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滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う  作者: 膝栗毛


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三日間の死闘

引き継ぎお楽しみください


「陛下! 三日で籠城の準備など、不可能です!」

城壁の上で、オズヴァルトが叫んだ。

エドヴァルトは、都市全体を見渡しながら答えた。

「不可能を可能にする。それが、俺たちの戦い方だろう?」

彼は、素早く状況を分析していた。

ブライテンハーフェンの城壁は、高さ五メートル。石造りだが、所々に亀裂がある。

門は木製で、頑丈だが古い。

守備隊の武器庫には、槍が二百本、弓が五十張。

(足りない。全然足りない)

「フランツ卿!」

「はい!」

「市民の中から、大工、石工、鍛冶職人を集めろ! 全員だ!」

「承知しました!」

エドヴァルトは、次々と指示を出した。

「グスタフ殿! 武器の製造を急げ! 槍、矢じり、釘――何でもいい、鉄製品を作ってくれ!」

「御意!」

グスタフは、すでに街の鍛冶場を接収し、火を起こし始めていた。


【一日目――午前】

「陛下の命令だ! 全ての大工は城門に集合!」

フランツの声が、都市中に響いた。

集まった大工たちは、困惑していた。

「何を作るんだ?」

エドヴァルトが現れ、図面を広げた。

「これを作る」

図面には、城門の後ろに設置する、巨大な木製の補強構造が描かれていた。

「城門が破られても、その後ろに第二の壁を作る」

「こんな複雑なもの、三日では――」

「二日で作れ」エドヴァルトは冷徹に言った。「三日目は、設置に使う」

大工たちは、顔を見合わせた。

だが――

老大工の一人が、前に出た。

「……やってみましょう。この街を守るためなら」


【一日目――正午】

城壁の補修が始まった。

石工たちが、亀裂にモルタルを詰めていく。

「ここも! 急げ!」

「石が足りない!」

「民家の石垣を使え! 後で弁償する!」

エドヴァルトは、自ら石を運んでいた。

王が率先して働く姿に、市民たちも動かされた。

「俺も手伝う!」

「私も!」

次々と、市民が作業に加わった。


【一日目――午後】

「陛下、これを」

フランツが、奇妙な道具を持ってきた。

先端に鉤爪のついた、長い棒だ。

「これは?」

「敵が梯子をかけてきた時、押し返すための道具です。前世で見たことは?」

エドヴァルトは目を見開いた。

(押し出し棒……中世の城攻め防衛の基本装備だ)

「よく知っていたな」

「陛下の指示書に書いてありました」

エドヴァルトは、思わず笑った。

「俺、そんなもの書いたか?」

「三ヶ月前に。『いつか城攻めをする時のために』と」

(前世のオタク知識が、こんなところで役立つとは)

「よし、百本作れ。城壁の各所に配置する」


【一日目――夕刻】

グスタフの鍛冶場から、火花が散っていた。

「グスタフ殿、進捗は?」

「矢じりは三百。槍の穂先は百。そして――」

グスタフは、奇妙な鉄製品を見せた。

四本の釘を組み合わせた、星型の物体。

「これは?」

撒菱(まきびし)です。陛下の設計図通りに」

エドヴァルトは、それを手に取った。

(カルトロップ。どんな向きに落ちても、必ず一本が上を向く)

