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マージ―の悩み事  作者: しんた☆
4/11

4 ベイカーと予知の答え合わせ

今回は少し長めになってしまいました。

『どうも嫌な予感がする。マージ―、おまえは教室に戻れ!』

『はぁ? 何を言ってるのです? これを確かめなくてどうするの』

『まずは鏡を見た方がいい。左の頬に緑の絵の具が付いてるぜ』

『え? さっき背景を書き込んでたからですわ。…きゃっ! 何あれ! 校長先生が不思議堂に捕まって…』

『なにがあった? こちらからは見えないんだが。確かに光がうごめいて見えるな。待てよ。この前おまえを拉致したグレッグって奴と校長は親戚だって言ってたよな。あの光の中でビリビリ光ってるのって、校長の魔力じゃないか? いや、それだけじゃない…』

『んんっ! ミハエル、念話を切って!』

『え? どういうことだ? おい!』

『…』


 ミハエルは、すぐさま幼馴染のいた校舎側に向かったが、そこには人の気配すらなかった。茫然としていると、後ろから声がかかった。


「どうした? まだ製作途中だろ?」

「あれ? ああ、考え事をしていたら、こんなところまで来ていました。すぐ、教室に戻ります」

「考え事? 好きな子でも出来たのか? 君は女子に人気があるから、大変だなぁ」

「えっ! いや、とんでもない。先生こそ、モテるじゃないですか。僕知ってますよ。先生にはファンクラブまであるんでしょ?」

「あははは。彼女たちが勝手にやってるんだよ」


 照れ臭そうに笑う姿は、確かに女子受けしそうだ。柔らかなシャンパンゴールドの髪をゆるく束ねて、瞳は知的なペリドットだ。しかしミハエルは知っている。この教師の周りは魅了魔法の匂いがすることを。普通の魔法使いには分からなくとも、ヒルシュベルガー家の人間になら分かる。このベイカーという教師は、ヒルシュベルガー家の遠い分家で、過去になにかあったらしく、ファミリーネームを変えている。そのせいか、この教師には、あまり近づきたくないと本能的に感じていた。


「じゃあ、そろそろ僕は教室に戻ります。失礼します」

「あと一息だ。がんばれよ」


 ベイカーは笑顔で手を振った。校長や不思議堂も気になるが、今はおとなしく教室に帰るしかない。ミハエルが素直に廊下を曲がっていくと、すぐ横の資料室に置いてあった大きなカバンを引っ提げて、ベイカーは学校の駐車場に置いてある自分の車に向かった。


『おい、マージ―! どこに行ったんだ?』


 問いかけても返事はない。まさか、不思議堂の魔力のオーラに取り込まれたんじゃないだろうな。ミハエルは、教室に帰ってからも、それとなく校舎の裏に視線をやるが、いつの間にか不思議堂を囲っていたオーラも校長もいなくなっていた。


「ねえ、ジェシカを知らない?」

「あら、ジェシカなら、退学したって聞いたわよ」

「ええ? 二学期になってもう4人目よ。どうして?」

「ここは普通の魔術学校とは違うもの。ついていけなくなった生徒はどんどんやめていくんだって聞いたわよ」


 教室内では女子たちが噂話に花を咲かせていた。そういえば、教室内の人数も若干減っているようだ。マージョリーは絶対大丈夫だろうけど。そう思った時、ふっとさっきの教師の手についていた絵の具の事を思い出して、ゾクっと寒気がした。


「あ~、なんだか寒気がしてきた。ごめん。体調悪いから早退するわ。先生に言っといて」

「ええ? ミハエル様、大丈夫ですか?」

「うちの馬車でお送りいたしますわ」

「あら、私が先にお声を掛けたのよ」

「ああ、そんなことで揉めないで。君たちの親切には感謝するよ。ちょっと寒気がするだけだから自力で帰れるよ。ありがとう」


 適当にクラスメートに相槌を打って、教室を飛び出した。そして、すぐさま鳩に変化すると、自宅の図書室に飛び込んだ。あの禍々しい魔力の中に微かにヒルシュベルガー独特の魔法を嗅ぎ取ったのだ。


「確か、この辺りに昔からの魔道具の解説書があったはず…」

「誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


 驚いて顔をあげると、ミハエルの兄、イワンが入り口に立っていた。


「なんだ、おまえか。どうしたそんな古い書物を取り出して」

「兄さん、未来を見せてくれる魔道具なんて、あるか?」

「未来を…? ああ、昔はあったらしいな。我がヒルシュベルガー家に伝わる特殊な魔道具の一つだ。だけど、誰かが持ち出したまま、行方が分からないと聞いている」

「やっぱりか。それって、人を封じ込めたりするのか?」

「どういうことだ。ちゃんと話せ」

「異様な魔力が放出されているのを感じて、マージョリーと見に行ったんだが、急にあいつが通信を切ると言って、行方が分からなくなったんだ」

「今話している魔道具は、確かに未来を見せると言われているが、人さらいなどしないぞ。しかし、未来を見せる魔道具と、おまえのいう異様な魔力とのつながりが分からん」

「でも、それが学校にあるとしたら、どう思う? しかも、あのベイカーが教師をしているんだ」


 その言葉にイワンの顔色が変わった。


「ステファン! 今日の会議は欠席だ。私は失われた魔道具の回収に向かう!」

「ご主人様!?」

「心配ならおまえが代理出席してくれ。責任は私が負う」

「承知しました。」

「ミハエル、ついてこい」


 二人はイワンの転移魔法ですぐさま裏庭にやってきた。もうすぐ授業が終わるというので、先日最初にマージョリーに声を掛けてきた男が、段ボールの張りぼてで出来た夢ゲートとやらを倉庫から引っ張り出していた。二人はすぐさま姿を消して男が通り過ぎるのを待つと、すぐさま不思議堂の中に入り込んだ。


