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滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


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14/24

嵐の前

引き継ぎお楽しみください


リヒテンブルク王国、建国三年目。

王都の宮殿では、拡大した王国評議会が開かれていた。

「陛下、人口が五万を突破しました」

ハインリヒが報告する。

「ブライテンハーフェンの編入効果ですね」

「それだけではない」エドヴァルトは地図を見た。「周辺の小領主や自由農民が、続々と移住してきている」

「なぜでしょう?」

「税率が低く、法が公正で、仕事がある。移住する理由は十分だ」

実際、リヒテンブルクは急速に発展していた。

石炭と鉄の産業。

港湾貿易。

造船業。

そして――軍需産業。

「ただし」フランツが懸念を示した。「急速な成長は、嫉妬も招きます」

「わかっている」

エドヴァルトは、机上の報告書を見た。

各国からの密偵が増えている。

技術の窃盗未遂が頻発している。

そして――不穏な軍事的動きも。

「グラウバルトとの関係は?」

「良好です。技術提供のスケジュール通りに進んでおり、彼らも満足しています」

「ヴェストマルクは?」

「表面上は友好的。貿易も活発です。ただし――」

フランツは声を落とした。

「ゲルハルト伯が、周辺の小領主を密かに取り込んでいます」

「包囲網か」

「その可能性があります」

エドヴァルトは、立ち上がった。

「では、こちらも準備を進める」


【王立技術研究所】

ブライテンハーフェンに新設された施設。

そこで、エドヴァルトは新しいプロジェクトを指揮していた。

「グスタフ殿、試作品は?」

「はい、陛下。こちらです」

グスタフが見せたのは、小型の大砲だった。

従来のものより大幅に軽量化されている。

「これなら、歩兵でも運搬できます」

「野戦砲だな」

エドヴァルトは、それを検分した。

「城攻めだけでなく、野戦でも使える」

「はい。ただし、威力は艦載砲より劣ります」

「構わない。機動力が重要だ」

エドヴァルトは、次の図面を広げた。

「次は、これだ」

「これは……何でしょう?」

図面には、複数の小さな銃身が束ねられた武器が描かれていた。

「オルガン砲だ。複数の銃身から、同時に発射する」

「なるほど……面制圧用ですね」

「そうだ。騎兵の突撃を止めるには、最適だ」

グスタフは、興奮した様子で頷いた。

「すぐに試作に入ります!」


その夜、エドヴァルトは一人で港を歩いていた。

警護のフランツだけを従えて。

「陛下、最近お疲れのようですが」

「そうか?」

「はい。会議中、何度も眉間にしわを寄せておられました」

エドヴァルトは、苦笑した。

「隠せてなかったか」

「何か、懸念が?」

「ああ」

エドヴァルトは、海を見た。

「フランツ卿。我々は、成長しすぎた」

「成長しすぎ……?」

「そうだ。三年前、我々は滅亡寸前の小国だった。誰も脅威と思わなかった」

「今は違いますね」

「ああ。今や、海軍を持ち、技術を持ち、富を持つ。周辺国にとって――」

エドヴァルトは振り返った。

「無視できない存在になった。それは同時に、標的になったということだ」

フランツは、理解した。

「小国としては大きすぎるが、大国と戦うには小さすぎる……」

「そういうことだ」

エドヴァルトは、拳を握った。

「だから、選択を迫られている。このまま成長を続けて、大国たちの警戒を招くか。成長を止めて、現状を維持するか」

「陛下は、どちらを?」

「決まっている」

エドヴァルトは、きっぱりと言った。

「成長を続ける。立ち止まれば、追いつかれる。追いつかれれば、飲み込まれる」

「なら、大国との衝突は避けられませんね」

「ああ。だから――」

エドヴァルトは、フランツの肩に手を置いた。

「準備をする。最悪の事態に備えて」


【一ヶ月後】

リヒテンブルク王国軍、大規模演習。

王都郊外の平原に、二千の兵が集結していた。

槍兵一千。

弩兵五百。

騎士三十。

そして――野戦砲二十門。

「全軍、展開!」

オズヴァルトの号令で、軍が陣形を組む。

中央に槍兵の密集陣形。

その後方に弩兵。

両翼に騎士。

そして最後列に、野戦砲。

「仮想敵、騎兵隊五百、正面から接近!」

演習が始まった。

騎兵役の部隊が、突撃してくる。

「野戦砲、撃て!」

ドドドォン!

