安定し出すと、鶴見の正面にアタッシュケースを持ちながら森河が睨みを利かせながら腰掛けた。


「……印刷、終わったのか?」


「はい、全部終わりました。 印刷の方は安定して終わりました」


森河は笑顔で報告する。

その笑顔にはうっすら怒りの感情が伺えたが、鶴見は気にしない事にした。


はずだったが森河の熱い視線に耐えられず、冷凍庫からご機嫌取りアイスを取り出す。


「森河? まだまだ時間掛かるしアイスでも食べながらゆっくり移動しようか」


鶴見はアイスを渡す。

それを笑顔で受け取る森河は目を見開いて驚く。


森河に渡したアイスは鶴見の秘策、アイテム。

世界で幾度となく賞を勝ち取り、世界中の人が認める世界最高峰のカップアイス。

その名も……『黒香ミルク』

作り手は未だ判明していない幻のアイス。

世間では、

「賞を掻っ攫って行く、くせに何処にも販売してない!」


「食べられるところはあるみたいだけど、その後の情報がどこにも転がってない」


「食べたいのに、食べられない!」


「「美味しいかった!」」


……等のこと言われてしまっている。

どんな人でも喉から手が出るほど欲しがる逸品。


ちなみに黒香ミルクを作り出したのは、他でもないパレットの管理者、かおりだったりする。


「鶴見! なんでここにコレがあるんですか!」


「まぁまぁ、落ち着きなよ。アイスでも食べて___ゆっくりしなよ」


森河を落ち着くように言いながら鶴見は黒香ミルクを口に運んだ。


『黒香ミルクはミルクアイスなのに、黒く輝きを放つ。

ひとくち、口に含むともう後戻りはできない……鼻に抜けるバニラの香りが、見た目のインパクトと味のギャップをさらに際立たせる。

口触りはまるでキャラメルを食べているのではないかと、錯覚してしまうほど濃厚。

一般人が作る至高の逸品を是非堪能してください』


森河は商品説明を口に出して読み上げ一旦落ち着いたかと思えば。


「……いやいや、落ち着ける訳ないですよ! どこにも販売してない、食べれる場所も分かってない……それなのに今目の前に二つの黒香ミルクのカップアイスが存在するんです! ……落ち着ける要素ないですよ!」


早口で捲し立てる。

そんな興奮冷めぬ森河をいない者として扱う鶴見は、一人アイスを堪能していると……


飛行している横、左翼スレスレで爆発が起きた。


「鶴見さん! 森河さん! 大丈夫ですか!」


機内に居る、隊員が叫ぶ。


「大丈夫です。それよりも、何があったんですか」


森河はさっきの興奮が嘘かのように冷静になり、状況を把握しようとする。


「お前ら、全員先頭に移動しろ……早く」


鶴見は飛行機の最後尾を気にしながら指示を出す。

その雰囲気に森河達は何も言わずに指示を従う。操縦室前まで移動する。


「鶴見さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫かどうかはこれから決まるさ、少なくともこの飛行機は落ちねぇよ……さぁお出ましだ」


