第50話 真意真意を問う聖獣と王
王宮の緑陰に囲まれた小さな庭園。黄金の噴水の前に、一人の銀髪の少女が立っていた。
彼女は猫神の聖獣として生まれ変わる者――クラリス・エインハルト。
目の前には、威厳と静かな重みを湛えた王が座っている。
空気は穏やかだが、その中に秘められた緊張が確かに漂っていた。
クラリスはゆっくりと歩み寄り、膝まずいた後、見上げる形で言葉を紡いだ。
「陛下……お願いがあります。
一つ、お伺いしたいのです――あなたは、この国という“器”を守りたいのでしょうか?
それとも――その国に暮らす“国民の幸せ”を守りたいのでしょうか?」
その問いは柔らかく、しかし重く胸に響いた。
王は一瞬、答えを探すように空を見た。
そして、静かに口を開いた。
「この国を守るということは、結局は民の力を守ることに他ならない。
だが、時には“国の体裁”が、民よりも優先されると考える者もいる」
静かな声に含まれた迷いが、クラリスの目には鋭く映った。
クラリスは目を伏せて、続けた。
「陛下、私は聖獣として、国の象徴であることよりも、この国で傷つき、痛む人々を救いたいと思っています。
国という器が守られても、心が枯れてしまえば豊かとは言えない。
だから――国民の幸せを中心に据える統治を、私は信じてほしいのです」
その瞳には、固い決意が宿っていた。
王は深く息を吸い、クラリスを見下ろした。
「おぬしの言うとおりかもしれぬ。
“国”を守るとは、“国民の幸せ”を守ること。
そのためこそ、王家も存在するべきなのだろう」
静かな納得と、揺れる覚悟がその言葉には漂っていた。
クラリスはゆっくりと口元を緩め、小さく微笑んだ。
「ありがとうございます、陛下。私たち、同じ方向を見ているのです」
夕暮れの光が背後を黄金に染め、二人の影を長く落とした。
その庭で交わされた問答は、国家の未来に向けた小さな転換点となる予感があった。




