第20話 語られる聖獣の真実
ヴァルゼン王国の謁見の間は、朝の光と緊張に包まれていた。
クラリスとレオンは玉座の前に静かに立ち、荘厳な沈黙の中、王の視線を真っ直ぐに受け止めていた。
「……戻っていたのだな、レオン。そして君は、クラリス・エインハルトだな。」
王は玉座からゆっくりと身を起こし、深く観察するように二人を見つめた。
「聞いている。君は隣国ヴェルディアス王国の公爵令嬢であり、かつて王太子アレクシス殿の婚約者だったと」
クラリスは深く頭を下げ、静かに名乗った。
「はい。婚約を破棄され、国外追放となりました。その後、森に身を寄せ……静かに暮らしておりました」
王の眉がわずかに動く。
「森に……?」
「はい。そして――私は、猫神様の御使いである“聖獣”の生まれ変わりです」
謁見の間に空気が凍るような静けさが走った。
クラリスの言葉は凛と響き、まるで場を切り開く風のようだった。
王はゆっくりと椅子に背を預け、重く息を吐く。
「……そういうことだったのか。
国中に加護が満ち、農地が潤い、病が癒え、人々が笑いを取り戻し始めている。
聖獣が目覚めたのだと、予言者も言っていた」
王の目が鋭くなった。
「だが……その発信源が“森”だったとは知らなかった。君がそこにいたのか」
クラリスは静かに頷いた。
「はい。森に住み、猫たちと共に日々を過ごすうちに、癒しの力が広がっていきました。
私は、聖獣としての力を先日はっきりと思い出しました。」
「なるほど……それで、今こうしてここに。」
「陛下。私からお伝えしなければならないことがあります。」
クラリスの声音がわずかに強くなる。
「私の加護には限りがあります。そして、それが薄れてしまう最大の原因は――移民の流入です」
王の目が鋭くなる。
沈黙が場を包み込む。
「信仰を持たず、猫神様を知らぬ者が増えることで、加護は分散し、弱まっていく。
過去の歴史でも、同じことが繰り返されていました。繁栄の後に訪れる衰退――その原因は、そこにあります」
レオンがクラリスを見守るように寄り添い、王へと続けた。
「クラリスは、今まさに国が迎えようとしている“転換点”を見据えています。
この加護を聖獣がいなくなってからも維持し、国の未来を守るために、どうか耳を傾けてください」
王は長く息を吐き、深く椅子に身を預けた。
「……君の言葉には、理がある。だが、移民という問題は単純ではない。
信仰、国民の権利、他国との関係……ひとつでも誤れば、国が揺らぐ」
王の瞳が静かに光る。
「この件は、王国議会にて協議させよう。
意見を持つ者たちが集い、語り合い、結論を出すべき問題だ」
クラリスは深く頭を下げ、レオンもそれに続いた。
「ありがとうございます、陛下。どうか、この国と民が正しい選択をされますように」
その言葉に王は静かに頷いた。
――こうして、“聖獣の真実”と、それがもたらす現実の重みが、王の前に明かされた。




