表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/32

継承の時

引き継ぎお楽しみください


新アルカディア帝国との平和条約締結から五年後。

リヒテンブルク王国は、かつてない繁栄を迎えていた。

人口:三十万(ヴェストマルク領と周辺小国の編入により)

領土:大陸北西部の四分の一

軍事力:常備軍三万、海軍二百隻

経済力:大陸最大の貿易国

そして――

エドヴァルト王(四十歳)は、変わりつつあった。


王宮、執務室。

エドヴァルトは、書類を読みながら――

咳き込んだ。

ゴホッ、ゴホッ。

「陛下!」

侍医ヴィルヘルムが、駆け寄った。

「また、咳が……」

「大丈夫だ」

エドヴァルトは、手を振った。

だが、手には血がついていた。

「陛下、これは……」

ヴィルヘルムは、顔色を変えた。

「喀血です。すぐに、休まれるべきです」

「まだ、仕事が――」

「陛下!」

ヴィルヘルムは、珍しく強い口調で言った。

「このままでは、命に関わります」

エドヴァルトは、ため息をついた。

「わかった……」


その夜、寝室。

マリア王妃(三十五歳)は、夫の手を握っていた。

「あなた……無理をしすぎです」

「すまない」

エドヴァルトは、妻の手を握り返した。

「でも、やらなければならないことが多くて」

「もう、他の人に任せてください」

マリアは、涙を浮かべた。

「フランツ提督も、ハインリヒ様も、優秀な人たちです」

「そして――フリードリヒも、もう十六歳です」

エドヴァルトは、天井を見つめた。

「そうだな……」

「フリードリヒに、そろそろ任せるべきか」


翌朝。

エドヴァルトは、息子フリードリヒを呼んだ。

「父上、体調は……?」

「心配するな。少し疲れただけだ」

エドヴァルトは、隣の椅子を指した。

「座れ」

フリードリヒ(十六歳)は、緊張した面持ちで座った。

背は父を超え、顔立ちも凛々しくなっている。

「フリードリヒ。お前は、王立軍事学校を首席で卒業した」

「はい」

「戦術、戦略、政治学、経済学――すべて優秀な成績だった」

「父上のご指導のおかげです」

「いや」

エドヴァルトは首を振った。

「お前自身の努力だ」

彼は、一通の文書を差し出した。

「これは……?」

「摂政任命状だ」

フリードリヒは、目を見開いた。

「摂政……?」

「ああ。今日から、お前に国政の一部を任せる」

「父上、まだ私には早すぎます!」

「早くはない」

エドヴァルトは、真剣な目で言った。

「俺がお前の歳の時――すでに、シルバータールで一万の敵と戦っていた」

「それは……」

「お前なら、できる」

エドヴァルトは、息子の肩を掴んだ。

「そして――いずれ、お前が王になる」

「その準備を、今から始めるんだ」


その日から。

フリードリヒは、国政に参加し始めた。

最初は、小さな決定から。

地方の税率調整。

小規模な公共事業の承認。

貿易協定の細部の検討。

だが、徐々に――

重要な決定も任されるようになった。


ある日。

南部の二つの領主が、領地境界線を巡って対立した。

従来なら、エドヴァルトが裁定する。

だが――

「フリードリヒ、お前が解決しろ」

「私が、ですか?」

「ああ。どう解決する?」

フリードリヒは、地図と報告書を読んだ。

両領主の主張を聞き、証拠を検討し――

「わかりました」

フリードリヒは、決断した。

「境界線を、中間点に引き直します」

「ただし――」

彼は、付け加えた。

「係争地の税収は、五年間、両領主で等分する」

「そして、その土地に共同で学校を建て、両領地の子供たちが学べるようにする」

エドヴァルトは、感心した。

「なぜ、そう判断した?」

「どちらか一方の主張を全面的に認めれば、不満が残ります」

フリードリヒは説明した。

「でも、中間点なら公平です」

「そして、学校を建てることで――」

「次の世代が、協力するようになる」

「そうです」

エドヴァルトは、微笑んだ。

「よくやった」

「父上なら、どうされましたか?」

「……同じだ」

エドヴァルトは、息子の頭を撫でた。

「お前は、良い王になる」


だが、課題もあった。

ある日、軍の予算会議。

フリードリヒは、提案した。

「軍事費を、二割削減します」

会議室が、ざわめいた。

「殿下! それでは、軍の維持が!」

「平和な時代です」

フリードリヒは、冷静に答えた。

「大規模な戦争の可能性は低い。ならば、その予算を教育と産業に回すべきです」

エドヴァルトは、黙って聞いていた。

軍の将校たちが、反対する。

「しかし、備えがなければ――」

「備えは必要です。だから、二割削減。全廃ではありません」

フリードリヒは、譲らなかった。

会議後。

エドヴァルトは、息子と二人で話した。

「フリードリヒ、お前の判断は――間違っていない」

「本当ですか?」

「ああ。平和な時代に、過剰な軍備は不要だ」

「でも」

エドヴァルトは、付け加えた。

「将校たちの反発も理解しろ」

「彼らは、命を懸けて戦ってきた。軍こそが国を守ると信じている」

「だから――」

エドヴァルトは、息子に教えた。

「削減する前に、彼らと話せ」

「なぜ削減が必要か、丁寧に説明しろ」

「理解させてから、実行しろ」

「……はい」

フリードリヒは、頷いた。

「まだまだ、学ぶことが多いです」

「当然だ。俺も、まだ学んでいる」


一年後。

