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超能奇譚 〜オーロラを見に行こう〜  作者: さしすせその化身
第1部 謎の組織編 第1章 覚醒の11月
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第8話 ランドサット・ドロップその1

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。


 モラは歩きながらそう思った。


 モラは学者になるのが夢で、主に古生物学を学んでいる。


「それにしても…あの化石触った時のあれ、なんだったんだろ?」


 調べれば何かがわかるかもしれない。


 それにアーネットも化石に触って能力が発現したと言っていた。もしかしたら自分も……


 そんなことを考えながら帰路を歩いていく。


 家へと帰る途中、路地裏の方に怪しい2つの影を見つけた。


 2人の男は黒尽くめのダウンジャケットを着ている。

 

「なあボブ…組織はどんくらい化石集めてると思う?」


「うーん…3分の1くらい?」


「賭けるか?」


「次の俺の手柄を」


「じゃあ俺は4分の1に俺の手柄を」


 怪しい会話だが、なんと「化石」や「組織」という言葉が出てきた。


 モラはこの2人にさえバレなければいいと、周りの目を気にせず、路地裏の入口に座り込んだ。

 

 化石を知れば自分が喜ぶし組織を知ればアーネットが喜んでくれるはず。


 もう少し耳を澄ましてみた。

「そういえばよ…最近アデノフおかしいと思わないか?」


「そうか? 確かにあまり見ないが、元々変だろ」


 ボブは素っ気ない態度を取ったがもう1人の男は続けて言った。


「あいつ、確か親が金持ちでよ…普段から高そうな服着てるけど…」


「そうだな、それが何かおかしいのか?」


 彼は周りに人がいないことを確認して答えた。


「……実はあいつの親の会社って今、社長が病気したり、跡継ぎとか……色々大変なんだよ…そんなんなのにあいつの服や時計、前より高級になってる」

 

 ボブはそれを聞くと、少し考えてから言った。


「ただ組織の仕事頑張ってるだけじゃねえの?」


「俺もそうだと思ったんだがよお、マルスさんに聞いたら、あいつ先月から1つしか化石を納品してないらしい」


 彼女は少し苛立った。


 アデノフとやらの話はもういいから化石や組織の話をしてくれ。


 すると、ボブが溜め込んでいたものを吐き出すように尋ねた。


「なあ…タカンキよお…そろそろ良いんじゃねえか?」


「……何が?」


 また話題が変わったようで、彼女は集中して聞いた。

「これ以上喋ってやる必要ねえだろ、世間話を装って話すのも疲れる」


「なるほど…じゃあどうする? ここでやるか?」


 さっきからなにを言っているんだ? 一体なにに疲れているんだ?


 モラは少しだけ顔を出して見た。あろうことか、彼らと目があった。

「北緯66度29分57.5555秒、東経25度43分46.2367秒…『ランドサット・ドロップ』」


 ボブはなにかを呟きながら、ノートに書き込みをしている。


 モラが慌てて逃げようとすると、彼女の頭上に何かが落ちて来た。


 それが何か考える余裕はなく、彼女は手のひらで頭上を覆った。


 頭上に落ちてきたもの、それは緑色のかぼちゃだった。


 意味がわからず男たちの方を向くとボブが舌打ちをした。


「ハズレかよ…まあ良い、次当てれば良い…」


 彼は再びノートを開きボールペンで何かを書き込んだ。書き終わるとノートを閉じる。


 すると、わけがわからず座り込む彼女の頭上に、再び何かが落ちて来た。電球だ。


「まあ…当たりか…」


 頭がヒリヒリと痛む、彼女は戸惑った。


 残念そうに呟くボブをタカンキが心配したように言った。


「今日運悪いんじゃないのか? 俺がやってもいいが…」


「いや良い…あの女電球で頭を痛めてる…このまま記憶がなくなるくらい落としてやる」


 またボブはノートを出し書き込んだ。


 モラは打った頭を抑えながらも、多分あのノートに書かせちゃいけないのだろうとわかった。


 これがアーネットの言う能力か…モラは集中しながら書き込むボブに飛び込んだ。


 ボブは倒れ込みノートを手放した。


 モラは立ち上がり、急ぎ足でその場を離れた。


――


 なんとか遠くまで逃げたので、安堵して座り込んだ。


「ああ…なんだか割れそうなくらい頭が痛い…電球と…かぼちゃを落とす能力…? いや…そんな訳…」


 自分なりに考察をしてみたが、答えは出ない。


 頭の痛みが収まるまでSNSを見ていたが、あまりに化石のことが気になったので、調べてみることにした。


 すぐにGoogleで「超能力 化石」などの言葉で検索を掛けた。


 あまりにヒットせず諦めかけていると、興味深いサイトを見つけた。


「化石に触れると能力が手に入る…?」


 その能力の名前を化石が生きていた時代から取って「ジュラ」と言い、それに触れると電流のような強い衝撃と共に能力が手に入れられる。


 陰謀論や都市伝説の類いの話だが、モラはそれをすでに体験している。

 

