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滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


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26/32

新世代の台頭

引き継ぎお楽しみください

ハプスブルク帝国内戦終結から二年後。

リヒテンブルク王国、王立軍事学校。

この学校は、エドヴァルトが五年前に設立した、大陸初の本格的な士官養成機関だった。

貴族だけでなく、平民の子弟も入学できる。

成績優秀者は、王国の将校として登用される。

そこで、一人の若者が頭角を現していた。

「全員、集合!」

教官の声に、百名の士官候補生が整列する。

その最前列に立つのが――

ヴォルフガング・シュタイナー、十九歳。

農民の息子だが、抜群の成績で首席入学を果たした。

「シュタイナー候補生!」

「はっ!」

「今日の戦術演習、お前が指揮を取れ」

「了解しました!」

ヴォルフガングは、地図を見ながら仲間に指示を出した。

「第一小隊は右翼から迂回。第二小隊は中央で陽動。第三小隊は左翼から包囲」

「敵の補給線を断つことを最優先に。正面衝突は避けろ」

まるで、エドヴァルト王の戦術思想をそのまま体現しているような指揮だった。

演習は――

圧勝だった。

「見事だ、シュタイナー」

教官が、満足そうに言った。

「お前は、王国の未来を担う逸材だ」

だが、ヴォルフガングは冷静だった。

「まだまだです。陛下の足元にも及びません」


同じ頃。

王立技術研究所では、新世代の技術者たちが活躍していた。

その中心にいるのが――

エリカ・ヴァイス、二十三歳。

女性技術者という、この時代では極めて珍しい存在。

「エリカ、また徹夜か?」

同僚のヴィルヘルムが、心配そうに声をかけた。

「ええ。もう少しで、完成するの」

彼女が取り組んでいるのは――

火薬の改良だった。

「従来の黒色火薬より、三割増しの威力。しかも、煙が少ない」

「本当か!?」

「理論上は。後は、実験で確認するだけ」

エリカは、試験管を振りながら言った。

「これが成功すれば、銃の性能が飛躍的に向上する」

「だが、危険だぞ。カール・ベンツのことを忘れたのか?」

「忘れてない。だからこそ、安全に細心の注意を払ってる」

エリカは、真剣な目で言った。

「私は、技術で王国に貢献したい。女だからって、諦めたくない」


その日の午後。

エドヴァルト王(三十歳)は、王立軍事学校を視察していた。

「陛下、こちらが今年の首席、シュタイナー候補生です」

教官に紹介され、ヴォルフガングが敬礼した。

「リヒテンブルク王国軍士官候補生、ヴォルフガング・シュタイナー、謹んで陛下に拝謁いたします!」

エドヴァルトは、若者を見た。

引き締まった体。

鋭い目。

だが、その目には――傲慢さではなく、真摯さがあった。

「シュタイナー候補生。君の戦術演習の報告を読んだ」

「恐縮です」

「補給線重視、正面衝突回避――私の戦術思想を、よく理解している」

「陛下の著書『小国の生存戦略』を、何度も読み返しました」

エドヴァルトは、微笑んだ。

二年前、彼は自身の戦争経験を一冊の本にまとめていた。

それは軍事学校の教科書となり、大陸中で読まれている。

「だが、教科書通りでは、実戦では勝てない」

「承知しております」

ヴォルフガングは、真剣な目で言った。

「陛下の戦術は、基礎です。そこから先は、自分で考えなければならない」

「良い答えだ」

エドヴァルトは、満足そうに頷いた。

「卒業後は、どの部隊を希望する?」

「銃兵隊を」

「理由は?」

「火器が、戦争の未来だと信じています」

エドヴァルトは、この若者が気に入った。

「期待しているぞ、シュタイナー」


翌日。

エドヴァルトは、王立技術研究所を訪れた。

エリカ・ヴァイスが、新型火薬の実験を行うと聞いたからだ。

「陛下、危険ですので、こちらの壕に」

防護壕の中から、エドヴァルトはエリカを見た。

若い女性が、一人で実験装置を操作している。

「あれが、エリカ・ヴァイスか」

「はい。天才です」ヴィルヘルムが説明する。「父親は鍛冶職人でしたが、彼女は独学で化学を学びました」

「女性技術者を雇うことに、反対はなかったか?」

「ありました。ですが、陛下が『能力があれば、性別は問わない』と仰ったので」

エドヴァルトは、頷いた。

確かに、自分はそう言った。

この国では、実力主義を貫く。

それが、小国が生き残る道だ。

「実験、開始します!」

エリカの声が響いた。

彼女は、慎重に新型火薬に点火した。

ドォン!

