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滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


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20/32

血と鉄の宴

引き継ぎお楽しみください


午前十一時三十分。

八千の軍勢が、谷に流れ込んできた。

それは、もはや軍隊というより、人間の奔流だった。

前衛の重装歩兵、二千。

その後ろに軽装歩兵、三千。

左右の翼に騎士団、六百。

そして後方に弓兵、二千。

隙間なく、谷を埋め尽くす人の波。

エドヴァルトは、第一防衛線に戻っていた。砲兵たちが、再び大砲の前に立っている。

「陛下! このまま撃てば、弾薬が――」

砲兵隊長フリードリヒが懸念を示した。

「構わん。全弾、撃ち尽くせ」

エドヴァルトは、冷静に答えた。

「今ここで止めなければ、弾薬を残しても意味がない」

「承知しました!」

「距離、六百メートル!」

「砲兵、準備!」

二十門の大砲が、再び火を噴く準備を整えた。

だが、今回は違った。

敵はあまりにも多い。

まるで、アリの大群のように。

一部を吹き飛ばしても、他が進んでくる。

「五百メートル!」

「撃て!」

ドドドドドォォォォン!!!

轟音。

白煙。

そして――

敵の前列が、粉砕された。

何十人もの兵士が、一瞬で消し飛ぶ。

だが、その後ろから、すぐに次の兵士が押し寄せてくる。

「装填! 急げ!」

砲兵たちの手が、信じられない速さで動く。

三ヶ月の訓練が、体に染み付いていた。

火薬を流し込む。

弾を押し込む。

点火薬を詰める。

「装填完了!」

「撃て!」

ドドドドドォォォォン!!!

また、敵が倒れる。

しかし、倒れた数より多くの兵士が、前進してくる。

「第三射、撃て!」

ドドドドドォォォォン!!!

「第四射、撃て!」

ドドドドドォォォォン!!!

「第五射、撃て!」

ドドドドドォォォォン!!!

エドヴァルトは、数えるのをやめた。

ただ、命令を出し続ける。

撃て、装填しろ、撃て、装填しろ――

砲兵たちは、汗だくになっていた。

手が火傷しそうなほど熱い大砲。

火薬の煙で、目が痛い。

耳が、もう何も聞こえない。

それでも――

撃ち続けた。


午後零時。

敵は、三百メートルまで迫っていた。

地面は、もはや血の海だった。

数百、いや千を超える遺体が転がっている。

だが、敵はまだ七千近くいる。

「陛下! 弾薬が残り五発です!」

「全て撃て! その後、退却!」

「はっ!」

最後の五斉射。

ドドドドドォォォォン!!!

ドドドドドォォォォン!!!

ドドドドドォォォォン!!!

ドドドドドォォォォン!!!

ドドドドドォォォォン!!!

そして――

「砲兵、退却! 速やかに第二防衛線へ!」

砲兵たちは、大砲を放棄して走った。

後ろを振り返ると――

敵が、砲兵陣地に雪崩れ込んでいた。

土嚢を乗り越え、大砲を踏み越え、追ってくる。

「走れ! 走れ!」

二百の砲兵が、必死で走る。

その時――

先頭を走っていた若い砲兵が、足を滑らせた。

「うわっ!」

地面に倒れる。

「待て! 置いていくな!」

仲間が手を伸ばす。

だが、敵が迫る。

「くそっ……!」

エドヴァルトは、馬を駆った。

倒れた砲兵の前に馬を止め、手を伸ばす。

「掴まれ!」

「え、陛下!?」

「早く!」

砲兵は、王の手を掴んだ。

エドヴァルトは、力いっぱい引き上げる。

砲兵が、馬の後ろに跨がった。

その瞬間――

敵の槍が、エドヴァルトの肩を掠めた。

「っ……!」

鎧が裂け、血が滲む。

だが、エドヴァルトは馬を走らせた。


第二防衛線。

銃兵六百が、待っていた。

カール隊長は、冷静に状況を把握していた。

敵は、すでに二百メートル。

そして、その数は――

(多すぎる……)

