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滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


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25/32

帝国の影

書き始めました。引き継ぎお楽しみください


ヴェストマルク征服から半年後。

リヒテンブルク王国は、急速に拡大した領土の統治に追われていた。

王宮の会議室。

エドヴァルトは、山積みの報告書と格闘していた。

「ヴェストマルク地方の税収、前月比で安定」

「ブライテンハーフェンの貿易量、過去最高」

「新設した学校、十二校が開校」

良い報告が続く。

だが――

「陛下、問題もあります」

ハインリヒが、別の報告書を差し出した。

「ヴェストマルク地方の一部貴族が、不穏な動きを」

「まだ、ゲルハルト派の残党か」

「はい。表面上は恭順していますが、密かに集会を――」

その時、扉が激しくノックされた。

「失礼します!」

フランツが、血相を変えて飛び込んできた。

「陛下! 緊急報告です!」

「落ち着け。何があった?」

「ハプスブルク帝国が――」

フランツは、息を整えてから言った。

「皇帝フェルディナント三世が崩御されました」

部屋が、静まり返った。

「何……?」

「三日前、急病で。そして――」

フランツは、さらに衝撃的な情報を告げた。

「後継者争いが勃発しています」


ハプスブルク帝国。

大陸最大の帝国。

人口五百万、常備軍十万を擁する超大国。

その皇帝フェルディナント三世には、三人の息子がいた。

長男:マクシミリアン大公(三十五歳)

・軍部の支持を得ている

・強硬派、拡張主義者

・「帝国の栄光を取り戻す」と公言

次男:カール大公(三十二歳)

・文官派の支持を得ている

・穏健派、内政重視

・「平和と繁栄を」と主張

三男:フェルディナント大公(二十八歳)

