出会いと、三人娘の始まり
死んだ…
振り下ろされるトロールのこん棒を前に、私はそう確信した。
…その時だった。
《感覚二倍―》
脳内に響く、冷徹な声。
次の瞬間、私の世界は一変した。
「あれ…?どうして、トロールは倒れちゃってるの?」
私は、こうして立っている事が出来ている。
目の前には、巨体を横たえたトロールが、ピクリとも動かずに倒れていた。
「ちょっと、どういうことよ!アンジュちゃん、いつからそんなに強くなったの!?」
「す、凄い……!アンジュの動き、めちゃくちゃ速かったぞ!」
背後から慌てて駆けて来たのは、ユミエルとエタルナ。
二人とも、信じられないものを見る目をしている。
まぁ、一番信じられないのは、私自身なんだけど。
手に握った剣が、急にずしりと重く感じられた。
さっきまで、羽のように軽かったはずなのに。
「こんな町の近くの森に、大型トロールが出るなんてねー。いやぁ、びっくりだったね。」
「……う、うん。びっくり、ね。」
ユミエルの軽い調子に合わせて頷きながらも、頭の中は混乱したままだ。
返答もどこか上の空となる。
トロールが出たことよりも…
私が、トロールを倒したことの方が、よほど信じられなかった。
「それにしても…どうしたんだ?いつもとは、まるで別人みたいだったぞ。」
エタルナの問いかけに、答えようとした、その時。
肩に…ほのかな温かさを感じた。
…あ。
思い出す。
戦闘の最中、トロールの肩に乗っていた、あの“光る球体”。
いつの間にか、それが私の方へ移動してきて…
そこから、急に体が軽くなった。
「…なんとなく、だけど。」
私は言葉を選びながら口を開いた。
「この光る球体のおかげ、かな。体がすごく軽くなった感じがしたの。」
「は?」
「え?」
二人は揃って首を傾げた。
「アンジュちゃん……何言ってるの?どこか、頭でも打った?」
ユミエルは冗談っぽく笑う。
「光る球体なんて、どこにも無いぞ?」
エタルナは真顔で、心配そうに私を覗き込んできた。
…え?
私には、確かに見えている。
最初はトロールの肩にあったそれが、今は私のすぐそばに浮かんでいる。
戦闘の記憶が、脳裏によみがえる。
《感覚、2倍―》
その声は、どこか冷たく…
ただ、私を“道具”のように扱っている気がした。
そこからだった。
トロールの動きが、信じられないほど遅く感じた。
剣を振る速度も、踏み込みも、すべてが研ぎ澄まされていた。
そうか…
「…ねぇ、ユミエル。私に、強化魔法かけた?」
このパーティで、魔法を使えるのはユミエルだけ。
「え?何言ってるの、私じゃないわよ」
即答だった。
「じゃあ……エタルナ?」
「違う違う。もしそう感じたなら……アンジュ自身がかけたんじゃないか?」
「……え?」
私が?
「強化魔法?そんなの、知らないんだけど。」
言葉にした瞬間、場が静まり返る。
「それにしても……吹き飛ばされた時は、もうダメかと思った。」
「そうそう!なのに急に人が変わったみたいに動き出して、バッサリよ、バッサリ!」
ユミエルが杖を振り回しながら、私の剣さばきを再現してみせる。
「だから……やっぱり、この球体のおかげだと思うの。」
エタルナとユミエルは、顔を見合わせた。
「……前から思ってたけどさ。」
「アンジュちゃん、大丈夫?」
……うん。
やっぱり、信じてもらえないよね。
私の目には、はっきりと見えている。
静かに浮かび、寄り添うように存在する、謎の球体。
「頭なんて打ってないわよ。失礼しちゃう」
ため息を一つ、つき終わると話題を切り替えた。
「それより、このトロール…売れないかしら?」
「素材かぁ…分かんないわねぇ。ウチら、モンスター狩り専門じゃないし。」
「町も近い。とりあえず、持って行ってみよう。」
「そうね……にしても、デカいわね、トロール。」
「デカいわねぇ。」
エタルナが車輪付きテントを台車代わりに使い、巨体を引きずり始める。
「助かるわ〜。さすがエタルナ、力持ちね。」
「いや……こういう道具の使い方をだな……」
エタルナは、ちょっぴり臆病だけど…仲間思いの盾使い。
おっちょこちょいだけど、実は優秀な魔法使いのユミエル。
そして――
「よしっ!じゃあ、ハンターギルドに行こー!」
……訳の分からない力を持ってしまった、私。
「アンジュちゃん、本当に治療院行かなくていい?」
「大丈夫、大丈夫。」
この球体のことは…そっと胸の奥にしまい込む。
「ねぇ、キミ……一体、何なの?」
問いかけても、返事はなかった。
この秘密は…誰にも言わない。
私の内緒事の始まりだった。
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新連載、始まりました!
100話以上になるお話の予定です。
今のところ、三部構成を考えていますので、お付き合いよろしくお願いします。
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