彼は、一瞬だけ不安を感じた。

だが、すぐに頭を振った。

(いや、訓練を信じろ。部下を信じろ)

「第一列、構え!」

二百の銃が、構えられた。

マルティンは、再び震える手で銃を持っていた。

だが、今回は違った。

最初の戦闘で、彼は一つのことを学んでいた。

(撃つことに集中すれば、怖くない)

(考えるな。ただ、訓練通りに動け)

「狙え!」

照準を合わせる。

敵の胸の中央。

呼吸を整える。

「撃て!!」

パパパパパパパパパン!!!

二百の銃声。

敵の前列が倒れる。

「第一列、後退! 第二列、前進!」

訓練通り。

機械的に。

「第二列、撃て!!」

パパパパパパパパパン!!!

また、敵が倒れる。

だが――

敵は止まらない。

倒れた仲間を踏み越え、血の海を突っ切り、前進する。

「第三列、撃て!!」

パパパパパパパパパン!!!

「第一列、装填完了! 前進!」

「撃て!!」

パパパパパパパパパン!!!

連続射撃が続く。

だが、敵は確実に近づいている。

百五十メートル。

百メートル。

八十メートル。

カールは、判断した。

「全列、速射に切り替え! ローテーション無視! 装填できた者から撃て!」

銃兵たちは、必死に装填し、撃った。

もう、整然とした斉射ではない。

バラバラに、だが絶え間なく。

パン! パパン! パン! パパパン!

それでも――

敵は来る。

六十メートル。

五十メートル。

「陛下!」

カールが、エドヴァルトに叫んだ。

「これ以上は持ちません!」

「わかっている! 銃兵、退却!」

「全銃兵、第三防衛線へ退却!」

六百の銃兵が、一斉に走り出した。


第三防衛線。

槍兵千五百が、槍衾を形成していた。

ベルンハルトは、部下たちを見渡した。

疲れた顔。

恐怖に引きつった顔。

それでも――

誰一人、逃げようとしていない。

「よく聞け!」

ベルンハルトが叫んだ。

「これから、敵が突っ込んでくる! 何千という敵が!」

槍兵たちは、槍を握りしめた。

「だが、恐れるな! 我々には、槍がある! 訓練がある! そして――」

ベルンハルトは、槍を掲げた。

「仲間がいる! 隣の男を信じろ! 彼が、お前を守る! お前が、彼を守る!」

「陣形を崩すな! どんなことがあっても、陣形を保て! それが、生き残る唯一の方法だ!」

「おおおおお!」

槍兵たちが、雄叫びを上げた。

そして――

敵が、溝に到達した。

「板を渡せ! 急げ!」

敵の工兵たちが、溝に板を架け始める。

だが、その時――

「弩兵、射撃!」

崖の上から、再び弩が放たれた。

ヒュヒュヒュヒュ!

三百本のボルトが、降り注ぐ。

「ぐあっ!」

「いぎゃああ!」

工兵たちが、次々と倒れる。

だが、すぐに次の兵士が作業を続ける。

一枚、また一枚と、板が架けられていく。

「渡れ! 突撃しろ!」

敵の重装歩兵が、板を渡り始めた。

一人、二人、十人、百人――

そして、槍衾に到達した。

「突っ込め!」

敵が、槍の壁に突進する。

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

槍が、次々と敵を貫いた。

前列の槍が、胸を貫く。

中列の槍が、肩を貫く。

後列の槍が、頭を貫く。

敵は、槍に串刺しにされて倒れる。

だが、その後ろから、また敵が来る。

倒れた仲間の上を踏み越えて。

「押し返せ! 一歩も引くな!」

ベルンハルトが叫ぶ。

槍兵たちは、歯を食いしばって槍を突き出し続けた。

手が痺れる。

腕が痛い。

それでも――

槍を放さない。


午後一時。

戦闘は、三時間目に入っていた。

第三防衛線は、まだ持ちこたえていた。

だが、限界が近づいていた。

槍兵の一部は、疲労で倒れ始めている。

槍を持つ手が、震えている。

「陛下! 槍兵隊が!」

フランツが、焦った声で報告する。

エドヴァルトは、状況を見た。

(このままでは、持たない)

