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超能奇譚  作者: さしすせその化身
第1部 謎の組織編 第1章 覚醒の11月
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第4話 クソデカ包囲網

 大きな大きな木、飾り付けられていくにつれてそれは巨大なクリスマスツリーへと変貌する。


 カヤノは木を飾り付けていた。数日後に始まるクリスマスマーケットのためである。


「カヤノ、持って来たぞ」


 インテリメガネの見た目。カヤノの父親が飾り付けの入った段ボールを持って来た。。


「あぁありがとよ、えーと…。」


 親父や父さんと呼ぶべきか、それとも名前で呼ぶべきか、カヤノはいつも迷ってしまう。


 なぜならカヤノの父親は多忙であり、幼い頃からあまり交流がなかったからだ。


 仲が悪いわけでも、母親との関係が悪いわけでもない、ただただ静かで近寄りがたいだけだ。


 口籠もるカヤノを見て父親は言った。


「どうした?」


「いやなんでもない」


 悪い人ではないが、とても仲良くなれる気がしない。


――


 準備をしていると、誰もいない貧相な屋台を見つけた。


 骨のような物が並んでいて、値札は付いていない。輝きこそないがなぜか惹かれた。


「商品じゃ…ねぇのか?」


 気味が悪いと思いながらも、その骨に手を近づけた。


 カヤノの中指の先端が化石に触れる直前、カヤノの横腹を何かが掠った。


「かかったな、こんな気味が悪いもんに興味持つ奴なんて…、そういないよな〜」


 電柱の後ろから40歳くらいのスキンヘッドの男が笑いながら現れた。


「だ、だれだ?」


 そんな事を聞かずともカヤノは理解できた。きっとこの屋台の店主なのだろう。


「俺に答える義務はない。俺はこの屋台の管理者だから、お前になぜ触ろうとしたのかと聞く「必要」があるんだ…、嬢ちゃんよぉ…。」


 気持ちが悪い……。

 カヤノが骨に触ろうとすることや、昨日の天気、全てを計算して行動しているかのような雰囲気だ。


「俺は別に盗みを働こうとはしていない、それと嬢ちゃんじゃなく俺は男だ」


 男に背を向けて準備に戻る。すると、足に再び鋭いものが掠った。


 振り向く。


 カヤノは目の前の光景に困惑し恐怖した。


 なんと、男の二の腕が一部がダイヤモンドのように結晶化していたのだ。


「これは…、俺の能力「レプタイルスケイル」。てめぇの脳天をぶち破ることだってできたのさ」


 カヤノはせっかくの可愛い服が血で汚れないように、擦り切れた足を抑えた。

 

「レプタ…? いや、俺は何も、知らねぇ」


 そう言った矢先、幹部のマルスの話を思い出した。化石や超能力の話だ。


 しかし、身の安全のために知らないフリを貫くことにした。


「知らねえわけねえだろ? お前はその化石に触れようとしたんだ。何も理由が、ねぇわけねぇよな?」


 ツキノワグマの如き眼光!体が震えて、汗が吹き出しそうだ。

「い、いや本当に知らない、その骨みたいなのになんだか得体の知れない魅力を感じたって言うか」


 そのとき、カヤノはいいことを思いついた。


「そ、そうだ!その化石俺にくれよ!金ならそれなりにあるし、屋台に並んでるんなら売り物なんだろ?」


 手に入れて組織に渡す、そうすれば報酬が手に入れられる。

 あまり頭の良くないカヤノが考えられる最大限の策だ。


 しかしカヤノの期待に反して男はまた結晶を飛ばした。結晶はカヤノの顔面スレスレを通った。


「舐めんなよ!こいつはエサだ。化石を手に入れようとするやつを見つけ出し、捕まえ他の化石の場所を吐かせる為のな…」


 男は結晶化した指拳銃をカヤノに突きつける。


 カヤノは一理の希望に託して、震え声で尋ねた。

 

