第53話 もふもふに包まれる夜
夜の王宮は静かで、深く息をつくような落ち着きがあった。
薔薇園でレオンと話したあと、クラリスはひとり自室へ戻った。
けれど、胸の奥のざわつきは、まだ消えてくれなかった。
「……これで良かったのかな」
ベッドの端に腰を下ろし、銀の髪を撫でながらぽつりと呟く。
正しさは、人の数だけある。
それを知れば知るほど、足が止まりそうになる。
「不安になるのは仕方ないよ」
――その声に、クラリスははっとして顔を上げた。
「……セド?」
窓辺に、黒猫のセドがちょこんと座っていた。
月明かりに金の瞳が光っている。
「僕たちは、ずっと君の想いを見てきたよ。
だから、安心して。クラリス。
君のそばには――僕たちがいる」
その言葉とともに、どこからともなく猫たちが現れた。
窓から、戸棚の上から、ベッドの下から。
白猫、三毛猫、グレーの長毛……
さまざまな毛並みの猫たちが、柔らかな足取りでクラリスの元に集まってくる。
一匹、また一匹――
気づけば、クラリスの周りはふわふわの猫たちでいっぱいになっていた。
「うふふ……もう、みんな……」
思わず頬が緩む。
どこか遠くの記憶が、やさしく呼び覚まされる。
人間になる前、聖獣として森を駆けていたころ。
猫神様のもとで、穏やかに過ごしていた日々。
ベッドに横たわると、猫たちがクラリスを囲むようにして寝転がった。
黒猫のセドは、クラリスの枕元でとろりと目を細める。
「クラリスが幸せでいること。
それが、猫神様の願いでもあるんだよ。
無理をしないで。
僕たちが、クラリスを癒すって約束したんだから」
「……ありがとう、セド。みんなも……」
胸の奥がふわりとあたたかくなった。
きっと今夜、夢の中でも彼らはそばにいてくれる。
もふもふの毛並みに囲まれながら、クラリスは目を閉じた。
ほんの少しでも――
幸せだと思える時間があるなら、きっとまた前を向ける。
それは、聖獣としてではなく、一人の女の子としての、大切な夜だった。