(だが、もう退く場所はない)

(ここが、最後の防衛線だ)

「予備隊を投入する」

「はい!」

三百の予備隊が、槍兵陣形に合流した。

疲れた兵士と交代し、新しい兵士が槍を構える。

そして――

「騎兵隊、出撃準備!」

エドヴァルトは、最後の切り札を使うことを決めた。

百騎の騎兵が、待機していた。

その先頭には――

オズヴァルトがいた。

「陛下、命令を」

「敵の右翼を突け。混乱させろ」

「承知しました」

オズヴァルトは、兜を被った。

そして、騎兵たちを見渡した。

「諸君! 我々の突撃が、この戦いの勝敗を決める!」

「続け!」

オズヴァルトは、槍を構えて馬を走らせた。

百騎の騎兵が、それに続く。

蹄の音が、地面を揺らす。

そして――

敵の右翼に、突撃した。


敵陣営。

ゲルハルトは、騎兵の突撃を見て顔色を変えた。

「くそっ……騎兵だと!?」

「閣下! 右翼が混乱しています!」

「我が方の騎士団を出せ! すぐに!」

ヴェストマルクの騎士団、六百騎が動き出した。

リヒテンブルクの百騎に対し、六倍の数。

オズヴァルトは、それを見ても怯まなかった。

「散開しろ! 正面から戦うな! 撹乱だけだ!」

百騎は、敵の歩兵の間を縫うように走り、槍で突き、すぐに離れる。

ゲリラ戦法。

敵の騎士団が追ってくると、すぐに逃げる。

追わせて、敵陣を混乱させる。

「戻れ! 戻って陣形を整えろ!」

敵の指揮官が叫ぶが、混乱は収まらない。


午後二時。

戦闘は、四時間目。

両軍とも、疲弊していた。

リヒテンブルク軍の損害――

砲兵:二十五名戦死、三十名負傷。

銃兵:五十名戦死、八十名負傷。

槍兵:百二十名戦死、二百名負傷。

騎兵:十五名戦死、二十名負傷。

計:二百十名戦死、三百三十名負傷。

戦力の約六分の一を失った。

だが――

敵の損害は、それを遥かに超えていた。

推定で、三千以上。

ヴェストマルク連合軍は、もはや五千を切っていた。

そして――

彼らの士気は、限界に達していた。

「もう無理だ……」

「こんなに死ぬなんて……」

「俺たち、勝てるのか?」

傭兵たちの間で、動揺が広がっていた。

ブルーノは、それを感じ取った。

「閣下」

「何だ!」

「これ以上の戦闘は、危険です。兵たちの士気が――」

「黙れ!」

ゲルハルトは、怒鳴った。

「あと少しだ! あと少しで、敵は崩れる!」

「しかし――」

「総攻撃だ! 全軍、一気に突っ込め!」


午後二時三十分。

ヴェストマルク連合軍の、最後の総攻撃が始まった。

残り五千すべてが、一斉に突撃する。

もはや、戦術も陣形もない。

ただ、数で押し潰す。

「来る……!」

リヒテンブルク軍の陣地に、緊張が走った。

エドヴァルトは、剣を抜いた。

肩の傷が痛むが、構わない。

「全軍! 最後の戦いだ!」

彼は、第三防衛線の最前列に立った。

「陛下!?」

「何をされて――」

「俺も戦う」

エドヴァルトは、槍兵たちの間に立った。

「王も兵士も、ない。ここにいるのは、リヒテンブルクを守る者たちだ」

兵士たちの目が、輝いた。

「陛下とともに!」

「リヒテンブルクのために!」

そして――

五千の敵が、雪崩のように押し寄せてきた。

最後の、死闘が始まった。

次回もお楽しみに

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