鶴見の声と共に扉が開き、一人の女性が機内に侵入してる。


「そうか……死者が復活するってんなら、てめぇがここに居る来るのも不思議じゃねぇか……メデューサ」


鶴見が名前を呼ぶと、微笑みを浮かべる女。


「会いたかったわ、マイダーリン。でも悲しい……あなたの後ろにいる女の人が見えるの」


笑顔だった表情は一気に真顔に変わったかと思えば不敵な笑みを浮かべる女。


「出来れば、もう会いたくはなかったがな……仕方ない」


『護絶ッ!』


鶴見が心の中でそう叫ぶと、鶴見の身体に変化が現れる。

ホワイト・リリー色に輝くアーマーが鶴見の左半身を覆う。

鶴見が左手で機体に触れると、飛行機全体に薄い幕が張られる。


「酷いじゃないの? やっと、感動の再会ができたと思ったのに……仕方ないわねぇ…………痛くしないからね?」


女は自身の右目を潰しながら引っこ抜く、血が流れ、吹き出る。

抜き終わると、女の右手には石膏出できた剣が握られていた。


「メデューサ……行くぜ」


「えぇ、来て。あなたを再び私のモノにする為に……」


鶴見は女が話終える前に、アーマーの爪で攻撃する。

女は剣で攻撃を受け止めそのまま左拳を鶴見目掛けて飛ばす。


鶴見は右足を軸に左足で後ろ回し蹴りで対応する。


「言わね、とってもかっこいいわ……あら折られちゃったか。ならこっちも使うしかないわね」


鶴見の爪攻撃を受け止めていた剣は、回し蹴りの影響でそのまま折られてしまっていた。


女は今度は左目を潰しながら引っこ抜く。

今度は左手に石膏で出来た刀が握られている。


「やっぱり、金属は良いよねぇぇ…ズルいよねぇ……だって石より頑丈だし、切れるし、凄いよねぇ」


女は折れた剣を修復し、右手に剣、左手に刀の二刀流になる。

続けて女は自身の長髪を切る。

切られた髪はすぐに元の長さに戻るが、その姿は無数の蛇だった。

床に落ちた切られた髪もうにょうにょ動き出し、子蛇に変化する。


「相変わらず、気持ち悪い見た目だな」


女は髪が蛇に変化し足元には子蛇か群がり、両目は醜く引っこ抜かれ、血液を流し続けている。


「ありがとう、やっぱりマイダーリンから褒められるのがいっちばん……嬉しいわ」


女はそう言いながら、ゆっくり鶴見に近づく。

鶴見が女をメデューサと呼ぶのは、過去にあった出来事とこの見た目から来るものである。


「……一瞬で蹴りつけてやる」


鶴見は構える。

すると、右半身を菜の花色に輝くアーマーが装着される。


その光景を見た女は、待ってましたと言わんばかりの表情で醜い瞳を赤く光らせる。


鶴見が女に攻撃するまでに掛かった時間は五秒。

この五秒が勝敗を分ける。


三秒経ち、鶴見の攻撃がメデューサを捉えた。


「___ッ!」


メデューサは困惑した。

石化が発動しない。


鶴見の力を熟知してるメデューサは、その隙を着き飛行機事、墜落させるつもりだった。

メデューサの石化は障害物すらも貫通する。

つまり、飛行機の内部……機内で逃れる術はない。


そのはずなのに、能力を発動しても何一つ石化しない。


五秒後、メデューサの身体に傷がつけられ血が流れる。

久方ぶりに感じる痛みという感覚に、快楽を感じてしまうメデューサ。


「…………気持ちいいぃぃ……」


メデューサがそう呟くと、足元から次第に石になっていく。


「この二十年で……弱点を克服したのね……偉いじゃない……」


鶴見の成長を体験し、メデューサは賞賛する。


「攻めと……護りを、一度に出来なかったのに…流石だね。それでこそ私が愛し…たマイダーリン……」


メデューサの言葉を何も言わずに黙って聞く鶴見。


「でも……優しいままなのね…克服してない弱点」


鶴見がメデューサにつけた傷は、身体の内部だった。

表面は、皮膚は傷つけずにメデューサを無力化していた。


「やっぱり……いい男ね…………最後まで、女のプライドを守ってくれるなんて」


メデューサは石化していく、自身の身体を隅々まで撫で回しながら言う。


「口酸っぱく怒られたからな……女性は美しくあり続けたい、感情の大きい小さいはあれど……ってね」


口を開く鶴見。


「見る目あったんだね…私……世界中何処探しても……あなたより…私を愛せる人は……居るはずがないもんね」


メデューサは柔らかい笑顔で鶴見の瞳を見つめながら言う。