「ほ、他の化石の場所って…、も、もし俺が……、他の化石の場所……、知らなかった場合は…、どうなる?」


「目障りだから殺す」

 男は即答した。


 カヤノは聞かなきゃ良かったと心の底から後悔した。


 カヤノは死にたくないので、すぐに横腹と脚の痛みを堪えながら全力で逃げ出した。


――


 人に殺されそうになってる時、こんなにも恐ろしいんだとカヤノは知った。


 それにしても「目障りだから殺す」だなんて人間の言うこととは思えない。


 だが、愛しの我が家に帰りさえすれば安心感で包まれるだろう。


 そう思って、おそるおそるドアを開ける。


 中でヤツが待ってる、みたいなB級ホラーな展開がなくとりあえず安心。


 母親も父親もクリスマスマーケットの準備に勤しんでいるので、この一戸建ての中にはいない。


 だがこの家には、1人座禅を組む老人がいる。


 ベランダの弱々しい老人にカヤノは語りかけた。


「ただいま、じいちゃん」


 そう優しく声をかけた所で、じいちゃんから返事は返ってこない。


 カヤノの祖父は10年前から意識と生命活動に必要な動作以外全てが硬直するという病気にかかっている。


 聴力はあるらしい。


 今でこそひょろひょろの雑魚みたいな体だが、昔は探検家でムキムキだった。


 昔はよく冒険譚を語ってくれた。


 うんともすんとも言わないじいちゃんに、カヤノは昔から、涙が出そうになる。


 カヤノはベランダから外を除き込んだ。


 11月の午後5時。暗いが道行く人は多い。その中にあの店主はいない。


 深追いするつもりもないだろう。ひとまず安心と思い座り込んだ。


「あの店主…まじでイカれてるぜ、本当に…何者だったんだ?」


 そんなことを呟きながら星を見る。


「こんなに星があるなら、宇宙人とか、絶対いるよな」


 そろそろクリスマスマーケットの準備にも戻らないと母さんから怒られる。


 しかしあの男の露店が同じ広場にあるせいでそう易々と戻れはしない。なのでカヤノはクローゼットに向かった。


「じゃ、着替えるか…。」


 カヤノの女装趣味は幼い頃、可愛らしい顔のカヤノを母親が着せ替えたところから始まった。それから、自分でもハマってほぼ毎日女装している。


 カヤノは焦げ茶髪ロングのカツラ、厚手のパーカーを着た。


 ここまで印象を変えればあのイカれ店主にバレずに準備に戻れるだろう。


 あとは広場に戻るだけだ。


 しかし懸念点が一つだけある。


 右目の下の泣きぼくろまでは誤魔化せなかった。


「ま、さすがにそこまではあいつも見てねえだろ」


――


 露店を見たがあの店主は居なかった。


 あの姿の俺を探しているか、もしくは帰ったのかもしれない。


 一安心した俺は、このまま準備に戻ろうと思った。


 しかしその時、どこからともなくビー玉のような塊が飛んできた。


 その塊はバスケットボールのように、俺のパーカーにシュートされた。


「なんだ? このビー玉…」


 怪しく思ってそれを手に取ると、ビー玉から「カチ」という音がした。


「この音、爆弾かッ!?」


 危険を感じて路地裏の方に投げ込むと、ビー玉は破裂し、尖った結晶が四方八方に飛び散った。


 結晶は俺の右手にも刺さった。


 痛みを堪えて取り出すと、それは間違いなくあの店主の物だった。


「どこにいる…どこかに隠れてんだろ?」


 どこかにいるはずの店主に問いかけた。


 見える範囲にヒョロガリスキンヘッドは見当たらない。


 店主の声がどこかから聞こえた。


「少し見た目を変えた所で、俺の目を欺けると思ったか? 眉毛の形、ほくろの位置、俺は俺が殺すと決めた人間、いやアリ1匹の形も決して忘れない」


 男の執念深さに背筋が凍る。

「そんなところまで見てるなんて…、とんだ変態だな」

 

