間話:崩れゆく王座〜ヴェルディアス王国〜
王宮の会議室。古びた壁の絵が剥がれかけ、重苦しい空気が漂っていた。
「今月の貿易収支、さらに赤字拡大です。隣国との交渉も頓挫。言葉の問題と、相手国の不信感が原因です」
「税の徴収も滞っております。村々の不満が高まりつつあります」
各部署の報告に、王も重く黙り込んだ。
王太子アレクシスの顔にも疲れの色が滲んでいる。
「なぜ……こんなにも政がうまくいかない……?」
そう呟いたアレクシスに、側近の一人が意を決して言葉を発した。
「――すべて、クラリス様が抜けた影響です」
「……何?」
「殿下、失礼を承知で申し上げます。
クラリス様は、王太子妃教育の中で、八ヶ国語を習得され、王宮の外交文書の翻訳、交渉準備、貴族間の調整、政策立案などを一手に担っておられました」
「な……彼女が、そこまで……?」
「ええ。公にはされておりませんでしたが、実質的に“若き宰相”と呼ばれるほどの働きでございました。
諸外国との関係が安定していたのも、貴族たちの不満が抑えられていたのも、
すべて彼女の才覚によるものです」
アレクシスの顔から血の気が引いた。
「まさか……俺は、彼女が優秀だとは思っていたが……まさか、そこまでとは……」
「追放によって、その全てを失ったのです。
殿下の新たな婚約者ルミエール様には、その力はありません」
部屋は沈黙に包まれた。