「当たり前だろ、最後まで血を流して一緒に居るくらいだからな」


鶴見はメデューサの瞳を見つめるが、目が合うことは無い。


「さようなら……マイダーリン」


メデューサは完全に石化した。


「今度そこ、さよならは言わねぇよ。別れはしても、次が無くてもだ…………また会おう」


鶴見は飛行機の扉を開き、メデューサの石像を海に落とす。

宙を舞い、落下していく石像はホワイト・リリー色の幕がうっすら張ってあった___。



「はぁ……はぁ……きり姉、ここ姉……大丈夫?」


息を切らしながら、緒牙は二人の姉に合わせて走る。


「うん、あたしは大丈夫」


「私も……はぁ…疲れたくらい」


心生と喜彩鳴も息を切らしながら答える。


一体なぜ、三人が走っているのかと言うと遡ること十五分程度までの出来事。


緒牙達はメモリ号の難しい操作に苦戦しながらも順調にガウラを目指し飛行していた。


移動している間、操縦している緒牙とそのサポートをしている妃乃以外は暇を持て余していた。

メモリ号の内部を探索したり、勝手にココアや紅茶を作ったりしながら時間を潰していた。


すると突然、メモリ号の警報が鳴る。


「なになに」「一旦戻ろう!」


「みんな席について!」


席を離れ暇を潰していた子達は騒ぐ事はせずに冷静に対応する。


「緒牙、警報の正体を調べるね」


「うん、お願いひの姉」


操縦で手一杯の緒牙の代わりに、妃乃が説明書を見ながら機器を操作し警報がなった理由を調べる。


「…………えっ?」


「どうかしたの?」


「調べても、原因が分からないの。何度やり直しても、意味不明な単語が表示されるだけで……ほら」


妃乃はモニターの映像を緒牙の前に表示する。


そのには、黒背景に赤と白の文字……いや見方を変えれば、暗号や記号。

もしくは数字にも見えるような不可解な物が並んでいた。


「なんだ、これ。見た事がない……」


緒牙はモニターに表示された謎の物を見た事により、興味を示した。

知らない知識、未知の領域、緒牙の知識に対する探究心が揺さぶられた。


妃乃も緒牙もモニターの画像を解明するために、集中してしまい正面から飛んで来る、ミサイルに気づかなかった。


「…………ッ! 緒牙、前!」


「んえ? ___ッまずい!」


妃乃の声を聞き、緒牙はメモリ号を勢いよく操縦する。

そのおかげが、直接のヒットは避けることは出来たが、そのミサイルが羽を擦った事により思うように操縦が出来なくなってしまった。


「くっ! …………思うように動かない」


メモリ号の全長は二千メートル程ある為、些細な不具合で危険を招くことになる。


「緒牙、緊急で着陸しよう。確か、水もイケるって言ってたら水の上に」


「分かった、みんなに伝えてきて!」


妃乃は操縦室から出て、席に座ってるみんなに話をする。

状況を知ったみんなは、緒牙の腕に絶大の信頼を寄せているので、変に騒いだりしない。


メモリ号が左右に不安定に揺れる。

次第に揺れが大きくなる。


「次はなんだ!」


緒牙は今のメモリ号状態に疑問符を浮かべる。

すると、操縦室の窓に目を青く光らせたロボット兵の姿があった。


「___ッ! なんだこいつ…」


ミサイルがメモリ号の羽を擦めた時、ロボット兵がメモリ号の上に乗り売っていた。


メモリ号全体から金属を叩く様な、鈍い音が響く。


流石にこれには、多少の恐怖感を覚える姉弟達。


「なんなんだよ! こいつら___ッ!」


操縦室の窓にヒビが入り出しだ。


操縦しなければいけない緒牙は手が離せずに、ヒビが少しづつ広がっていく様子をただ見つめるしか出来なかった。


いつ割れるのか分からない恐怖、操縦不可になってしまうのかという恐怖が緒牙に押し寄せる。


次第に息が上がり出す……すると、聞き覚えるある声が無線から聞こえた。


〈おい! お前ら大丈夫か!〉


〈あなたは、さっきの……〉


起動準備を手伝ってくれた謎の声の人からまた連絡が入る。


〈今、メモリ号から危険信号を受信したんだが、どういう状況なんだ! 簡単で良いから説明しろ!〉


その声を、少しの安心感を覚え緒牙は落ち着きを取り戻す。


〈ふぅ……メモリ号の右翼にミサイルが被弾、機体の外には、機械……ロボットの様な者がメモリ号の内部に侵入しようと攻撃をしてきています…………操縦室の窓には既に数箇所ヒビが入りいつ割れてもおかしくない状況です〉


