守る剣と、信じる覚悟
朝から…宿の庭で剣を振る。
無心で剣を振り下ろす。
…はずだった。
だけど…何故か力が入らない。
剣を振っているのに、心だけが置いていかれている。
昨日まで出来ていた動作が、今日は出来なかった。
「はぁ…」
少し、休憩を取る。
右肩の球体もいつにも増して静かだ。
昨日は…色々あったな。
武闘大会。
ダグラスさん。
お父さんの話。
お父さんは…仲間を助けた事を後悔しているかな?
「おーい、アンジュ…この菓子、美味いぞ!」
「アンジュちゃんにもあげるー。」
「うん…ありがとう。」
エタルナとユミエルは顔を見合わしている。
「どうした?」
「何かあったの?」
「ん?どうして??」
特に…普通に返事したつもりだけど…
「普段なら、ガッツリ食いつくだろ?」
「なんで飛びついて来ないのよ?」
そんな行動してたの…普段の私って?
「普通よ、普通!これが…私。」
少し…考え事をしていただけ。
私だって…一人になって考えたい時だってあるわ。
「あ、居た〜。」
この声は…
振り返ると、ミランダさんが立っていた。
「昨日は…ありがとうございました。」
丁寧に挨拶をする。
「どうしたの?今日は少し大人しいわね。」
「そうですか?」
ミランダさんは不思議そうに首を傾げた。
「まぁ、いいわ。」
「今日はお願いがあって来たの。」
「え?私にですか?」
「そうよ…今日、来る予定だった子供達の剣の先生がお休みしちゃってね。」
「だから代わりにアンジュちゃんが教えてくれる?」
え?私が剣の先生に…って事?
「いえ…私なんかが…」
「昨日のあの新人賞…子供達が提案してくれたのよ?」
そうだったんだ…確かに賞を取れたのは嬉しかった。
けど…私は指導するような立場じゃないわ。
「深く考えなくても遊び気分でも良いわ。」
ミランダさんはそう言うけど…
「アンジュちゃん、行っておいで。」
「そうだな…気分転換になると思うぞ。」
ユミエル…エタルナ…
気を使ってくれているのね。
「じゃぁ…ちょっと遊びに行って来るね。」
二人とは別れ、貴族様の屋敷へと向かった。
訓練は…屋敷の庭で行われるようだ。
「わー、武闘会のお姉さんだ!」
「今日の剣の先生…凄い!やった!」
無邪気に笑う子供達を見て…私も自然と笑顔になる。
「よし、お姉さんの秘剣を見せてあげる!」
「ふふふ…危険なのはダメよ。」
ミランダさんは優しく微笑んだ。
子供達と一緒に木刀を振る。
魔法の素質があると聞いていたけど…
剣の素質もなかなかありそうね。
「お姉さん!こっちこっち!」
「こらー!」
「あっ!!」
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
豪快に転んでしまった…
必死に泣くのを堪えている。
弟に大丈夫?なんて言われたら…我慢するものなのかも知れない。
兄の姿を見て…子供の頃の自分を思い出した。
強がって立ち上がった…父に倒されても何度も…何度も…
「よく…我慢したわね。」
ミランダさんがお兄ちゃんの頭を撫でた。
一連の光景を見て私は思う。
もし…この子供達が危険な目に合ったら。
私は守りたい…
たとえ盾役じゃなくても…
何故か、右肩に浮遊する球体が、
いつもよりも冷たい気がした。
「どうしたの?」
ミランダさんが問いかける。
「お父さんが…仲間を守ったのは間違いだったのでしょうか?」
「うーん…私達のパーティーには、立派な盾役が居たの。」
「ザンブルグさん…ですね。」
「そう…盾は盾。剣は剣。役割、分かるかな?」
「分かります…でも…剣が盾になっちゃダメなのでしょうか?」
ミランダが言う。
「あなたにも素敵な仲間が居るでしょ。」
「はい…」
「あなたのお父さんが仲間を信用していなかったとは思わない。」
「ただ……“任せきる”所まで、踏み込めなかったんじゃないかしら。」
そう…私にはエタルナが居る。
ユミエルも居る。
「ミランダさん…ありがとうございました。」
「お礼を言うのは私の方よ。」
その微笑みはとても優しかった。
「お姉ちゃん、コレあげるー。」
二人が何かを差し出す。
手渡す物は…
この丸い物…何だろ?
「これ、なぁに?」
私が尋ねると満面の笑みを浮かべる。
「昨日の大会のメダルだよ。」
「新人賞ー。」
あら…嬉しい。
手作りのメダルね。
優しい二人の気持ちを私は受け取った。
「ありがとうね…」
宿に帰り…
エタルナとユミエルに問いかける。
「ちょっと、聞いて欲しい事があるんだけど…」
「ん?どうした?」
「アンジュちゃん、なぁに?」
「守る剣って…ダメな事なのかな?」
「私のお父さんは、間違っていたのかな?」
一呼吸空いた後、エタルナが答える。
「分からない…でも、私達のパーティーでは、あたしが盾役だ。」
「二人を傷つかせない。」
「もし…傷つくのなら、それはあたしだ。」
球体は、何の反応もせず…ただそこに浮かんでいる。
「エタルナ…そんなの嫌。」
ユミエルは、何も言わずに杖を握りしめている。
「あたしは二人が傷つくとバーサーカーになってしまう。」
「それは…困るだろ?」
「確かに困る…でも、それはエタルナと離れ離れになりたく無いから。」
「だから…あたしは二人を傷つかせない。」
「それとも、アンジュはあたしを信用出来ない?」
「信じてる…私は、エタルナを信じている。」
「だから……私は、任せる。」
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