第42話 試練と絆
癒しの家がオープンしてから数日経ち、癒しの家は連日多くの人々で賑わっていた。
だがその一方で、徐々に不満の声も増え始めていた。
「公共の施設なのに、王家が利権を得ている!」
「民の救済ごっこで終わるなら、無駄だ」
そんな反発の背後に、明らかに計算された影が混じっていた――パウルの策略によるものだった。
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王宮では、第一王子パウルが意気揚々と声を上げていた。
「皆が無料で癒されている…この空間は、確かに旨味を掴むには上手い。
だが補填はどうする? 財源は?
疲れた庶民が集まる場所は、『現実逃避』の温床になる恐れもある」
側近のグレンも苦々しく頷く。
「さらに信仰長官たちは、『これはただの猫愛好空間だ』と批判を強めています。
祭壇を残しても、根本的には“日常目線”に流れていると」
このままでは、癒しの家の存続を揺るがす大きな圧力になるかもしれない――そんな兆しが迫っていた。
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同日夕刻、クラリスは中庭のベンチでひとり佇んでいた。
人々の笑顔を見届けたあとなのに、彼女の表情には陰りがあった。
「財源…そして続けるための意義……
それに、信仰の守り手たちが反対しているのも、気にかかる……」
ふと、黒猫セドが彼女の膝に乗ってきた。その温もりに、クラリスはホッと胸をなで下ろす。
「レオン、本当にこのままでいいのかしら…?」
目を伏せた彼女に、夜闇の向こうから優しい声がかかる。
「クラリス…ひとりで抱え込まなくていい。僕たちが一緒にいる」
微かに見えるシルエットの中で、レオンがそっと膝元に腰を下ろした。
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その後、設計士のエードリンや大工のラドラン、子どもの教育を支える家庭教師のエリーナらが次々と駆け寄った。
「クラリス殿、私たちはあなたの想いを信じています!」
「人の心を癒す場に、どんな意味があるか。私たちが支えます!」
彼女を囲む支援者たちの絆は、何物にも代え難い力だ。
クラリスは目に涙を浮かべながら、深く頭を下げた。
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その夜。王宮ではパウルが重臣会議を招集していた。
「癒しの家は、このままでは王家の道楽で終わる。
財源の裏付けがない以上、使用料の導入も検討すべきだ…」
だがその直前、クラリスの声が割り込むように響いた。
「パウル殿、癒しの家は無料であるべきです。
お金がないから祈らない? 触れ合えない?
そんな難民救済とは違います。“心の安らぎ”に料金は存在しません」
重臣たちがざわめき、パウルは鋭く睨む。
だがクラリスの声には揺るぎない信念が宿っていた。
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その晩、クラリスはレオンとともに敷地を歩いた。
木々の影が揺れ、猫の足音だけが静かに響く。
「私たちが守るべきもの――
それは“人の心”と、信じ続ける覚悟なのね」
レオンは優しく頷き、彼女の手を包み込んだ。