二十門の大砲が火を吹いた。

土煙が上がり、騎兵の進路を阻む。

「弩兵、斉射!」

ヒュヒュヒュ!

続いて弩の雨。

騎兵が混乱する。

「槍兵、壁を作れ!」

密集陣形が、槍の壁を形成する。

騎兵は、その壁を突破できない。

「完璧だ……」

見学していた各国の武官たちが、驚嘆の声を上げた。

「あれが、リヒテンブルクの新戦術か」

「大砲で混乱させ、弩で消耗させ、槍で止める……」

「伝統的な騎兵突撃が、まったく通用しない」

エドヴァルトは、満足そうに頷いた。

(これで、野戦でも戦える)


演習終了後。

グラウバルト王国の武官、ハンス・フォン・グリュンヴァルトが、エドヴァルトに近づいてきた。

「陛下、見事な演習でした」

「ありがとう、ハンス卿」

「ただ……一つ、気になることが」

「何だ?」

ハンスは、周囲を確認してから小声で言った。

「陛下、我が国の情報では――ヴェストマルクとノルトガルドが、密約を結んだとの噂があります」

エドヴァルトの表情が、引き締まった。

「密約?」

「はい。詳細は不明ですが……リヒテンブルクに関する何らかの取り決めを、と」

「情報源は?」

「信頼できる商人からです」

エドヴァルトは、深く考え込んだ。

(ヴェストマルクとノルトガルドが手を組む……?)

(それは、まずい)