フリードリヒは、着実に成長していた。

政治的判断力。

人々を説得する力。

そして――

責任感。

ある日、地方で洪水が起きた。

数百名の被災者。

フリードリヒは、すぐに現地に向かった。

「殿下! 危険です!」

「構わない。民が苦しんでいるのに、宮殿にいられるか」

フリードリヒは、自ら被災地に入った。

泥まみれになりながら、救助活動を指揮した。

食糧を配り、仮設住宅を建て、復興計画を立てた。

その姿を見た民衆は――

「次の王は、素晴らしい方だ」

「エドヴァルト王に似ている」

「いや、もっと優しいかもしれない」


二年後。

エドヴァルトの体調は、さらに悪化していた。

咳は止まらず、時折、高熱が出る。

侍医ヴィルヘルムは、深刻な顔をしていた。

「陛下……肺の病です」

「治るのか?」

「……難しいでしょう」

ヴィルヘルムは、正直に答えた。

「あと、どれくらいだ?」

「わかりません。一年かもしれないし、五年かもしれない」

エドヴァルトは、静かに頷いた。

「わかった」

彼は、決断した。


その日の夕刻。

エドヴァルトは、王宮の大広間に主要な人物を集めた。

王族、重臣、将校、そして民の代表。

全員が、緊張した面持ちで待っている。

エドヴァルトが、演台に立った。

「皆に、重要な発表がある」

彼は、深く息を吸った。

「私は――王位を退く」

会場が、凍りついた。

「陛下!」

「何を仰っているのですか!?」

ざわめきが広がる。

エドヴァルトは、手を上げて静めた。

「聞いてくれ」

「私は、この二十年間、王として戦ってきた」

「シルバータールで、ヴェストマルクで、海で――」

「多くの戦いを経験した」

「そして、平和を勝ち取った」

彼は、会場を見渡した。

「だが、もう私の時代は終わった」

「次の世代に、譲るべきだ」

「フリードリヒ」

息子を呼んだ。

フリードリヒは、震えながら前に出た。

「お前は、この二年間、よくやった」

「政治も、外交も、民政も――すべて学んだ」

「もう、お前は準備ができている」

エドヴァルトは、自らの王冠を外した。

そして――

フリードリヒの頭に、載せた。

「リヒテンブルク王国、第二代国王――フリードリヒ一世」

会場が、静まり返った。

そして――

一人が、拍手を始めた。

次に、もう一人。

やがて、全員が拍手した。

拍手、拍手、拍手。

フリードリヒは、涙を流していた。

「父上……私に、できるでしょうか」

「できる」

エドヴァルトは、息子を抱きしめた。

「お前は、俺よりも優しく、賢く、そして――平和を愛している」

「お前なら、この国をもっと良くできる」


退位式。

正式に、フリードリヒ一世が即位した。

エドヴァルトは、上皇として――

王宮の別館に移った。

だが、政治には口を出さない。

フリードリヒに、全てを任せた。


退位から一ヶ月後。

エドヴァルトは、ブライテンハーフェンの港を訪れていた。

『インペラトール』が、停泊している。

「久しぶりだな」

彼は、甲板に立った。

かつて、この艦で新アルカディアまで航海した。

平和を勝ち取るために。

「陛下――いえ、上皇陛下」

フランツ提督(四十五歳)が、現れた。

「どうされましたか?」

「少し、懐かしくなってな」

エドヴァルトは、海を見た。

「フランツ。お前は、まだ海軍にいるのか?」

「はい。フリードリヒ陛下から、続投を要請されました」

「そうか」

「上皇陛下は……後悔していませんか? 退位を」

「いや」

エドヴァルトは、微笑んだ。

「むしろ、清々しい」

「ずっと、重荷を背負っていた」

「でも、今は――自由だ」


その夜。

エドヴァルトは、マリアと二人で夕食を取った。

小さな部屋。

質素な食事。

だが、穏やかだった。

「あなた、幸せですか?」

マリアが尋ねた。

「ああ」

エドヴァルトは、妻の手を取った。

「今が、一番幸せかもしれない」

「戦争もない、政治の重圧もない」

「ただ、お前と一緒にいられる」

マリアは、涙を流した。

「良かった……」


数ヶ月後。

フリードリヒ一世は、順調に国を治めていた。

彼の政策は、父とは少し違っていた。

より福祉を重視。

より教育を重視。

より平和的。

だが、民は支持していた。

「新しい王は、素晴らしい」

「優しく、公正だ」

エドヴァルトは、その報告を聞いて――

満足そうに微笑んだ。

(よくやっている)

(俺より、いい王になるかもしれない)


ある日。

エドヴァルトは、城下町を一人で歩いていた。

簡素な服を着て、誰も彼が元王だとは気づかない。

市場で、人々の会話を聞く。

「パンが安くなったな」

「新王陛下の政策だ」

「教育費も無料になったらしい」

「いい時代になった」

エドヴァルトは、静かに微笑んだ。

(これが、俺が望んだ未来だ)

(戦争ではなく、平和)

(貧困ではなく、繁栄)

(恐怖ではなく、希望)

彼は、空を見上げた。

青い空。

白い雲。

(滅亡寸前の小国から、ここまで来た)

(俺一人の力じゃない)

(みんなの力だ)

エドヴァルトは、静かに歩き続けた。

リヒテンブルク王国の街を。

自分が命を懸けて守った、この国を。

そして――

その未来を、次の世代に託した。

彼の戦いは、終わった。

だが、リヒテンブルク王国の物語は――

これからも、続いていく。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