出石、レジスタンスする
〈七草のミネラル我が身駆け巡る 涙次〉
(前回・前々回・前々々回參照。)
【ⅰ】
出石幕は生まれ付いての戰士だつた。純粋な戰闘意慾と云ふものを持つてゐた。乱暴な表現になるが、相手は誰でも良いのだつた。出石は自分の軍隊に、微視佐馬ノ介に替はる新たな局長を迎へた。その名を番頼母と云ふ。番は【魔】ではない。普通(?)の人間の剣士である。彼は出石に備はる、謂はゞ「敗走の美學」と云ふものに共鳴し、局長職に就任する事をOKした。出石は№2である事に誇りを持つてゐた。敬愛する土方歳三に倣つての事である。確か前々々回、私(作者)は、榎本武揚に出石を擬へたと思ふ。土方歳三は彼の「蝦夷政府」で、軍事全般を司る陸軍奉行並として奮戰、戰死した。その土方にとつての戰士としてのルーツとも云へる新撰組、其処で彼は近藤勇に次ぐ№2だつたのだ。
【ⅱ】
出石がその戰闘相手として今回撰んだのは、なんと日本政府であつた。(腐敗しきつたファシズムの徒らめ、一泡吹かせてやるわ)統一教會と云ふ新興宗教團體や米國のトランプなんかに奉仕する首相、多くの若年者が「洗脳」されてゐる。自分のやうな無謀な暴挙に出る者無くば、「洗脳」は氷解しない。彼はカンテラ一味に一目置いてゐたが、一味だつて「魔界健全育成プロジェクト」と云ふ政府の出先機関の走狗となつて働いてゐる。(何が「魔界健全育成」だ、上から目線もいゝ加減にしろ!)なので、彼が撰出した共闘相手は一味ではなく、北海道のアイヌ民族自決を目指す戰士逹なのだつた。軍艦を一隻用意して、北海道を目指す。榎本武揚の「蝦夷政府」のやうにまづは札幌を陥落させ、其処を拠點に日本全體を狙ふ。
【ⅲ】
出石が部下逹に用意させた軍艦は、大型のトロール船を改造したもの。舊式のアームストロング砲を9門搭載してゐる。この軍備では、最新鋭の戰力を持つた海上自衛隊に敵ふ譯はないが、それでも出石は、自分逹の軍備に拘つた。(アナクロと嗤はゞ嗤へ、これで戰ふ事の意義を、世人は知らぬ)。倖ひ、使ひの者に依れば、アイヌ族の團體とは意氣投合し、札幌を目指した「死の巡航」は今にも始まりさうだつた。
※※※※
〈晝に掛けぽかぽかとなる横丁かなその期待などなどの一日 平手みき〉
【ⅳ】
で、カンテラ一味。出石軍の出方を伺つてゐたカンテラは、透明人間化した平涙坐を魔界に派遣(今回の出石軍は、微視と云ふ「目」を欠いてゐたので、涙坐も人質とならず濟んだ)、事の次第を知つた。愚挙と云へば余りに愚かしい出石のレジスタンスであつた。だが「骰は既に投げられ」てゐる。じろさん、「魔界健全育成プロジェクト」に相談しに行つた。それは、出石を止めれば幾らカネが下りるかの相談でもあつた。-仲本「所詮は幕末レヴェルの軍備だらう、海自が止めてくれるさ」-じろさん「だが、出石を死なせる事は、あんたにとつても本望ではなからう」-「カンさんはきつと出石とやらと、思想を同じくしてるんだろ?」-「カンさんは思想などゝ云ふ余計なものは持つてゐないよ」-「然し精々5百(萬圓)と云つたところだな」-「随分と吹つかけたな。だがまあ良しとしやう」
【ⅴ】
カンテラは不本意ながら、出石を騙した。戰力としてカンテラ・じろさん・テオを加へるやう、出石に打診。出石には即戰力の一味攻撃陣の加入は喜ばしい事だつた。出石にとつてカンテラは、仲間では決してなく、飽くまでも好敵手なのであつたが、そんな思ひを乘せ、軍艦はつひに日本海へと出て行つた...
【ⅵ】
一週間の船旅であつた。海自は動かなかつた。仲本からの助言に從つたのである。對【魔】のオーソリティ、カンテラが乘船してゐる。彼に任せて置かうとの助言である。札幌は、一言で云へば「寒かつた」・笑。テオも猫用のダウンジャケットを着た程である。革羽織・革袴着用のカンテラ、暫しアイヌの愛國者逹と語らつたが、彼らアイヌ族の面々は、出石が死に場所として札幌を撰んだ事を知り、不服の聲を挙げた。出石の計画はのつけから躓いた譯である。
【ⅶ】
出石はカンテラに云つた-「あんたは本當に俺逹の味方なのか?」-カンテラ「あんたを死なせたくない。『ニュー・タイプ【魔】』隆盛の魔界で唯一の良心を持つ、あんたをな」-この一言で出石はカンテラ一味と決裂した。そして... せめてもの事だ、見ず知らずの警官に撃たれて死ぬより、俺が- カンテラ、出石に「あんたを斬るよ」-「何!? それは困る。志し半ばにして-」-いたゝまれず、カンテラはその全ては聞かなかつた。「成佛しろよ。しええええええいつ!!」出石は袈裟掛けに斬られ、死んだ。あとの軍艦乘り組み員逹は、じろさん・テオが片付けた。番は軍艦の件にはタッチせず、東京で彼ら「親ルシフェル派」の殘党の帰りを待つてゐたので、無疵だつた。
※※※※
〈季節柄忌日重なる正月かな 涙次〉
【ⅷ】
約束のカネは下りた。たつた5百萬のカネと引き換へに、俺は大事な者を喪つた。と、カンテラ、雪のちらつく空を見上げて、嘆息した。東京も雪である。テオはダウンジャケットは着た儘だつた。お仕舞ひ。




