間話:崩れゆく玉座 〜ヴェルディアス王国〜(ルミエール編)
鏡の前に立つルミエール・エインハルトの姿は、まるで人形のように整っていた。
絢爛な薔薇色のドレス、首元には王家から賜ったサファイアのチョーカー。
彼女の美貌は確かに王都一と称されており、その自信は揺るがない。
「クラリス……あの出来損ないの癖に、なんでみんなあの女を惜しむのよ」
ルミエールは濃いため息を吐いた。
クラリスが公爵家の嫡子だったとはいえ、病弱な母に育てられ、母親が亡くなった後は、誰からも愛されていなかった。
「陰気で地味な、真面目すぎて面倒な女」――それがルミエールの彼女への評価だった。
「でも……王宮にいたときは、確かに目立たなかったけど、変なところで頼られてた気も……」
不意に思い出すのは、パーティの調整役や外交客の対応を黙々とこなすクラリスの横顔だった。
だがルミエールは、そんなものは“努力すれば誰にでもできる”と切り捨てた。
「大事なのは華やかさ。
目立つドレス、完璧な化粧、麗しい立ち居振る舞い……
私はそれができる。だから私こそ王太子妃に相応しいのよ」
確信していた。
誰もが振り向く美しさ、笑えば皆が称賛する。
――だから、政務もその延長でなんとかなると思っていた。
だが、現実は違った。
文書は読めない、外交は空回り、民心は遠ざかる。
最近では貴族たちからも「あの方では務まらないのでは」と陰口を叩かれるようになっていた。
「……おかしい。どうして……あんな女でできたことが、私にできないのよ」
ルミエールは鏡の中の自分に問いかける。
答えは返ってこない。ただ、自分の完璧な見た目が、皮肉にも現実から目を逸らさせていた。
――自分は“見た目”しか備えていない。
彼女がそのことに本当の意味で気づくのは、もう少し後の話である。




