エタルナの秘密と、これから
「出血、止まった?」
「うん、でも…一応、包帯は巻いたままにしておくわ。」
エタルナがおかしくなってから、しばらくが経過した。
遠くで、モンスターの鳴き声が反響する。
心臓のドキドキは、まだ収まらない。
それでも……怪我の具合は確認しなきゃ。
バーニングウルフから受けたユミエルの傷も塞がった様子。
一体、何が起こったのかしら?
突然、エタルナが狼のような形相になって…狂ったようにモンスターを倒したかと思ったら、私にまで攻撃を加えて来た。
それも凄い力で…もし"球体"の強化魔法?が無かったら私もヤラれていたかも知れないわ。
「う…うぅ…」
離れた位置で倒れていたエタルナからうめき声が聞えた。
「ユミエル…一応、下がって。」
座っていた岩から立ち上がり、ゆっくりとエタルナに近づく。
すると、エタルナは上体を起こして、私の方を見た。
うん…いつもの表情だ。
「2人共…ごめん。」
小さな声で謝罪の言葉を口にするエタルナ。
すぐにあやまった事から察すると、狼のような状態を、どうやらエタルナ自身も分かっていたって事ね。
「エタルナちゃん、大丈夫?」
後ろから恐る恐る近づいたユミエルが声をかけた。
「うん…もう、大丈夫。」
私達からは目をそらしながら、エタルナはそう答える。
そして小刻みに震えている…置かれている状況に怯えているのか。
すぐ近くにいるエタルナが、まるで知らない人かのように感じる。
「えっと…さっきのは一体…」
「何があったのか説明できる?」
少し迷ってから、私はエタルナに問いかけた。
「うん…でも、詳しくは分からないんだ。」
そう言うと、エタルナはゆっくりと私達の方を見た。
「分かる範囲で良いよ。」
ユミエルが優しく声をかけると、エタルナは言葉を選ぶかのように少し考えた後、口を開いた。
「バーサーカー。」
「…え?バーサーカー?」
思わず聞き返した馴染みのない言葉。
「簡単に言うと……自我を抑えられない戦士になる。」
「え? 自分をコントロールできないってこと?」
ユミエルの顔を見てみたが、同じく…よく分からないといった反応をしている。
「狂った戦士っていう職業みたい。」
え?職業??
まるで狼が暴れていたかのような姿だったエタルナ。
あれが職業だって言うのか?
「職業って言うと…剣士や魔法使いみたいな?」
私が何も口に出せずにいると、ユミエルが代わりに質問する。
「うん…長老がそう言っていたんだ。」
長老?エタルナが産まれた村の長老の事かな?
「もしかして、エタルナの出身の村の人達は全員、バーサーカーっていう職業なの?」
言いたくない事かも知れないけど、聞かないと何も分からない。
「いや…あたしだけ。」
そうなんだ…村に一人だけって、辛い話かも。
そう思いながら、じっとエタルナの顔を見つめた。
「その…さっきの状態だと、記憶は無い訳?」
ユミエルの問いかけにエタルナは小さく頷いた。
「何ていうか…少し離れた頭の上から自分の行動を見ている感じ。」
「止められないんだ。」
「さっきはごめん、アンジュ。」
そこまで言うとエタルナは泣き出してしまった。
「すんごい強かったね、エタルナちゃん!」
あわてた様子でユミエルが、そう伝える。
確かに強かったけど…あの様子じゃとても戦闘には使えない。
ユミエルが気を遣って言っているのは間違いない。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
エタルナは泣きながら、謝罪の言葉を繰り返す。
謝り続けるエタルナを見て、思う。
訳の分からない力を持っているのは、私だけじゃなかったんだ。
私が彼女を守らなきゃ…
この球体の力は、そのためにあるのかも知れない。
「大丈夫よ!私は全然、何ともないわ!」
「エタルナの攻撃なんて、へっちゃらよ。」
本当はギリギリで受け止めたエタルナの攻撃。
そう伝えると、エタルナは泣き止んで、ゆっくりと顔を上げた。
バーサーカーになっていた時の狼のような顔とは全く違う。
くちゃくちゃになって何とも弱そうな表情…いつものエタルナだ。
「急にだったよね。バーサーカー化するには、条件でもあるの?」
「仲間の血…」
「え?ウチが出血したから?」
「多分…だけど。前もそうだったから。」
仲間が出血すると、エタルナはバーサーカーとなり自我を失って暴れ出すって事か…
「前もって…よくある事なの?」
「前は…村で。」
私の質問に答える形でエタルナはゆっくりと話し始めた。
「以前、あたしの村はモンスターの集団に襲われた事があるんだ。
「その時、お父さんも襲われて血を流して…。」
「それを見た時、初めての感覚だった。」
「自分の血が沸き立つような感じになって。」
「モンスターがとても憎くって…睨んで…」
「その時、あたしは初めてバーサーカー化した。」
「狂ったようにモンスター達を倒しまくった。」
「何匹も…何匹も。」
「でも、止まんなくて…」
「モンスターだけじゃなく村人まで、傷つけてしまった。」
ここまで言うと、エタルナは肩を震わせ始めた。
ユミエルが隣に座り、そっとエタルナの肩に手を回した。
「落ち着いて、ゆっくりで良いのよ。」
私がそう言うと、エタルナはふたたび話し始める。
「あたしのおかげで村は助かったって話になった。」
「だけど…村人みんなのあたしを見る目が変わって…」
「凄く怯えているのが分かるんだ。」
「家族からでさえも…」
「だから…あたしは村を出た。」
「目的も無く彷徨い歩いてこの町にたどり着いた…」
「今まで内緒にしていてゴメンナサイ。」
あぁ…エタルナ、辛い経験をして来たんだな。
「う…うぅ…」
って、ユミエルが泣き始めちゃったわ。
そして、エタルナもふたたび涙を浮かべ始める。
私も泣きそうになったけど、必死でこらえた。
ダンジョン"イグニタス"の第2層の階段付近で泣く3人娘。
他のトレジャーハンターのパーティーがヒソヒソと話をしながら通り過ぎて行くのが分かる。
「エタルナ…あやまらなくて良いからね。私は大丈夫だから。」
「エタルナちゃん、話してくれて有難うね。辛かったね!」
私とユミエルが、そう伝えるとエタルナはやっと泣き止んだ。
「うぅ…2人共、ありがとう…」
「でも、バーサーカー化する事は内緒にしておいた方が良いかもね。」
「そうね、あのギルドマスターに知られちゃったら追放されちゃうかも。」
「アンジュとユミエルは、あたしの事…怖くない?」
そう言われて、一瞬ハッとなった。
けど…そんな事でエタルナと離れ離れになるのは嫌!
その気持ちの方が強くなった。
「大丈夫!アンジュちゃんが頑張ってエタルナちゃんを抑えるから!」
「おーい、他力本願かーい!」
「ふふふ、相変わらず、漫才みたいだな…2人は。」
エタルナが笑うと、今度は3人で笑い合った。
ダンジョン"イグニタス"の第2層の階段付近で笑う3人娘。
他のトレジャーハンターのパーティーがヒソヒソと話をしながら通り過ぎて行くのが分かる。
「とにかく、怪我をしないように気をつけないとね!」
ユミエルが言うように私達が血を流さなければ問題ない筈。
今回の出来事から、エタルナが単純な怖がりでは無いような気がした。
エタルナが一番怖いのは…自分自身。
それでも、前に進もうとする。
その強さを、私はちゃんと見ていた。
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