第17話 聖獣の記憶と、繰り返される繁栄と衰退
王宮の図書館は静かだった。
クラリスはセドと共に、その奥深くまで足を踏み入れていた。
古文書が並ぶ書棚、猫を描いた装丁、そしてその中の一冊――『聖獣と王国の繁栄の記録』が、彼女の手に収まっていた。
◆
「……百年に一度、猫の聖獣が現れ、国は豊かに繁栄する」
「だが聖獣の力には限りがあり、やがていなくなれば、国はまた衰退する」
クラリスの指が止まる。
「富を求めて移民が大量に入ってくる。そして聖獣のいなくなった国に対して、増えすぎた民。生活資源やエネルギーは圧迫され、治安は悪化する……」
「……それって、クラリスが来る前の状況と似てるな」
セドの言葉に、クラリスは目を細めた。
この国は今は富んでいるが、クラリスがいなくなったらまた衰退してしまうんだろう。
「……こんなふうに、何度も繰り返していたのね。豊かになって、また衰えて……そのたびに、民が苦しむ」
そう呟いた瞬間――
脳裏に、何かが閃いた。
◆
白い空。黒い大地。どこか懐かしい、けれど思い出せない世界。
小さな猫が、炎の中で人間の子供を庇っていた。
そして、その姿が崩れ、光に変わり、天へと昇っていく。
――その猫は、漆黒の毛並みに、金の瞳を持っていた。
「……私だ」
呟いた瞬間、記憶が押し寄せる。
自分はもともと“猫神”と呼ばれる存在の妹だったこと。
神の理に背いてまで人間を助けようとしたこと。
その結果、罰でもあり、自らの願いでもある形で――
百年に一度、“聖獣”としてこの世に転生するようになったこと。
これまではいつも、“猫の姿”だった。
癒しを与え、奇跡を起こし、そしてまた静かに姿を消した。
でも……何度繰り返しても、国はまた衰え、苦しむ者が出た。
「だから私は……今回、“人”として生まれた」
力なく床に膝をついたクラリスの背に、セドがそっと頭を寄せた。
「前の私が願ったの。“人として生まれて、国を変える力を持ちたい”って」
「そして……今の私には、“猫の聖獣にもなれる力”もある。
癒すだけじゃなく、変えるために……この姿を選んだのよ」
クラリスの紫の瞳が、強く、確かに光を宿す。
「もう繰り返させない。癒すだけじゃ終わらない。この国の未来を守るために、私は“人間そして猫の聖獣”として……民を守りたい」