「まさか、本物に出会えるとはな。確かにこれはヒルシュベルガー家の魔道具だ。ここを見ろ、うちの家紋が記されている」

「何をしている!」


 後ろからかかった声にミハエルは覚えがあった。ベイカーだ。


「ミハエル君、君は悪寒がすると言って早退したそうじゃないか? なぜここにいる?」

「ああ、先生。ご心配をおかけしました。もう元気になったので、保護者と一緒に来たのです」

「始めてまして。私はヒルシュベルガーの次期当主、イワン・ヒルシュベルガーです」


 ベイカーのこめかみがピクリっと動く。


「ところで、ベイカー先生。うちの魔道具がなぜこんなところにあったのでしょう。どういう訳かご存知ですか?」

「お宅の? ははは、突然何をおっしゃるのか。これは私の実家にあったものです。研究のため、ここに置いているのですよ」


 ベイカーとイワンは穏やかに微笑んではいるが、ピリピリとした空気を漂わせている。


「あれ? 先生、その顔、どうしたんです?誰かに殴られた?」

「え? ああ、さっき、暴れていた生徒がいてね。もう大丈夫。落ち着いているよ」

「そうなんですか。でも気を付けてくださいよ。生徒にも恐ろしい魔力持ちがいますから。先生のその貧弱な魔力では、太刀打ちできないですよ」

「なっ! 何を…。もしかして、この子の事かな? マージョリー君、おいで」


 ベイカーが呼ぶと、すぐ後ろからマージョリーが現われた。そして、はにかんだように微笑んで、ベイカーの肩に腕を回す。エメラルドの瞳が燃えるように揺れているのが見え、ミハエルは顔色を変えた。


「ふふふ。悔しいかい? 君が言った通り、どうやら僕の方がモテるみたいだね」

「マージ―…。やめろ。早まるな。…や、やばい。やばいよ。兄さん、逃げよう!」


 ミハエルは兄の腕を強引にひっぱって距離を取る。


「え? どういうことだよ。魔道具はどうするんだ?」

「何言ってるんだよ、魔道具より命の方が大事だろ?!」


 言い終わる前にドドーン!! っと激しい音と共に、地中から木の根が伸びあがり、ベイカーを巻き込んで縛り上げた。


「う、うわぁ! なんだ、これは!」

「イワンお兄様、お久しぶりですわ。これは、私の魔法ですの。ひと様から魔力を奪い取っていた愚か者の魔力を全部吸い取ってしまいますのよ」


 マージョリーが言い終わる前には、ベイカーは生気を吸い取られて疲れ果てた老人のようになっていた。


「まったく、困った人ですわ。魅了の魔法で女の子を侍らせ、彼女たちから少しずつ魔力を奪い取っていたのです。そのせいで、魔力が枯渇したと感じた彼女たちは学校を去ったのですわ。この予知夢の夢ゲートも同じように魔力をかすめ取るための人集めでしたの。ふふ、器の小さい人間が、私の魔力を奪い取ろうとして、受け取り切れなくて気絶したんですのよ。勝手に倒れてしまったから、お目覚めに一発かまして差し上げましたのよ。まあ、あとはご覧の通りの猿芝居でしたけど」


 イワンはそっと弟の耳元でささやいた。


「マージ―って、あの、小さい頃にいろいろやらかしたアイツか?」

「そうだよ」


 その一言で、イワンは事の次第悟った。


「イワンお兄様、魔道具には傷をつけないように制御しておきましたので、ご安心ください」

「はぁ。なるほど。少しは制御することを覚えたんだね。じゃあ、私は魔道具を返してもらうことにしよう。ミハエル、あとは頼んだぞ」


 兄を見送ったミハエルは、マージョリーに向き直る。


「まったく! また連れ去られやがって!」


 マージョリーはぷいっとそっぽを向いて、少しだけ下を向いた。


「ベイカーはヒルシュベルガ―家から分家した一族の者だ。だから、それなりに手ごわかっただろ? 相手の事を知りもしないでつっぱしるな」

「…悪かったですわ」

「な、なんだよ。調子狂うなぁ」


 マージョリーは下を向いたまま続ける。


「魅了の魔法にかかったふりをしながら、真相を調べていましたの。でも…、やっぱりあなたが来たのが分かった時、心から安堵しましたのよ」


 そう言って視線をあげると、金茶の瞳が揺れているのを一瞬見ただけで、ガバっと抱きしめられた。


「マージ―、もうどこにも行かないでくれ」


 耳に掛かる吐息に頭がクラクラする。そっと顔をあげると、金茶の瞳に自分の姿が映っていた。


「ミシャ…」

「マージ―…、ああ、この胸の感触、最高だぁ」

「…ミハエル! あなたって人は!」

「なんだよ。本当の事だろ? ほめてんだよ?」

「もう、バカ! おバカ!」


その後、取っ組み合いのけんかになったのは言うまでもない。マージョリーに投げ飛ばされながら、ミハエルは抱きしめたときの感触を思い出し、意外に柔らかだったそれにドギマギしていた。



つづく

読んでくださってありがとうございます。


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