第44話 光の対話
教会との連携が正式に決まり、癒しの家には寄付用の箱が設置された。
静かだが確かな変化だった。
しかし王宮では、第一王子パウルが密かに動いていた。
夜の宮廷会議で、彼は重臣たちに向けて慎重に声を下ろす。
「教会の後押しがあれば、民だけでなく信仰層まで巻き込む──
だが我々は、これ以上“無料の聖域”を放っておくわけにはいかん。
信仰と癒しの名のもとに、王家の支配以外の規制が生まれるのは不都合だ」
パウルは表情を曇らせずに続ける。
「このままでは、王家の威信を奪われる。
教会を通じた民心の掌握は、政治的には危険な賭けとなるだろう」
その場には冷ややかな空気が流れた。
支配層の間に、じわりと緊張が高まる。
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一方、癒しの家では、クラリスが市民と直接交わる時間が増えていた。
ある日は寄付として香炉を置きに来た婦人と自然と会話になる。
「使い続けるために少しでも協力したくて……」
と彼女は照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。あなたの気持ちを言っていただけるだけでも、私たちの力になるんです」
クラリスの声は穏やかで、それが彼女に安心感と期待を抱かせる。
別の日には、祭壇の前で静かに祈る老学者が声をかけてきた。
「理念は立派だ。しかし、継続には制度と…人の“信じる力”の両方が必要だ」
学者はゆっくりと微笑んだ。
「そう思います。だからこそ、教会とも連携したいんです。
心と信仰、両方を支えるために」
クラリスは静かに頷き、学者から理解の眼差しを得た。
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夜になると、第一王子パウルの放った密使が裏で動き出す。
教会への影響力を持つ神官たちの一部に接触し、
「無料の癒しが広まれば、猫神信仰が“茶会”に成り下がる」と吹き込む。
また一方で、重臣には「寄付への疑念」を植え付ける情報を流し、
「本当に集まるのか? そもそも寄付は運営に見合っているのか?」と懐疑心を煽った。
宮廷には見えない嵐が吹き荒れつつあった。
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ある夕暮れ。クラリスは黒猫セドとともに、祭壇の前でひっそりと祈った。
「猫神様、この場が“人を癒す中心”であり続けるために、
どうか、私の心に力をください」
その声には、覚悟と不安、そして信じる気持ちが混じっていた。
セドは側に寄り、静かに喉を鳴らす。
まるで、彼女の思いを“聴いている”かのように。
「パウルの動きが、私を試している……
でも、真正面から――“信じる場”だからこそ、私が立ち向かわなくちゃ」
クラリスは小さく目を開いて、祭壇の前に立ち尽くした。
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その夜、寄付箱には最初の大口寄付が入っていた。
匿名の人物からで、「心が救われたから」とだけ書かれていた。
翌日、新聞風の伝達紙(王宮の掲示板)にはこう記された。
「癒しの家の支援者より。猫神に感謝を」
そのサインに、王都の人々の間で「私も次は…」という連鎖が生まれ始めていた。




