大柄の男と、細身の男
武道大会、当日。
前日に登録出来て助かった。
ミランダさんの紹介状があったのが良かったのかも。
控室に行く。
ドアを開けると同時に視線を浴びる。
木刀を振る、静かで強い音が聞こえる。
白い呼吸が見える。
「えっと…ダグラスさんって、どの人かな?」
きっと、強い人なんだろうけど…
誰がダグラスなのか分からない。
きっと強い人なのだろうけど…
全員、強そうだわ。
「あら、随分と可愛い子が来たわね。」
スラッとした立ち姿の女性剣士が声をかけて来た。
「あ、アンジュと言います。」
「よろしくお願いします!」
「見ない顔だけど、この大会は初めて?」
「はい、武道大会自体、初めてです。」
「じゃあ、説明してあげるわね。」
役員の方から説明は受けたけど、とても簡単に言われたので正直、助かる。
「使用されるのは木刀。」
「勝敗の判定は…」
「気絶による戦闘不能。」
「頭・胴・心臓位置への有効打。」
「あと、木刀を手放してしまっても負けね。」
「トーナメント式で、この人数だと…」
「5回くらい勝ったら優勝ね。」
「ありがとうございます!」
「良い目をしてるわ…頑張ってね。」
控室の隅に置いてあった武器入れの中から、
手に馴染みそうな木刀を選んだ。
「おーい。」
出番までは、まだ時間があったので、
観客席に居るユミエルとエタルナと合流した。
「あっちにミランダさんも居るわね。」
「え?どこ?」
ユミエルが指を差す方向を見ると、一段高い場所に見つけた。
となりには昨日、会った子供達が座る。
あそこが貴族席なのね。
早速、1回戦が始まる。
木刀と木刀が交わる音が響き渡ると、
場内は歓声に包まれた。
エタルナも興奮を隠せない。
ユミエルは比較的、落ち着いているようだ。
「あ、さっきのお姉さんだ。」
大会ルールを教えて貰った事を二人に告げる。
「あ、あぁ…」
応援していたけど、大柄の男の剣が腹部へと当たり…
負けてしまった。
「吹き飛んじゃったね…」
「アンジュちゃんも気をつけて…」
そんな事を言われたら、凄く不安になるんだけど…
「次!ダグラス選手!」
あの人が…ダグラスさん。
見ると、普通の体型。
鎧も盾も、特に立派な装備ではない。
「やぁ!」
対して、大柄の男が上段から木刀を振り下ろした。
トンッ
ヒラリとかわしたダグラスさんは、
相手選手の腕を静かに叩く。
すると…大柄の男は、木刀を落とした。
「勝者!ダグラス!」
「あれ?もう終わったのか?」
背後から、そう声が聞えた。
歓声では無く…どちらかと言うと、ざわめきが会場を包む。
「ダグラスさん…やはり強いな。」
エタルナの声に私も頷いた。
「そろそろ行くね。」
二人からは軽く応援を受ける。
もしかして…あまり期待されていない?
とにかく…急ぎ足で階段を降りた。
「次、アンジュ選手!」
名前を呼ばれ…円形の闘技場へと登る。
上から見ていたよりも、ずっと大きく。
木刀を持つ手には汗が滲んだ。
相手は、私よりも大柄。
まぁ…当然か。
「ラッキー!」
小声で言う対戦相手の声を私は聞き逃さなかった。
タッ!
先制攻撃!
懐に飛び込んで、木刀を水平に振り切る。
(大きな相手には、体ごと当たれ。)
ザンブルグさんに教えられた言葉を思い出す。
カン!カン!カン!
木刀と木刀がぶつかり合う音が鳴り響く。
ドッと歓声が湧いた。
うん…重いわね。
でも、ザンブルグさん程では無いわ。
ここは…一旦、引くっと。
後方へと、ステップで下がる。
「おいおい、逃げるのかい?」
ニヤリと笑うと、大きく木刀を振りかぶりながら突進して来た。
「ここ!!」
右足に体重を乗せ、木刀を下から振り上げる。
ドンッ!
相手は尻もちをついた。
「1本!そこまで!」
心臓を狙った攻撃は、見事に的中。
どっと歓声に包まれる。
「ふぅ…球体の力を借りなくても勝てたわ。」
…でも、次もそうとは限らない。
ギリギリだったわね。
「クソっ!」
悔しそうに、こちらを見ながら退場する男。
次まで時間が無いわ。
休まないと…
控室に戻ると、ダグラスさんの姿が見えた。
そっと近づき…会釈だけする。
とても、何かを話す雰囲気では無かった。
2回戦
次の相手は細身の男だった。
こういう体型の方とは戦った事が無いわね。
「はじめっ!」
審判の声で、木刀を構える。
…と、相手選手は、飛び跳ね始めた。
ぞっとした。
こんなの、戦ったことがない
ピョン…ピョン…ピョン
しまったわね。
1回戦で、この人の戦いを見ておくべきだった。
ジワリと…足を運ぶ。
「来た!」
細身の男は、そのまま跳ねながら近づき…
木刀を振り下ろした、
「くっ!」
何?
今…腕が伸びた!?
「ひゃーひゃっひゃ!」
おかしな笑い方をする男。
ちょっと…気持ち悪いんだけどっ!
もう一度、同じ攻撃が繰り返される。
カン!
何とか、振り降ろされる木刀を防いだ。
この人…腕が異常に長いんだわ。
集中…
相手の動きを見極めないと…負ける!
その時…右肩の球体が熱を持つのが分かった。
《感覚二倍…筋力二倍。》
「え?ちょっと…」
勝手に…と、思った瞬間。
右側面から、木刀が伸びるように近づくのが見えた。
木刀の下、ギリギリのところを潜り抜けてかわす。
そして…
相手の背中を打つ!
ドンッ!
相手選手は倒れ…その手からは木刀が離れていた。
「勝者…アンジュ!」
「わーーーーー!」
という、大きな歓声により、
会場が地鳴りのように揺れる。
その歓声に応えず…ゆっくりと控室へと戻った。
「ちょっと!勝手に発動しないでよね!」
「自分の力で勝てたか分からないじゃないの!」
誰にも見られないように、
控室の隅の方で、
右肩に向けて叱りつけた。
球体は…少し熱を帯びる。
「何?反省してる?」
そう尋ねるも…返事は無し。
まぁ…いつもの事だけど。
ダグラスさんの姿を探すも見当たらない。
椅子に座り、体と気持ちを落ち着かせる。
周りの視線は…
今朝、ここに入って来た時よりも強くなっている。
「アンジュ選手…次です。」
役員の方に呼ばれ、闘技場の上へと向かう。
「ルーキーの登場!アンジュ選手!」
ゆっくりと階段を登る。
「対するは…ダークホース!ダグラス選手!」
いつかは対戦する事になるのは間違い無いけど…
3回戦でか…
ダグラスさんは、すでに闘技場の上に立っていた。
じっと…その姿を見つめる。
その立ち姿、やはり…スキが無い。
観客席の喧騒が遠のき、自分の心臓の音だけが大きく聞こえる。
「さっきはゴメン…球体。」
「悪いけど…発動して。」
ブルリと震えると…球体は熱く…そして光る。
《感覚二倍…筋力二倍…》
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