第13話 八木宗一郎その1
第2章〜
12月に入り、今年もあと1ヶ月程度。
しかし、足すら動かないエヴァにとっては、その日々が永遠のように感じられる。
彼女はため息を漏らした。
今日は雪なのだから、このロマンチックさを背景に、デートをして、思い出を刻む者たちがどこかにいるはずだろう。
恋愛をしたいわけではないのだが、そう思うと、交番で1人退屈にしている自分が悔しく思えてくる。
その時、勢いよくドアが開いた。
緑髪のポニーテール。気の強そうな女性が駆け込んできたのだ。
エヴァは尋ねた。
「どうしました?」
「いや、お金…」
彼女は呟く、エヴァは首を傾げて聞き返した。
「お金…? 一体なんの」
「この前の…謎の組織の人を2人倒した時の!」
「忘れたんですか?」と仕方なさそうに言う。
エヴァは唖然とした。
あの時の人は確か、丸メガネで髪の長い女性だった。しかし髪の色は同じだ。
エヴァの表情を見て、モラは自分があの時と違う格好をしていることに気づいた。
「あ…す、すいません……全然違う格好で」
恥ずかしそうに顔を赤らめる。
エヴァは納得して頷いた。
「あぁ、彼氏の趣味か…」
独り言のように呟くと、彼女はまた顔を赤らめて否定した。
「い、い、いや! アーネットはまだ彼氏とかじゃ……」
「じゃあ、お金というのは、組織の構成員を捕まえた時の?」
「あ、はいそれです。捕まえたはいいんですが、どうやって貰えばいいのかわかんなくて」
エヴァは「そういうことか」と納得し、申し訳なさそうに答えた。
「それは多分…交番じゃなくて警察署に行ったほうが良いかと……私にはわかりかねます」
そう言うと、彼女は残念そうな顔になった。
しかし、思い出したかのように目を見開いた。
「そうだそうだ、もう一つ用がありまして…」
モラは鞄の中4枚の紙を出した。
どうやらその紙に書かれているのは個人情報のようだ。
「ボブ・サット」29歳男性フリーター、趣味は釣り。
「ウェル・タカンキ」31歳男性無職、逮捕歴あり。
「八木宗太郎」24歳学生、日本出身。
そしてもう一枚には、八木宗一郎の1日のスケジュールや趣味がSNSへの投稿であること、思想が右に偏っていることなどが詳細に記されていた。
印刷されたボブとタカンキの顔を見て、これらが謎の組織構成員の情報だとわかった。
「もしかして……調べたんですか? これ、全部?」
「あ、はい! あのあと、気になって調べちゃいました!」
エヴァは言葉を失った。国はこの女を雇うべきだ……絶対。
「探偵か警察になれますよ……いやなってくれ」
すると、彼女が「八木捕まえて来ます!」と交番を飛び出した。
「おい待て」とエヴァは引き止める。
「一般人1人に行かせるわけにはいかない……私も動けないから…今度警察が捕まえておく」
彼女はとても残念そうな顔で立ち止まった。そんな顔されても、八木がどんな能力を持つかわからないのだから、黙って送り出すわけにはいかない。
その時、パトロールから警察が帰ってきた。
「お疲れ様で〜す」
渋めな風貌をしたおっさんの警察官はエヴァに尋ねた。
「事件の捜査でも、していたんですか?」
おっさん警察の視線の先には、モラが持ってきた資料があった。
エヴァが事情を話すと、おっさん警察は目を見開いて驚いた。
「ほ、ほんとに君がやったのか? 探偵か?」
モラは褒められて、照れくさそうに笑った。
そして、彼は言った。
「そういうことなら、今から八木を捕まえてくるとしよう」
さっそく出かけようとするおっさんに便乗してモラが言った。
「わ、私も行きたいです!」
「駄目だ、ここからは警察の仕事になる」
そう言っておっさんは交番を出ていこうとするが、モラはそれでもしがみついた。
どうしても行きたいらしい。
エヴァからしたら、どっちが行っても心配が付き纏う。仕方がない、エヴァは交番の奥の部屋に向かって叫んだ。
「黄のヒト! お前も行け!」
「黄のヒト……?」
「誰だ」
モラとおっさんが首を傾げる。
奥の扉がゆっくりと開き、全身真っ黄色の人が現れた。
「誰ぇ!」
「なんだこいつ! 知らないぞ!」
真っ黄色なトレンチコートと眼鏡、紳士のような帽子を付けた黄のヒトは行儀よく会釈した。
「そいつ、結構頼りになりますよ」