第45話 未来のための提案
議場に静けさが満ちるなか、クラリスは一歩前に出て、深く一礼した。
その銀髪が光を受けて静かに揺れ、重臣たちは自然と彼女に視線を向ける。
「本日は、“癒しの家”の報告に加え、国家の未来について提案がございます」
その声は凛として、堂々としていた。
⸻
「現在、ヴァルゼン王国は物資に恵まれ、国として繁栄の兆しを見せています。
けれど私は、国内を回って見聞きしました。
豊かさの陰に、確かに存在している“貧しさ”を。
働けども働けども楽にならない生活。薬が買えず、子どもに十分な食事も与えられない家庭――」
彼女は一拍置いた。
「――この国が豊かだという“今”だからこそ、やるべきことがあります。
それは“備える”こと。そして、“分け合う”ことです」
議場に少しざわつきが走るが、クラリスは落ち着いた口調で続けた。
「私は、各都市に備蓄庫を整え、万が一の飢饉や疫病、災害に備える体制を整えることを提案します。
また、加護のある今だからこそ、宝石や鉱物の採掘を推し進めるべきです。
今取れる鉱石は、将来国家を支える重要な資源になります」
重臣たちは神妙な面持ちで聞き入っていた。
⸻
「そして――」クラリスはゆっくりと目線を巡らせた。
「採れたもの、蓄えたもの、まずはこの国の“貧しい人々”に分けてください。
聖獣の加護は、国全体のものです。
それを実感してもらうには、まず困っている人に手を差し伸べなければなりません」
「食べるものがない者に食事を。住む場所のない者に屋根を。
薬を買えない者に医療を。
――それでも“余った”なら、私は喜んでそれを他国に分けます。
分ける力がある国こそが、信頼され、愛され、未来を築けると信じているからです」
⸻
議場には、感嘆と共鳴のざわめきが広がっていた。
一部の派閥が不服そうに腕を組んだが、誰も真っ向から否定はしなかった。
「心の豊かさと、物質の豊かさ――
どちらが欠けても、人は幸せにはなれません。
私はどちらも守れる国を目指したいのです」
そう語るクラリスの姿に、多くの者が心を動かされていた。
王も静かに頷き、口を開いた。
「クラリス殿、その言葉、しかと受け取った。
備蓄、鉱山資源の活用、そして民への分配――
議会で正式に検討を進めるとしよう」
「はっ」
深く頭を下げたクラリスの姿は、すでに“ただの聖獣”ではなかった。
一人の信念ある政治家として、国を動かす存在になろうとしていた。