「隠れやがって、どう探せば…」

 と考えていたが、思いつかないのでとりあえず開けた場所へ走った。


「こんな広場に出ても周りを巻き込むだけだぞ?さては頭悪いなお前」


 どこから響くかわからぬ声で頭の悪さを指摘され、とても頭に来たので、八つ当たりで空き缶を空に投げた。


「うるせえ!」


 すると空き缶は空中で静止した。


 俺はその光景の意味がわからず止まった。


「あ? えっと…、もしかして、てめぇそこにいるな?」


 空き缶に向かって言うと、俺の肩にぽしゃりぽしゃりと水滴が着地した。


 雨ではなくそれは汗だろう、上にいるやつの汗だ。


「なるほど、咄嗟にキャッチしちまったって事かこのマヌケ野郎が」


 きっとさっきの結晶で空に隠れてたのだろう。結晶は保護色にもなるということか。


 上と分かれば話は簡単、俺はあの店主の露店に向かって走った。


 あそこならば上に屋根があり攻撃を防げると思ったからだ。


 店主は結晶を乱れ撃ち、だがそれは逆に、常にあの男が上にいる何よりの証拠だった。


 すね毛のない綺麗な足を露店に滑り込ませた。

「そんな傘程度で身を守れると思ったかぁ!」


 店主は身を隠した結晶を剥ぎ取り、全てを右手に集め、傘を勢いよく突き破った。


 破れた傘の先にいるのは、もちろん俺だ。


 しかし鋭い右手が突いていたものは俺ではなく、大切にしていた化石だ。


 その瞬間、俺の全身に電撃のような衝撃が流れた。


「たしか、これに触れば能力ってのが手に入るんだっけか? 一体俺のはどんなのだろうなぁ?」


 これはまずいと、店主はカヤノと距離を取った。


「どんな能力だと? どんなもんでもてめぇの頭じゃ理解できないと思うぜ?」


 馬鹿にしたように言う男だが、俺も怯むことなく自信たっぷりで言った。


「そうなのか? 俺の能力なんだから単純なもんだと思うがな」


 自虐混じりに答える裏で、俺は考えた。


 俺の勘は言う。この男は普通の悪党とはどこかが違う。いつか俺の身の回り、いや世界中の全てを最悪に陥れる……そんな気がした。

 

 不敵にこちらを睨み笑うひょろひょろな男に、俺は強く宣言した。

 

「これからどんな事が繰り広げられようが、必ずお前をぶちのめすと決めたぜ!」


 自信満々に宣言したその瞬間には、あちらからの攻撃は始まっていた。


 突如として俺の頭上に黒く丈夫なワイヤーのような物が現れて落ちた。


 俺はそれにあっという間に閉じ込められた。


「笑える、笑えるぞこれは!真に賢いやつなら無駄にカッコつけた宣言なんかせずにテキパキ捕まえ、殺す!今からお前がやられることさ!」

「くそ、このワイヤー…硬い…ッ」


 なんとか抜け出し、走り出した。


「無駄だぁ!喰らえ三日三晩の努力ぅ!」


 男がそういうと、再び頭上から黒いワイヤーが現れ、俺を捕えた。


 何度か抜け出して避けてを繰り返したが、どこに逃げても無駄だった。


「俺の能力を教える事はできないが、今何が起こってるかくらいは教えてやる。これは俺の体から出た皮膚を結晶化させ加工したものだ。そしてそれを今日まで3日間町中に張り巡らせた!つまりどこに逃げても無駄なんだぁ!」


 言ってることの規模のデカさに、俺は言葉を失った。しかしそうしてる間にも、相手が話し終わったので再びワイヤーが落ち始める。俺は避ける隙もなく再び捕えられてしまった。


 俺は地面に手をつき懇願した。

「なるほど、これで上に隠れてたってことか。お手上げだお手上げ、だからせめて命は助けてくれよ」


 ラギーは唖然とする。あっけなく降参した俺を訝しんだのだろう。


 もちろん、これはブラフだ。必ずこの男を仕留めてやる。

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