・商人層の支持を得ている

・現実主義者、経済重視

・「貿易で帝国を豊かに」と主張

三つの派閥が、帝位を巡って対立していた。

そして――

その対立は、帝国全土を巻き込む内戦の様相を呈し始めていた。


「内戦……」

エドヴァルトは、地図を睨んだ。

ハプスブルク帝国は、リヒテンブルク王国の南東に位置する。

もし内戦が激化すれば――

「我が国への影響は?」

「甚大です」フランツが答えた。「バーデン辺境伯領は、帝国の北西部。つまり、我が国と隣接しています」

「バーデン辺境伯は、どの派閥を?」

「マクシミリアン大公派です。軍部ですから」

エドヴァルトは、最悪のシナリオを想像した。

「もしマクシミリアン大公が皇帝になれば……」

「拡張政策を取るでしょう。そして、最初のターゲットは――」

「我が国だ」

リヒテンブルク王国は、この数年で急成長した。

人口十五万、領土は三倍に拡大、軍事力も強化された。

だが――

ハプスブルク帝国の十万の軍の前には、まだ小国に過ぎない。

「どうされますか、陛下?」

エドヴァルトは、長い沈黙の後――

「グラウバルトに使者を送る。カール四世陛下と、直接会談したい」

「それと――」

彼は、別の決断も下した。

「カール大公に、密使を送る」

「カール大公、ですか?」

「ああ。穏健派で、平和を望んでいる。もし彼が皇帝になれば、我が国は安全だ」

「しかし、内政干渉では……」

「干渉ではない。外交だ」

エドヴァルトは、冷静に言った。

「我が国の生存がかかっている。使える手段は、すべて使う」


一週間後。

グラウバルト王国、王都。

エドヴァルトは、カール四世と密談していた。

「ハプスブルクの内戦……頭の痛い問題だ」

カール四世(五十歳)は、疲れた表情だった。

「我が国も、巻き込まれる可能性がある」

「陛下は、どの派閥を支持されますか?」

「支持? できればどれも支持したくない」

カール四世は、ため息をついた。

「だが、現実問題として――カール大公しかいない」

「同じ考えです」

「マクシミリアン大公が皇帝になれば、戦争は避けられない。フェルディナント大公は商人の傀儡になる」

「では、共同でカール大公を支援しましょう」

「どうやって?」

エドヴァルトは、計画を説明した。

「まず、カール大公に資金援助を。内戦には、金が必要です」

「我が国の国庫から、金貨一万枚を提供します。グラウバルトも同額を」

カール四世は、目を見開いた。

「一万枚……! それは国家予算の三分の一だぞ!」

「わかっています。だが、これは投資です」

エドヴァルトは、地図を指差した。

「カール大公が勝てば、平和が続く。我々は貿易で利益を得られる。一万枚など、すぐに回収できます」

「逆に、マクシミリアン大公が勝てば――戦争になり、国家予算どころか国そのものを失います」

カール四世は、長く考えた。

「……わかった。やろう」

二人の王は、握手を交わした。


同じ頃。

ハプスブルク帝国、首都ウィーン。

カール大公は、執務室で頭を抱えていた。

「資金が足りない……このままでは……」

彼の陣営は、軍事力で劣っていた。

兄マクシミリアンは、軍部を掌握している。

弟フェルディナントは、商人の金を持っている。

自分には――

理想と、わずかな支持者しかいない。

「大公、お客様です」

「今は誰も会いたく――」

その時、扉が開いた。

入ってきたのは――

リヒテンブルク王国の密使、アルノルト・フォン・ロートリンゲンだった。

「カール大公殿下。初めてお目にかかります」

「貴殿は……リヒテンブルクの?」

「はい。エドヴァルト王陛下の密使として参りました」

アルノルトは、大きな箱を差し出した。

箱を開けると――

金貨が、ぎっしりと詰まっていた。

「これは……!?」

「一万枚です。そして、グラウバルト王国からも同額」

カール大公は、信じられない顔をした。

「なぜ……なぜ、そこまで?」

「陛下がおっしゃいました。『カール大公の勝利は、我が国の平和だ』と」

アルノルトは続けた。

「これは、投資です。殿下が皇帝になられれば、我が国は貿易で協力し、利益を共有したい」

カール大公は、涙を浮かべた。

「感謝する……心から、感謝する」


三ヶ月後。

ハプスブルク帝国の内戦は、激化していた。

マクシミリアン派が、首都ウィーンを包囲。

だが、カール派は資金を得て、傭兵を雇い、持ちこたえていた。

一方、フェルディナント派は、南部で独自の勢力を築いていた。

三つ巴の戦い。

大陸全体が、この内戦に注目していた。


リヒテンブルク王国。

エドヴァルトは、毎日届く報告に目を通していた。

「カール大公、ウィーンで防戦」

「マクシミリアン大公、攻城戦で消耗」

「フェルディナント大公、南部で勢力拡大」

状況は膠着していた。

その時――

「陛下! バーデン辺境伯から、使者が!」

エドヴァルトは、緊張した。

(ついに、来たか)

