表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された公爵令嬢は、実は世界一可愛い猫聖獣だった件 〜猫聖獣として世界を救います〜  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/71

第22話 市場へ

「クラリス様、出発のお時間です」


そう告げた侍女の声に、クラリスは静かに頷いた。王宮のバルコニーから遠くに広がる街を見下ろしながら、彼女は小さくつぶやく。


「加護がこの国にもたらした変化は、本当に人々の生活を救っているのか……。確かめたいの」


魔法のように病を癒し、作物を実らせる“聖獣の加護”は、確かにクラリスがこの地に来てから実感されている。けれど、それは本当にすべてを救っているのだろうか。


王宮の静けさから、民の暮らしがどれほど遠いか――それが彼女の胸を騒がせていた。



馬車が首都近郊の市場へと着いたのは、ちょうど太陽が天頂を越えた頃。市場には人々の活気と、夏の太陽に照らされた香ばしい果実の香りがあふれていた。


クラリスはフードを深く被り、目立たない服を着ていたが、その佇まいにはどこか気品がにじみ出ていた。


「わあ、すごい人……」


思わず漏れたクラリスの声に、レオンが微笑む。


「市場の中心は、いつもこんな感じだよ。けれど、よく見ると……」


クラリスが歩を進めるたびに見えてくるのは、鮮やかな果物の山の陰で、うつむいて歩く母子の姿、薄汚れた衣服の男たち、値段交渉に懸命な老女。


一見華やかな喧騒の裏に、確かにあったのは“格差”の影だった。



「これ、よかったら」


通りの角で小さな子どもを抱いた母親が、ふとクラリスに話しかけた。差し出されたのは、布に包まれた小さなぶどうの房。


「え……いいの?」


「はい。お嬢さん、旅人さんでしょう? とても優しそうな顔をしているから……今年初めてとれたぶどうなんです。どうか、旅の疲れを癒してください。」


クラリスはその母の手をそっと取って、目を合わせた。


「ありがとう。とても、嬉しいわ」


母親はにっこりと微笑み、何事もなかったように去っていった。

その背中を見つめながら、クラリスは胸が熱くなるのを感じた。


「こんな人たちに、ちゃんと届いているのかな……私の加護は」



その直後、通りの端で粗末な格好の青年が果物をひとつ手にし、露店の老人と口論している声が聞こえた。


「頼むよ、あと一銅貨でいいんだ! 昨日も仕事にあぶれたんだ!」


「悪いが、これ以上下げたら、わしが干上がる。慈善商人じゃないんでな」


男は肩を落とし、果物を元に戻して去っていく。

その後ろ姿を、老人も複雑な顔で見送っていた。


「民全員が、加護の恩恵を同じように受けてるわけじゃないんだね……」


レオンが呟く。

クラリスはその場にしばらく立ち尽くし、握りしめたぶどうの房の感触を確かめた。


「きっと、加護以外でもできることがあるはず。そのために人として生まれ変わったのだから。」


それが、彼女の旅の第一歩で生まれた、確かな決意だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