「アーネットの言ってたことと同じだ…てことはあの化石のレプリカは本物? じゃあ私にも本当に能力があるってこと?」


 色々と考えていたが疲れたのでスマホを閉じた。


 ただ黙って座り込む。すると、周囲の色々な音がまっすぐに聞こえてくる。


 鳥の鳴き声、誰かの声、そして…………紙に何かを書き込んでいるような音。


 紙に何かを書き込んでいるような音?


「『ランドサット・ドロップ』…やっと見つけたぜ」

 

 モラは慌てて逃げた。


 息切れしている彼らは執念深く彼女を追う。


 そして、モラの右足にレンガが勢いよく落下した。


 モラはあまりの痛みに悶えた。


「どうするボブ? 殺すなら俺は離れとくぜ」

 タカンキがボブに尋ねた。


「いや…脅せばこういうのはなんもできなくなるさ、例えば家族や恋人を殺すぞとか」


 それを聞いたモラは騒いで訴えた。

「やめて! アーネットだけは…」


 思わず、聞かれてもないアーネットの名を出してしまい、心の中で自分を責めた。


「あ、ちが、アーネットは……」


 なんとか誤魔化そうとするも、


 ボブは慌てるモラを嘲笑った。


「ほらな、脅すとなにもできない。じゃあその…アーネットとやらが人質だ。お前は誰にも話さない、そしたら俺らはアーネットを殺さない」


「…はい」


 不服だが、彼の命がかかっているため従わざるおえない。


 しかしこのままでは彼に迷惑がかかってしまう。


 それは嫌だと思い、モラは提案した。


「あ、あの、やっぱり人質は…アーネットじゃなくて私のおじいちゃんとかじゃ…ダメですか?」


 モラのおじいちゃんは去年病気で死んでいる、そのためおじいちゃんを人質にすれば誰にも迷惑がかからない。


 モラの提案を聞いたボブとタカンキは少し話し合って言った。


「…まあいい、そいつの名前を教えろ」

「は、はい、えーと名前は…」


 アーロンと言おうとしたが、モラは言葉を詰まらせた。


 アーロンは父方の祖父だが、母方の祖父の名前も同じくアーロンなのだ。


 そしてそのアーロンはまだ生きている。


 これじゃダメだ。


「あの〜、すいません、やっぱりおじいちゃんじゃなくて従兄弟のマリにしてもいいですか?」


 従兄弟のマリなんて人間は存在しない。

 これなら誰にも迷惑はかからない。


 しかしタカンキが少し考えて尋ね返してきた。

「マリ? 下の名前はなんだ?」


「え? あ、アレックス、マリ・アレックスです」


 名前を聞くとタカンキは仰天した。

 

「おお! そいつ知ってるぞ、俺の元カノだ! へえ、お前の従兄弟だったとは」


 モラは恨んだ、偶然を。こんな偶然許されていいのか!?


「あ、いや違いますよ? 多分違います、それはそれとして…やっぱりマリじゃなくて…」


 次の代替え案を出そうとするモラにボブは怒鳴った。


「おい! てめえ誤魔化そうとしてねえか? 俺たちが馬鹿だと思ってんだろ!」


 ボブは怒りに任せてノートを開き、書き込みを始めた。


 モラは右足を引きづりながらボブのノートを奪い取った。


 ノートの中にはさまざまな緯度、経度の座標が書かれていた。


 このノートに書いた座標に何かを落とす能力か?


 ノートを奪い盗ったこと、それは一時の安心に過ぎなかった。


 彼は座標をスマホに打ち込み、彼女を罵った。


「ノートを奪えば能力が使えないとでも思ったか! バーカ! 頭でもぶつけてろ! クソ女ァ!」


 モラは頭上の物体を見て困惑し絶望した。


 そしてタカンキは彼女の頭上に現れたものを見ると、慌ててボブを引き剥がした。


「ボブ! 馬鹿てめえ! 大外れだこれは!」


 現れたのは、モラの体全体を覆うほど巨大な岩だった。


 モラはなすすべなく、それに押しつぶされた。

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