謁見の間に、バーデン辺境伯の使者が現れた。

「リヒテンブルク王、エドヴァルト陛下。バーデン辺境伯、カール・フォン・バーデンより、提案があります」

「聞こう」

「マクシミリアン大公を支持してほしい」

エドヴァルトは、即座に答えた。

「断る」

使者は、予想していたという顔をした。

「では、中立を保ってほしい。どの派閥も支持しないと」

「それも断る」

「……では、戦争ですか?」

エドヴァルトは、冷静に答えた。

「我が国は、カール大公を支持している。バーデン辺境伯がマクシミリアン大公側なら――立場は対立する」

「しかし、戦争は望まない。ハプスブルクの内戦に、外国が介入すべきではない」

使者は、意外そうな顔をした。

「では……不干渉、ということですか?」

「そうだ。我々は資金を提供したが、軍は送らない」

「……わかりました。伝えます」

使者が去った後、フランツが尋ねた。

「陛下、本当に軍を送らないのですか?」

「今は、な」

エドヴァルトは、地図を見た。

「状況を見極める。もしカール大公が危機に陥れば――その時は、考える」


半年後。

ハプスブルク帝国の内戦は、転機を迎えた。

マクシミリアン大公が、ウィーン攻城戦で重傷を負ったのだ。

砲撃を受け、右腕を失った。

「撤退だ……! 撤退!」

マクシミリアン派は、ウィーンから撤退した。

その隙に、カール大公が反撃に出た。

資金で雇った傭兵と、民衆の支持を得た義勇軍が、マクシミリアン派を追撃する。

そして――

ついに、マクシミリアン大公が降伏した。

「兄上……負けました」

カール大公は、兄を抱きしめた。

「よく戦った。もう、休め」


だが、戦いは終わらなかった。

南部で、フェルディナント大公が独立を宣言したのだ。

「私は、南部ハプスブルク王国の王となる!」

帝国は、二つに分裂する危機に瀕した。

カール大公は、決断を迫られた。

(戦うべきか? それとも、分裂を認めるべきか?)

その時――

リヒテンブルクから、エドヴァルト王自身が訪れた。

「カール大公」

「エドヴァルト王……! なぜ、ここに?」

「助けに来た」

エドヴァルトは、地図を広げた。

「フェルディナント大公と、交渉しましょう」

「交渉? 彼は独立を――」

「独立を望んでいるのではない。認められることを望んでいるんです」

エドヴァルトは、分析した。

「彼は商人の支持を得ている。つまり、経済的利益を重視する」

「ならば、こう提案しましょう。『南部に高度な自治権を与える。その代わり、帝国の一部であり続けろ』と」

カール大公は、目を見開いた。

「連邦制……?」

「そうです。完全な独立ではなく、ゆるやかな連邦」

エドヴァルトは続けた。

「これなら、フェルディナント大公も納得するでしょう。経済的自由を得られるから」

「そして、帝国の統一も保たれる」

カール大公は、長く考えた。

「……やってみよう」


一ヶ月後。

カール大公とフェルディナント大公の会談が行われた。

エドヴァルトが、仲介役として同席した。

「兄上」

フェルディナント大公(二十八歳)が、警戒した様子で言った。

「何の用ですか?」

「弟よ。戦いをやめよう」

「やめる? 私が独立を諦めろと?」

「いや」カール大公は、文書を差し出した。

「これを読んでくれ」

フェルディナントは、その文書を読んだ。

『南部自治憲章』

・南部地域に、高度な自治権を付与

・税制、貿易は独自に決定可能

・ただし、外交と軍事は帝国が統括

・南部総督には、フェルディナント大公を任命

フェルディナントは、驚いた顔をした。

「これは……」

「独立ではない。だが、ほぼ同等の自由だ」

エドヴァルトが補足した。

「これなら、商人たちも満足するでしょう。自由な貿易ができます」

「そして、帝国の統一も保たれる」

フェルディナントは、長く考えた。

「……条件があります」

「何だ?」

「リヒテンブルクと、直接貿易協定を結びたい」

エドヴァルトは、微笑んだ。

「喜んで」


その日の夜。

ハプスブルク帝国の内戦は、終結した。

カール大公が、皇帝カール五世として即位。

フェルディナント大公は、南部総督として自治権を得た。

マクシミリアン大公は、隠居した。

帝国は、分裂を免れた。

そして――

新皇帝カール五世の最初の勅令は――

「リヒテンブルク王国、グラウバルト王国との、永久同盟条約」

だった。


リヒテンブルク王国。

凱旋したエドヴァルトを、民衆が歓迎した。

「王が帰ってきた!」

「平和を守ってくれた!」

だが、エドヴァルトは浮かれていなかった。

執務室で、フランツと話していた。

「今回は、うまくいった」

「はい、見事な外交でした」

「だが――」

エドヴァルトは、地図を見た。

「これで終わりじゃない。カール五世は善良だが、次の皇帝は? その次は?」

「……」

「永遠に、外交だけで生き残れるわけじゃない」

エドヴァルトは、決意を新たにした。

「軍備を増強する。技術を進化させる。経済を強化する」

「そして――」

彼は、窓の外を見た。

「この国を、誰にも侵略できない強国にする」

夜空に、星が輝いていた。

リヒテンブルク王国の未来を、照らすように。

だが、エドヴァルトは知っていた。

星の光は美しいが、その闇は深い。

平和は、永遠ではない。

だから――

準備を続けなければならない。

次の嵐に備えて。

次回もお楽しみに

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