緒牙は出来るだけ簡潔に、流れを説明する。


〈なに? ロボットだと……まずいな。お前、今から指示する手順を試してくれ〉


〈はい! 分かりました〉


緒牙は謎の声の指示に従い機器を操作していく。

操縦と並列で行っているので、作業ペースが若干遅れるが、今出来る、丁寧と迅速な作業を行う。


〈どうだ、何か変わったか?〉


〈はい、さっきより操縦のしやすさが段違いです〉


〈そうか、なら次の工程だ〉


〈はい!〉


操縦の安定を取り戻したあとすぐに次の作業に取り掛かる、防衛システムの起動だ。

メモリ号の防衛システムは本来なら、カードキーをある場所に差し込んでボタンのロックを解除し押すだけなのだが、ロボット兵がメモリ号の外部を傷つけた事により、その機能が一部停止してしまっていた。


「これで、防衛システムが起動するは___ッ!」


防衛システムを起動させるラストの工程に取り掛かるタイミングで、窓ガラスが割れロボット兵の腕が侵入し、そのままの勢いで操縦パネルを破壊し出した。


操縦パネルが破壊された事により立て続けに、メモリ号に不具合が起きだした。

緒牙は何とか操縦機能を少しだけ回復させる事に成功するが、湖に墜落してしまった。


そして、今に至る。

墜落したあと九人全員で動くより少数で動く方が良いと判断し、三人づつで別れて逃げる事にした。


最終目的地をガウラ本拠地に設定し別行動を開始した。


緒牙は次女の心生と三女の喜彩鳴と行動を共にしていた。


「とりあえず……ここまで来れば……歩いても大丈夫だと思うけど……」


ロボット兵の追っ手を巻くことに成功した。


ガウラの本拠地までまだ少し距離がある為、しばらく歩く必要がある。


「みんなは大丈夫かな……」


「大丈夫だとは、思うけど深月が不安だよね」


深月とは天由姉弟の一番下の女の子だ。


「大丈夫だよ、きっとね」


別れたみんなの心配をしながら歩いていると、突然発砲音が響く。


「あぶねっ!」


発砲された銃弾は緒牙の足元に着弾した。

殺害を目的として攻撃ではなく、あくまでも警告の様な攻撃だった。


「あっ! 良かったぁ……そのまま進んでたら間違って殺しちゃう所だったよ」


緒牙達に気さくそうな男が話しかける。


「あなたは?」


「僕? 僕はね……名乗る程の者じゃないよ。だからここでは、金城と名乗っておくね」


金城と名乗る男は緒牙達に銃口を向ける。

緒緒は二人の姉を自分の背後に隠すように庇う。


「いいねぇ! お姉ちゃん思いの良い弟だね?」


男は楽しそうに云う。


「緒牙、大丈夫なの?」


「きり姉。ここ姉、大丈夫かどうかは分からないけど、俺の後ろから動かないでね」


足が震えそうになりながらも二人を庇う。


「そうだねぇ、出来るなら無傷でって話だけど……こんなに素敵な絆を見せられたら、傷つけたくなっちゃうよ……」


男は不気味な笑みを浮かべ、引き金を引いた。

二丁ダブルバレルの銃口から四発の弾が発射される。


三人は目を瞑り死を覚悟する。


だが、しばらくしても銃弾が三人に当たることは無い。


「誰だ……誰だ! 僕の…僕のお楽しみを邪魔するのは!」


男は声を荒らげながら、銃を連射するがやはり緒牙達にその弾が届く事はない。


流石の緒牙達もおかしいと思いまぶたを開ける。


「……えっ? 誰?」


緒牙達の前に立っていたのは、謎の男。

黒色ロングコートに身を包んだ男が三人の盾になるように佇んでいた。


「毎回、毎回……知らん奴だ、誰だなんだ言いやがって、メモリ号の手順を教えてやったろうが」


「あなたが! また俺達を助けてくれたんですか!」


声と内容を聞き緒牙は確信する。

二度も窮地を救ってくれた無線の男であり、そして自分達の味方だと言うことを。


「たく、親子揃って……面倒事に巻き込まれやがって」


「えっ? ……もしかしてパパの事を知ってるんですか?」


喜彩鳴が無線の男に尋ねる。


「知ってるも何も生まれてから、ずっと知ってるよ」