「ハンス卿、その情報を詳しく調べてほしい」

「承知しました」


その夜、緊急会議。

エドヴァルト、ハインリヒ、フランツ、オズヴァルトが集まった。

「状況を整理しよう」

エドヴァルトは、地図上に印をつけた。

「北のノルトガルド。西のヴェストマルク。もしこの二国が同盟すれば――」

「我が国は、二正面作戦を強いられます」

「その通りだ。そして、それは避けなければならない」

「では、どうしますか?」

エドヴァルトは、地図上の別の位置を指差した。

「東のグラウバルトを、完全に味方につける」

「しかし、技術提供のスケジュールが――」

「前倒しにする」エドヴァルトは決断した。「大砲の技術を、すぐに渡す」

ハインリヒが驚いた。

「陛下! それでは、我々の優位性が!」

「失われるのは時間の問題だ。それなら、失う前に対価を得る」

エドヴァルトは続けた。

「グラウバルトに技術を渡す。その代わり、軍事同盟を強化する。相互防衛条約を結ぶ」

「なるほど……もしヴェストマルクとノルトガルドが攻めてきたら」

「グラウバルトが援軍を送る義務を負う」

フランツが付け加えた。

「ただし、グラウバルトが本当に援軍を送るかどうか……」

「そこだ」エドヴァルトは頷いた。「だから、条約には具体的な数字を入れる。兵力、期限、条件――すべて明文化する」

「賢明ですね」

「それと――」

エドヴァルトは、別の案も示した。

「南方の諸都市にも、働きかける」

「南方?」

「ハンザシュタットを含む、自由都市同盟だ。彼らは我々の海軍に守られている」

「彼らも味方に?」

「経済的な結びつきを強化する。そうすれば、政治的にも支持してくれる」

エドヴァルトは立ち上がった。

「包囲されるなら、こちらも包囲網を作る」


【二週間後】

グラウバルト王国、王都。

エドヴァルトは、カール四世と直接会談していた。

「エドヴァルト王。よくぞ来られた」

「カール陛下。単刀直入に申し上げます」

エドヴァルトは、契約書を差し出した。

「大砲の完全な技術を、今すぐ提供します。その代わり――」

カール四世は、契約書を読んだ。

目が見開かれる。

「これは……相互防衛条約?」

「はい。もし我が国が攻撃されれば、貴国は三千の兵を一ヶ月以内に派遣する。逆もまた然り」

「しかし、これは……」

カール四世は、宰相ディートリヒと目配せした。

「我が国を、戦争に巻き込む可能性がある」

「その通りです」エドヴァルトは認めた。「ですが、逆に言えば――リヒテンブルクの海軍力と技術力を、貴国が利用できるということでもあります」

「……」

「そして」エドヴァルトは声を落とした。「ヴェストマルクとノルトガルドの密約を、貴国もご存知のはずです」

カール四世の表情が、変わった。

「知っているのか」

「はい。そして、彼らの次の標的は我が国です。もし我が国が滅べば――」

「次は、我が国がヴェストマルクと直接対峙することになる」

「そういうことです」

カール四世は、長い沈黙の後――

「わかった。この条約を結ぼう」

二人の王は、固く握手を交わした。


リヒテンブルクへの帰路。

船上で、エドヴァルトはフランツと話していた。

「これで、東は固まった」

「はい。しかし、本当に戦争になりますか?」

「なるだろう」エドヴァルトは、水平線を見た。「いつかは」

「いつ?」

「わからない。来年かもしれないし、五年後かもしれない。だが――」

エドヴァルトは、拳を握った。

「必ず来る。我々が強くなればなるほど、脅威と見なされる」

「ならば……」

「準備を続けるしかない」

波が、船を揺らした。

遠くで、雷鳴が響いている。

嵐が、近づいていた。


その頃、ヴェストマルク伯領。

ゲルハルトとヴォルフラムが、密談していた。

「リヒテンブルクが、グラウバルトと相互防衛条約を結んだ?」

「はい。我々の密約に気づいたようです」

ゲルハルトは、舌打ちした。

「あの小僧……動きが速い」

「どうします?」

「計画を前倒しにする」

ゲルハルトは、地図上のリヒテンブルクを睨んだ。

「来年の春。雪解けとともに、一気に叩く」

「グラウバルトの援軍が来る前に?」

「そうだ。速攻で王都を落とし、既成事実を作る。そうなれば、グラウバルトも手を出せない」

ヴォルフラムは、不安そうに言った。

「しかし、リヒテンブルクの防衛力は、三年前とは比べものになりません」

「わかっている」ゲルハルトは微笑んだ。「だから、我々も準備をする」

彼は、別の地図を広げた。

そこには、周辺の小領主たちの名前が書かれていた。

「これらの領主を全て取り込んだ。総兵力、一万五千」

「一万五千……!」

「リヒテンブルクは、せいぜい三千。数で圧倒する」

ゲルハルトの目が、野心に燃えていた。

「エドヴァルト……貴様の時代は、終わる」


リヒテンブルク王国。

エドヴァルトは、城の屋上で星を見ていた。

エリーザベトが、毛布を持ってきた。

「お兄様、風邪を引きますよ」

「ありがとう」

エドヴァルトは、毛布を羽織った。

「エリーザベト。もうすぐ、大きな戦いが来るかもしれない」

「……はい」

「怖いか?」

エリーザベトは、首を振った。

「怖いです。でも――」

彼女は、兄の隣に立った。

「お兄様がいれば、大丈夫です」

エドヴァルトは、妹の頭を撫でた。

「守る。必ず、守る」

星が、静かに輝いていた。

嵐の前の、束の間の静けさ。

だが、エドヴァルトは知っていた。

嵐は、すぐそこまで来ている。

そして――

その嵐を、乗り越えなければならない。

次回もお楽しみに

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