間話:もふもふ日和
晴れた昼下がり。森の小道を、ふわふわとした影が次々に歩いてくる。
小さな白猫、三毛猫、ぶち猫、耳の垂れた大きな灰猫。
そのすべてが目を輝かせながら、クラリスのカフェへ向かっていた。
「いらっしゃいませ、皆さん」
クラリスが扉を開けると、鈴の音のような鳴き声が返ってきた。
猫たちは、我先にとふわふわのクッション席へ駆け込み、座布団に丸まる。
《にゃふふ、お客様にゃお客様にゃ。今日もお行儀よくするにゃ~!》
黒猫セドが小さなエプロンを腰に巻き、トレーを担いで走り回る。
その姿は、猫ながらもすっかり“副店長”。
クラリスはカウンターでハーブティーを魔法で淹れ、ふんわり甘いミルクパンを浮かべて並べていく。
「はい、今日はカモミールとキャットニップの特製ブレンドよ。焼きたてパンもどうぞ」
猫たちは嬉しそうにふるふると尻尾を揺らし、器用に前足でカップを抱え、湯気をたてながら夢中で味わっていた。
その光景を、片隅の席で見ていたレオンは、少しだけ眉をひそめていた。
「……まさか、本当に猫が“客”なのか……?」
「ええ。みんな、カフェが好きなのよ。パンも、ケーキも、ハーブティーも」
「食べてる……いや、マナーがいい……?」
「この子たちは特別なの。魔法の森に選ばれた“賢い猫”たちなのよ」
レオンはあっけにとられた表情で、猫たちが紅茶を飲みながらうっとりしている姿を眺めた。
その中の一匹、真っ白な長毛の猫がふにゃんと体を伸ばして、クラリスの足元へ転がる。
「ふふ、おかわりじゃなくてブラッシング希望ね?」
クラリスは柔らかなブラシを手に取り、猫の首もとから丁寧に撫でるようにとかし始めた。
すると、猫は目を閉じて喉を鳴らし、クッションの上でごろりと寝返りを打つ。
その姿は、まるで天国。
レオンは思わず笑っていた。
「……なんだこれ。変な店だ……けど、悪くないな」
ふと気づくと、一匹の三毛猫が彼の膝に飛び乗っていた。
「お、おい……? 俺、ブラシなんて持ってないぞ……って……お前、寝るのか……?」
三毛猫はレオンの膝で丸くなり、くるくると尻尾を巻いて、そのまますやすやと寝息を立て始めた。
「……重い。でも、あったかい」
猫のぬくもりに包まれたレオンの頬が、わずかに緩む。
クラリスはその様子を静かに見つめ、そっと微笑んだ。
午後の光。カフェに流れる静かな音楽と、猫たちの寝息。
やがて一匹、また一匹と、満足げに伸びをして、森へと帰っていく。
セドは玄関でお辞儀しながら、にゃあと一声。
《ありがとうございましたにゃ。またのご来店をお待ちしてるにゃ~!》
——それは、“特別な客たち”が集う、森の小さなカフェの、ある穏やかな一日。