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超能奇譚  作者: さしすせその化身
第1部 謎の組織編 第1章 覚醒の11月
11/13

第11話 ビデオ

残酷表現あり。注意せよ

 サブスクやネットの普及によって消えつつあるレンタルビデオショップ。


 生き残りビデオショップの店員、それが私。この店のことならなんでも知り尽くしてる。


「あの〜? すいません」


 客がソワソワしながら話しかけてきた。


 私は愛想よく答えた。

「はい! なんでしょう、うちは映画にCD、AVの種類も豊富ですよ〜?」


 客は少し押されたように後退りしたが、質問した。


「えっと…「ジュラシック・パーク」ってありますかね…?」


「ああ〜、申し訳ございません…ジュラシック・パークはシリーズ全て品切れしておりまして〜、先ほどまでなら1つあったのですが〜」


「ああ、そうですか…ならいいです…」


 逃がさない、なぜなら私はレンタルビデオを愛しているから。


 私は客の衣服の裾を力強く掴み、客を引き止めた。


「代わりといってはなんですが! 「ジュマンジ」や「アルマゲドン」なんかおすすめですよ〜? どうです?今キャンペーン中でして、シリーズ作品を3本買われると1本分お得になるんですよ〜…どうです? ネットフリックスよりいいんじゃないんです?」


 客は苦悶の表情を浮かべながら逃げた。


 まったく、私の接客は完璧なはずなのに。


――


 帰路、私は帰路を進んでいた。


 このジョンは、仕事を終えて家に帰っているのだ。


 今日の天気は雪、というより、最近はもっぱら雪続きだ。


 小さなアパートの扉を開くと我が家だ。


 外の冷気で寒い、散らかった狭い部屋。しかし、私は住居へのこだわりがない、独り身なので、生涯ここで暮らしても良いだろう。


「酒……あったあった…」


 缶ビールをチビチビと飲み、晩酌が始まる。


 テレビは嫌いなので映画でも見よう。


 私は帰路の途中で立ち寄ったレンタルビデオショップで借りた映画を再生した。


 「ジュラシック・パーク」第1作目、私が古生物学をに興味を持つきっかけになった映画だ。


 ところで、あのラルナとかいう少年は何がしたかったのだろうか。


 なぜあんなに化石のレプリカを欲しがるのか、意味不明だ。


 その時、ピンポンと呼び鈴が鳴った。


「はい、今開けます」


 扉を開くと、そこには若い男が立っていた。


 ハイブランドの服を着こなす、ツリ目の青年。


 私はぽかんとして尋ねた。

「なんの用です?」


「いや、もう用は済んだよ、腹を見なよ」


 言われた通りに視線を移す。


 すると、私の腹にナイフが突き刺さっていることに気づいた。


 痛みが遅れてやってくる。突然の出来事に、頭が追いつかない。


「うう…ぐっ…あぐぁ…」

 腹から綿のように溢れ出す血液が、玄関前の雪を赤色に染める。


 玄関先の悪魔は、私を見下し嘲笑う。


 呼吸すら止まりそうな苦しみの中で、私は静かに目を閉じる。


 その時、ガタッという大きな音がして、私は驚いて目を開いた。


 何者かが、青年を抑えつけていて叫んだ。


「おい! アデノフ! 何してる! なぜ教授を殺した!」


 ぼやけた視界の中でも、抑えつけている男が、あの図々しい少年ラルナであることがわかった。


 アデノフと呼ばれた青年はため息を吐き呟いた。


「またか……」


 彼は真顔で言った。

「離してくれない? この人の部屋から化石を盗まないといけないからさ。それに、頼んだのは君だろ?」


 ラルナはそれを聞くと、アデノフに殴りかかる勢いで叫んだ。


「ふざけるなよ! お前が殺人鬼だと知ってたら、提案になんか乗らなかった! 金は受け取らない…そこまで僕は堕ちてない…ッ」


「いや受け取るね、君は喜んで受け取るよ…」


 アデノフは冷淡な目つきで私を見つめると、数を数え始めた。

「9…8…」


「なにを数えてる!」

 ラルナが叫ぶ。


 アデノフは口が裂けたような笑みで答えた。


「怒りの継続時間だよ……君の」


 私の意識も、長くは持たない、だんだんと会話の内容も頭に入らなくなってきた。


 3,2,1……アデノフが数える。


「0」


 アデノフが数え終えたところで、私は死んだ。


 最期の瞬間に思ったことは、私を殺したこの悪魔を、誰かに裁いてほしいということだった。


 警察でも、ラルナでも、ただの一般人でも良い。誰かが裁かなければならない。


――


 ラルナが目を覚ますと、雪の上だった。見知らぬアパートの2階。


「僕は一体なにを……?」


 記憶にモヤがかかっているような感覚だ。


 確か……アデノフがどうやって化石を手に入れるのか気になって後を追っていたら……追っていたら……追っていたら?


「なんにも思い出せない……」


 妙な違和感を抱えながら、ラルナは家に帰ることにした。


――


 私はレンタルビデオショップのカリスマ店員、レンタルビデオをオワコンから救う者。


「あの…会計」


 客が話しかけてきた。


 だれかと思えばさっきジュラシック・パークの取り扱いを聞いてきた客じゃないか。


 想いが通じたか。さすが私。


「「ジュマンジ」「ジュマンジ2」そして…「ジュラシック・パーク」…一週間後までに返却お願いしま〜す」


 客は金を払い終わり、そそくさと帰った。…が、矛盾に気づいた。


「あれ? ジュラシック・パーク…なかったはず…」


 急いで在庫をチェックしにいく。


 しかし、途端に自分がバカらしく思えてきた。


「私は、疲れてるのか? 元々あったし、あの客にもあると言ったじゃないか…」


 まあまあ、こんなことはよくあることさ。


 さっ、仕事頑張るぞ〜!

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