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臨界/限界  作者: 深川我無@書籍発売中
臨界

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7/7

1‐7

 近くの定食屋に向かい、僕らは少し遅めの昼食をとることにした。

 昼時を過ぎた店は、岬と同じように人がほとんどいなかった。

「サバラーメンと穴子の天丼が有名らしいよ? あと海鮮丼」

「うーん。愛海はまだお刺身は無理だね。愛海どれがいい?」

「これー!」

 愛海はでっかい塩サバの乗ったラーメンに目が釘付けになっていた。

 僕らは穴子の天丼とサバラーメン、それからタコの天ぷらを頼んで、料理が運ばれてくるのを待った。

「ねえ。さっきの写真、わたしのスマホにも送って?」

 向かいに座った夏帆がスマホを出して言った。

 自分の映りが悪くて嫌だったけど、僕は仕方なく画像を転送する。

 案の定夏帆は写真を見て大笑いした。

「けんちゃんひどい顔! 緊張してたの?」

「すみませんね。可愛い女の子二人と写真を撮る機会なんてないもんで!」

 そういうと夏帆と愛海は顔を見合わせて笑うとハイタッチした。

 そこに「お待たせしましたー」と天丼とタコの天麩羅が運ばれてくる。

 丼からはみ出た穴子と茄子の天麩羅、おまけに海苔の天麩羅まで乗った天丼は、べっこう色のタレで輝いていた。

 長方形の焼き物に乗ったタコの天麩羅は、卵の黄身で優しいクリーム色に色づいた衣に包まれている。

「おいしそー!」

 夏帆が声を上げると、愛海もそれに続いた。

 続いて運ばれてきたサバラーメンは金色の魚介スープと縮れ麺がよく絡み、こんもり盛られた白ネギの隣には、やはり器からはみ出るほど巨大な塩サバが乗っている。

 どうやら炭火で焼いたらしい塩サバは、見た目からもわかるほどに脂が乗っていて、それがスープの表面で深い艶を放っていた。

「サバラーメンも凄い迫力だね。それにいい匂いだあ……」

 僕が目を閉じて鼻で息をすると愛海も真似して鼻で大きく息を吸った。

「いい匂ーい!」

「すみませーん! 取り皿三つとお椀を一つくださーい!」

 僕が叫ぶと、すぐに店員さんは取り皿とお椀を持ってきてくれた。

「せっかくだから分けっこしよっか?」

「するー!」

 愛海はよほど穴子が気に入ったらしく、何度も穴子をおかわりした。

 仕方なく、僕と夏帆はサバラーメンをシェアすることにする。

 ラーメンをすする時、夏帆は左手で髪を耳にかけた。思わずその姿に見惚れていると、夏帆と目があい僕は慌ててタコにかぶり付く。

 そんなことをするうちに、すぐにお皿は空になって、僕らは店をあとにした。

 沈み始めた薄黄色の太陽が、海岸線をやっぱり同じような薄黄色に染めている。

 いつの間にか疲れて愛海が眠ってしまった車内は、言いようのない静けさを乗せていた。

 心地良いような、切ないような静けさだった。

 やがて夏帆がそっと口を開いて言う。

「ごめんね。ご馳走になっちゃって。実はあんまりお金が無くってさ……」

「いいんだよ。どうせご馳走するつもりだったんだ。気にしないで」

 そう言う僕の財布の中身も、五千円札が一枚と、千円札が一枚。それと小銭だけになっていた。

「ありがとう。でも……けんちゃんも今、大変なんでしょ……?」

「うーん。まあね。でも、大丈夫。絶対」

 そこまで言って言葉に詰まった。

 言葉の続きを待つ夏帆に、僕は最初に思った言葉と違う言葉を言う。

「絶対、賢治は立ち直るよ。そうしたら、賢治に埋め合わせをしてもらおう!」

 無理に微笑むと、夏帆も力なく微笑み返してきた。

 それからしばらくして夕陽が海に溺れるの見つめながら、夏帆は聞き取れるぎりぎりの小さな声で「けんちゃんありがと」とつぶやいた。

 それと同時に海と空の境界線が燃えるように輝いて、一瞬の閃を描き出した。

 両者を分かつ隔たりは燃え尽きて、海と空は単一の黒に混ざり始めた。


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