第37話 猫カフェ構想への反発
「猫……カフェ?」
王の執務室に集まった重臣たちは、一様に驚き、呆れ、困惑した顔を浮かべていた。
その中心で、クラリスは真っ直ぐに説明を続けていた。
「はい。森のカフェのような、癒しと信仰の場をこの王都にも作りたいのです。
猫神様を信仰する者たちが心を休め、繋がり、助け合える空間を。
子どもも大人も、誰でも訪れることができる場所に」
静まり返る空気の中、重い椅子を引いて立ち上がったのは、宗教長官バルセリオだった。
猫神信仰の最上位に位置する人物であり、厳格な教義の守護者でもある。
「クラリス様。確かにその理想は尊い。
しかし“信仰”は、“癒し”や“商売”とは一線を画すべきです。
猫神様を『カフェ』のような場で祀るなど、軽々しいにも程がある!」
周囲の貴族たちもざわめき始めた。
「信仰を遊びに使う気か」
「商業に混ぜるなど……」
「いや、猫と触れ合える店があるのは面白いのでは……」
王は手を軽く挙げて静けさを取り戻すと、クラリスに目を向けた。
「クラリス。お前の意図は理解している。
だが、これは“信仰”を大切にする我が国において、繊細な問題でもある。
もう少し丁寧な形にできないだろうか」
クラリスは一瞬、口をつぐんだ。
けれど、その瞳は揺るがなかった。
「私が作ろうとしているのは、“新しい信仰の形”ではありません。
ただ、心を傷つけ、孤独を抱える人たちに、“救いの場”を作りたいのです。
それが、猫神様の教えである“優しさ”と“平穏”に繋がると、私は信じています」
その瞬間、レオンが立ち上がった。
「この案に賛成します。クラリスの言葉には、民と向き合ってきた重みがある。
形式だけの信仰では救えないものを、彼女は実際に見てきたんです。
私たちに今必要なのは、現実に寄り添う柔軟さです」
バルセリオは眉をひそめたが、王はしばらく思案した後、頷いた。
「よかろう。試験的に“信仰の癒しの場”として、一ヶ所に限り認可しよう。
ただし“猫カフェ”ではなく、“癒しの家”という名称に変えてはどうか。
その精神性を損なわぬよう、慎重に運営してくれ」
クラリスは深く頭を下げた。
「はい、陛下。ご期待に添えるよう、誠心誠意努めます」
こうして、議論の末に新たな試みは一歩前進した。
けれどその背後では――バルセリオをはじめとする保守派の中に、静かな反発の火種が灯っていた。