「生まれてから? あなたは何者なんですか……」


正体を聞く緒牙。

無線の男が口を開こうとした時、銃声が再び響いた。


「てめぇら、何人を無視してんだ。お前は誰だ! 計画書にも報告書にもなかった……何故邪魔をする! 俺のお楽しみを!」


興奮状態の男は銃に弾を装填しようとするが、怒りという感情に支配されているせいか、しっかり装填出来ていない。

地面に弾を落としながら、装填を続ける。


「……お前らよく見ておけよ、アレが人を…プライドを、人生を捨てた………醜い姿に変わるのを」


無線の男の言葉に疑問符を浮かべる三人、だがその言葉を聞き入れ興奮状態の男を見つめる。


「はっ……はぁ……はっ……はぁ」


呼吸の仕方がおかしくなっていく男。

目も充血し、身体の震え大きくなっていく、次第に獣の様な唸り声を上げ始める。


「…………何、あれ」


緒牙達は目の前で一人の人間が"異型の姿"に変化していく様を見て言葉を失う。

筋肉が肥大化し、体長が二、三倍に大きくなっていく。

地面に落ちた弾を拾う事も、銃を握り続ける事も出来なくなるほど、身体が変化していく。


「ウォ……カファ……」


何が言葉を発しているが、何も伝わってこない。


「性蝕者……つまりあいつは既に死人なんだ」


「性蝕者、聞いた事がありません」


「死体に、特別な力を付与する。そうすると死体は動き出し一見生き返ったように見えるが、副作用として……人じゃなくなる」


男は三人に説明するように話す。


「グゥゥゥ……ヴォオオオオオオ!」


完全に人じゃなくなった男は四人に襲いかかる。


「……はぁ」


『記間』


男がそう唱えると、男の服装が変化する。

黒色は灰色変わり、ロングコートはローブに変わる。


男の右手には万年筆の様な見た目の槍が現れる。


槍を掲げ、宙に何かを書く動作をする。

すると黒色……いや、黒が褪せた色のインクが姿を表す。


「せめてもの情だ。貴様が生きた証を、ここに居る全員で拝見してやる」


槍の一番下を持ち、リーチを最大にする。

先からはインクが出ている。

異型の男がそのインクに触れると、叫び声をあげる。


「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


異型の男の身体に無数の傷がつく。

そしてその傷から大量の文字が溢れ出でくる。


やがて男の身体はしぼみ、小さくなり、跡形も消え去った。


「これが、この男の人生か……なかなか壮絶だな。いい力になりそうだ」


男の身体から溢れ出た文字達は、灰色のローブに付着し次々と文章が組み立てられる。


「下人逆転……ふっ、コイツらしいタイトルだ」


ローブに全ての文字が付着し文章が完成すると、大きくタイトルが現れる。


「……なんなんだ…一体何が…どうなってんだ」


「喜彩鳴……」「心生……」


「「この人、本当に大丈夫なのかな?」」


目の前で起きた出来事が信じられない三人。

いや、正確には理解しようと努力はしているが、あまりの情報量の多さに頭が働かないのだ。


「お前ら、怪我は無いだろう。急ぐぞ、ガウラの本拠地までもうすぐだ」


「は、はい。助けてくださりありがとうございました」


「「ありがとうございます」」


目的地まで歩み始めると緒牙達は男に感謝の言葉を述べる。


「礼なんて要らん。……どうせからも一緒にいることになるんだからな…」


「ん? 今なんて言いました?」


男の言葉が聞き取れなかった三人は、なんて言ったのか聞き返すが、一向に話してくれない。


しばらく歩いていると突然男が振り返る。


「うぉっ……どうかしたんですか?」


「オウガだ」


「「え?……」」


「俺の名前は、オウガだ。」


男の突然の自己紹介に困惑し、名乗った名を聞き、耳を疑った。


カラーコード:本紫色

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