「これを城門前に撒けば、騎兵の突撃を止められる」

「何個作れる?」

「今夜中に、五百は」

「千作ってくれ」

グスタフは苦笑した。

「陛下は、鬼ですな」

「悪魔でも構わん。この街を守るためなら」


【一日目――深夜】

エドヴァルトは、眠らなかった。

城壁を巡回し、作業を監督し、兵士たちを励ました。

「陛下、少し休まれては……」

オズヴァルトが心配するが、エドヴァルトは首を振った。

「みんなが働いているのに、俺だけ休めるか」

その時、見張りが報告に来た。

「陛下! 港に、船が!」

「敵か!?」

「いえ……リヒテンブルクの旗です!」

エドヴァルトは港に走った。

船から降りてきたのは――

「ハインリヒ殿!」

「陛下!」

宰相は、大量の荷物を降ろしていた。

「食糧、矢、槍、そして――石炭を持ってきました」

「石炭?」

「はい。グスタフ殿への補給です。それと――」

ハインリヒは、別の荷物を指差した。

「弩が五十張。エリーザベト様が、総動員で作らせました」

エドヴァルトは、感激で言葉を失った。

「みんな……」

「陛下」ハインリヒは真剣な目で言った。「本国も、全力で支援します。陛下が守ると決めた以上、我々も命を懸けます」


【二日目――早朝】

城門の補強構造が、形になり始めていた。

巨大な木の梁と柱が組み合わされ、城門の内側に第二の壁を形成している。

「すごい……」

若い兵士が呟く。

「本当に、できるんだ」

「当たり前だ!」

老大工が怒鳴る。

「俺たちは、この街で五十年も仕事してきたんだぞ! 王様に頼まれたことができないわけないだろう!」


【二日目――午前】

城壁の上に、弩兵が配置された。

「いいか! 弩の有効射程は百メートル! それより遠くは狙うな!」

オズヴァルトが指導する。

「第一列、第二列、第三列! ローテーションを忘れるな!」

兵士たちは、何度も練習を繰り返した。


【二日目――正午】

エドヴァルトは、港の倉庫で発見したものを見ていた。

「これは……油?」

「はい、陛下。食用油の備蓄です」

「よし、これも使う」

エドヴァルトは指示した。

「油を壺に入れて、城壁の上に運べ。敵が城壁に取りついたら、熱した油を浴びせる」

(残酷だが、これも戦争だ)


【二日目――午後】

市民たちが、城壁の下に土嚢を積み始めた。

「何のために?」

「攻城槌対策です」フランツが説明する。「城門の前に土嚢の山を作れば、攻城槌が届きにくくなります」

「でも、味方の出入りは?」

「横に小さな通路を作ります。普段はそこを使い、戦闘時は塞ぎます」

エドヴァルトは頷いた。

(中世の城塞都市の知恵を、総動員している)


【二日目――夕刻】

城壁の外側に、落とし穴が掘られた。

浅いが、足を踏み外せば転倒する深さ。

そして、その中に――

「撒菱を入れろ!」

グスタフが作った千個の撒菱が、穴の底に撒かれた。

その上に、薄く土をかぶせて隠す。

「これで、敵の歩兵は近づきにくくなります」


【二日目――深夜】

エドヴァルトは、ついに倒れた。

「陛下!」

オズヴァルトが駆け寄る。

「大丈夫だ……ただの疲労だ」

「無理をしすぎです! 二日間、一睡もせずに!」

「まだ……やることが」

「陛下!」

オズヴァルトが、珍しく強い口調で言った。

「明日の戦いで、陛下が倒れていたら、誰が指揮を取るのですか!」

「……」

「せめて三時間、休んでください。それが王の責任です」

エドヴァルトは、ついに頷いた。

「わかった……三時間だけ」


【三日目――早朝】

エドヴァルトが目覚めた時、外は明るくなっていた。

(三時間以上寝てしまった……!)

飛び起きて城壁に駆け上がると――

「陛下!」

兵士たちが敬礼した。

城壁の上には、整然と配置された弩兵。

城門には、完成した補強構造。

城壁の亀裂は、全て補修されていた。

「これは……」

フランツが報告した。

「陛下が休んでいる間に、市民総出で仕上げました」

「みんな……」

「陛下」老商人が前に出た。「我々も、この街を守りたいのです。陛下だけに、任せておけません」

エドヴァルトは、深く頭を下げた。

「ありがとう」


【三日目――正午】

遠くに、土煙が見えた。

「来たぞ……!」

見張りが叫ぶ。

「ノルトガルド軍、三千! 北から接近中!」

エドヴァルトは、城壁の上に立った。

全ての準備が、整っていた。

補強された城門。

修繕された城壁。

配置された弩兵。

準備された油壺。

撒かれた撒菱。

そして――

戦う意志を持った、市民と兵士たち。

「諸君!」

エドヴァルトの声が、城壁に響いた。

「敵は三千。我々は千。だが――」

彼は剣を抜いた。

「我々には、守るべきものがある! この城壁が、我々の家だ! この港が、我々の未来だ!」

兵士たちと市民たちが、一斉に歓声を上げた。

「敵に、一歩も入れさせるな!」

「おおおおお!」

ノルトガルド軍の先頭が、城壁の射程に入った。

「弩兵、構えろ!」

百五十の弩が、一斉に構えられた。

「狙いは、敵の前列!」

エドヴァルトは、剣を振り下ろした。

「撃て!」

ヒュッ――!

百五十本のボルトが、空を切った。

ブライテンハーフェン攻防戦が、始まった。

次回もお楽しみに

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