爆発。

だが、従来の黒色火薬とは明らかに違った。

煙が少ない。

音が鋭い。

威力が強い。

「成功……成功した!」

エリカが、歓声を上げた。

エドヴァルトは、壕から出て彼女に近づいた。

「見事だ、ヴァイス技師」

「あ、陛下!」

エリカは、慌てて敬礼した。

「素晴らしい成果だ。この火薬を、何と名付ける?」

「え、えっと……」

エリカは、少し考えて言った。

「無煙火薬、と」

「良い名だ」

エドヴァルトは、微笑んだ。

「この火薬を、すぐに量産化する。君を、プロジェクトリーダーに任命する」

「本当ですか!?」

「ああ。能力がある者は、性別に関係なく活躍すべきだ」

エリカの目に、涙が浮かんだ。

「ありがとうございます……!」


一ヶ月後。

無煙火薬の量産が始まった。

それと同時に、新型の火縄銃――いや、もはや「ライフル銃」と呼ぶべき武器が開発された。

・ライフリング(銃身内の螺旋溝)による高い命中精度

・無煙火薬による強力な威力

・改良された装填機構による高速装填

これは、従来の火縄銃を遥かに凌駕する性能だった。

エドヴァルトは、最初の百挺を――

ヴォルフガング・シュタイナー率いる、新設の「特殊銃兵隊」に配備することを決めた。


訓練場。

卒業したばかりのヴォルフガング(現在、少尉)は、百名の精鋭を率いていた。

全員が、新型ライフル銃を持っている。

「いいか!」

ヴォルフガングが叫ぶ。

「この銃は、三百メートル先の敵を正確に撃てる! だが、それだけじゃ意味がない!」

彼は、戦術図を示した。

「我々は、散開隊形で戦う。密集陣形は捨てる」

兵士たちが、驚いた顔をした。

散開隊形――つまり、バラバラに広がって戦う――は、この時代の常識に反していた。

「しかし、少尉。それでは指揮が取れないのでは?」

「取れる」

ヴォルフガングは、笛を吹いた。

ピィー、ピピピィー。

兵士たちが、笛の合図で動く。

集合、散開、射撃、前進――

すべて、笛の合図で。

「声での命令は、敵に聞かれる。だが、笛なら意味がわからない」

ヴォルフガングは続けた。

「そして、散開すれば敵の砲撃や銃撃の被害を最小化できる」

「これが、新しい戦い方だ」


その頃、王宮。

エドヴァルトは、フランツと話していた。

「新世代が、育っている」

「はい。シュタイナー少尉、エリカ・ヴァイス技師――優秀な若者が次々と」

「良いことだ」

エドヴァルトは、窓の外を見た。

「俺も、もう三十だ。いつまでも、第一線にいるわけにはいかない」

「陛下、まだまだ若いです」

「いや」エドヴァルトは首を振った。「次の世代に、徐々に任せていくべきだ」

「それが、国の永続性を保つ方法だ」

その時、緊急の報告が入った。

「陛下! 北方のノルトガルド公国で、政変が!」

エドヴァルトは、表情を引き締めた。

「詳細を」

「ヴォルフラム公が、若い貴族たちのクーデターで失脚しました」

「何……!?」

「新しい公は、ヴォルフラム公の甥、ゲオルク・フォン・ノルトガルド。三十歳、強硬派です」

エドヴァルトは、嫌な予感がした。

「我が国への態度は?」

「不可侵条約を破棄する、と」

部屋が、静まり返った。

「戦争か……」

エドヴァルトは、地図を見た。

(また、戦争だ)

(だが、今回は違う)

彼は、フランツを見た。

「全軍に動員令を。ただし――」

「ただし?」

「今回は、俺は後方にいる」

「陛下……?」

「シュタイナー少尉を、呼べ。それと、銃兵隊長カール、槍兵隊長ベルンハルト、すべての隊長を」

エドヴァルトは、決意を込めて言った。

「次の世代に、戦いを任せる。俺は、戦略を立て、支援する」

「それが、国王の仕事だ」


一週間後。

リヒテンブルク王国軍、五千が出陣した。

だが、今回は――

エドヴァルト王は、王都に残った。

代わりに、戦場に立つのは――

総司令官:オズヴァルト・フォン・ブライテンベルク(六十八歳)

副司令官:フランツ・フォン・アドラー(三十二歳)

銃兵隊長:カール・フォン・ノイシュタット(三十歳)

特殊銃兵隊長:ヴォルフガング・シュタイナー(十九歳)

新旧の将校たちが、協力して戦う。

城壁の上から、エドヴァルトは出陣する軍を見送った。

「頼んだぞ、みんな……」

エリーザベト(二十三歳)が、兄の隣に立った。

「兄様、今回は行かないのですね」

「ああ。もう、俺が行く必要はない」

エドヴァルトは、誇らしげに言った。

「優秀な将校たちが、育った」

「でも、心配では?」

「心配だ。だが――」

エドヴァルトは、妹を見た。

「信じている。彼らを」

軍は、北へ向かって進んでいった。

エドヴァルトは、執務室に戻り――

地図と睨めっこを始めた。

戦場にはいない。

だが、戦略を練り、指示を送る。

それが、今の彼の戦い方だった。


北方、国境地帯。

リヒテンブルク軍は、ノルトガルド軍六千と対峙していた。

オズヴァルトは、望遠鏡で敵陣を観察した。

「敵は、伝統的な陣形だな」

「はい」フランツが答えた。「中央に重装歩兵、両翼に騎士。教科書通りです」

「ならば――」

オズヴァルトは、微笑んだ。

「教科書通りに、倒そう」

彼は、ヴォルフガングを呼んだ。

「シュタイナー少尉」

「はっ!」

「お前の特殊銃兵隊を、敵の右翼に配置しろ。散開隊形で、敵騎士を狙撃する」

「了解しました!」

ヴォルフガングは、百名の部下を率いて移動した。

森の中に、散開して隠れる。

そして――

敵が射程に入った。

「狙え……」

ヴォルフガングは、冷静に命令した。

「敵の指揮官を優先的に。三百メートル、風は東から微風」

「撃て」

パン、パン、パン……

百挺のライフル銃が、バラバラに発射された。

だが、その一発一発が――

正確に、敵の騎士を撃ち抜いた。

「ぐあっ!」

「隊長が!」

「何だ!? どこから撃たれた!?」

敵の右翼が、混乱した。

見えない敵からの、正確な狙撃。

パニックが、広がる。

その隙に――

「全軍、突撃!」

オズヴァルトが命令した。

リヒテンブルク軍が、一斉に攻撃を開始した。

戦いは――

リヒテンブルク軍の圧勝だった。


三日後。

ノルトガルド軍は、完全に撤退した。

そして、ゲオルク新公から、使者が来た。

「不可侵条約の、再締結を望む」

オズヴァルトは、その場で決めず、王都に報告した。

エドヴァルトは、熟考の末――

「条約を結ぶ。ただし、条件をつける」

条件は――

・不可侵条約の期間を、十年から二十年に延長

・相互の貿易を促進

・そして――ノルトガルドの若手将校を、リヒテンブルク王立軍事学校に留学させる

最後の条件が、重要だった。

(次の世代に、友好関係を築かせる)

(それが、永続的な平和への道だ)

ゲオルク新公は、その条件を受け入れた。


一ヶ月後。

凱旋した軍を、エドヴァルトは王都で迎えた。

オズヴァルト、フランツ、カール、そして――

ヴォルフガング。

「よくやってくれた」

エドヴァルトは、一人一人に声をかけた。

特に、ヴォルフガングには――

「お前の戦術は、見事だった。散開隊形による狙撃――新しい戦い方だ」

「陛下の教えがあったからこそです」

「いや」エドヴァルトは首を振った。「お前が、それを発展させた」

彼は、ヴォルフガングの肩を叩いた。

「これからも、頼む。次の世代の、柱になってくれ」

「はっ!」


その夜。

エドヴァルトは、マリア王妃と息子フリードリヒ(六歳)と夕食を取っていた。

「父上、今日、軍隊を見たよ!」

フリードリヒが、興奮して言った。

「かっこよかった! 僕も、大きくなったら軍人になる!」

「そうか」

エドヴァルトは、息子の頭を撫でた。

「でも、軍人になる前に――勉強だ」

「えー」

「軍人は、剣を振るうだけじゃない。頭を使う仕事だ」

エドヴァルトは、息子に教えた。

「戦争は、最後の手段だ。まず、外交で解決する。それが王の仕事だ」

「わかった!」

マリアは、微笑みながら二人を見ていた。


その夜、執務室。

エドヴァルトは、一人で考えていた。

(新しい世代が、育っている)

(ヴォルフガング、エリカ、そして他にも優秀な若者たちが)

(俺の役目は、彼らが活躍できる場を作ることだ)

彼は、次の計画を書き始めた。

「教育制度の拡充」

「技術研究への投資増加」

「若手将校の登用」

そして――

「王位継承の準備」

フリードリヒは、まだ六歳。

だが、いずれ彼が王になる日が来る。

その時のために――

準備を始めなければならない。

エドヴァルトは、羽根ペンを走らせ続けた。

次の世代のために。

この国の未来のために。

窓の外では、星が輝いていた。

リヒテンブルク王国は、新しい時代を迎えようとしていた。

次回もお楽しみに

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