表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された公爵令嬢は、実は世界一可愛い猫聖獣だった件 〜猫聖獣として世界を救います〜  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/71

第14話 ヴァルゼンの王宮

 王宮の門が、静かに開いた。


 クラリスを乗せた馬車が、荘厳な石造りのアーチをくぐる。石畳の上を進む車輪の音が、重く低く響いていた。空は明るいのに、胸の奥にあるのはどこか陰りのある不安だった。


 「……ほんと、立派ね。あいかわらず息が詰まりそう」


 ぽつりと呟いた声が、揺れるカーテンの中に吸い込まれていく。


 ヴァルゼン王国の王宮は、白金色の石造りで整えられていて、美しくも緊張感に満ちていた。整然と並んだ衛兵たち、花壇にまで気を配られた庭。まるで、感情さえ許されない“正しさ”がそのまま形になったようだった。


 (私には、似合わない世界……)


 そんな風に思ってしまった自分に、少しだけ苦笑いが浮かぶ。


 「レオン……来てくれていたらいいのに」


 不意に、心の奥から名前が浮かんでくる。


 (あの夜、森で話してくれたあの人の過去――)


 兄に殺されかけたという言葉が、ふと胸を締め付けた。


 (でも……来ないで。お願いだから、無理はしないで)


 彼に会いたい。けれど、今は無事でいてくれることの方が何よりも大事だと思った。

 会いたい気持ちと、来てほしくない気持ち。相反する想いがせめぎ合う。


 「……うん、大丈夫。私はちゃんとひとりでも立てるわ」


 そう自分に言い聞かせるように、小さくうなずいた。


     ◆


 やがて馬車が止まり、扉が静かに開かれる。


 まばゆい日差しの中、クラリスが外に出ると、整列していた騎士たちの視線が一斉に集まった。


 銀の髪がふわりと揺れ、紫の瞳が陽光を受けて淡く輝く。

 その姿に、一瞬ざわめきが走るのを、彼女自身も感じていた。


 けれどそのざわめきを静かに収めるように、ひとりの男が前へ進み出た。


 「ようこそ、癒し手殿。ヴァルゼン王宮へ」


 落ち着いた物腰、煌びやかな装い。貴族らしい優雅な身のこなしと、少しだけ作り物めいた笑み。


 「私は第一王子、パウル・ヴァルゼンと申します」


 軽く頭を下げるその人は、確かに“王子”の威厳と存在感を持っていた。


 クラリスは一瞬、彼の目を見つめる。

 深緑の瞳――澄んでいるようで、どこか底が見えない、静かな湖のような色だった。


 (……この人、目が笑ってない)


 優しい言葉とは裏腹に、視線の奥に感じる何か。

 クラリスはその違和感を心の中にそっとしまい、微笑みを浮かべて応えた。


 「ご丁寧にありがとうございます。滞在中は、お世話になりますわ」


     ◆


 ――クラリス・エインハルト。


 その名を、パウルは脳裏で繰り返していた。


 あの銀髪、紫の瞳。完璧な所作。そして、公爵家の令嬢として外交の文書で見たことのある名前。

 間違いない。この女は、ヴェルディアス王太子・アレクシスの“元婚約者”だ。


 (追放されたという噂を聞いたが……まさか、こんなところに現れるとは)


 そして今、神託により“聖なる癒し手”として王に呼び戻された存在――それがこのクラリスだ。


 (この女を手に入れれば、俺が王太子になれる)


 心の奥で、確信が膨らむ。


 (王は癒し手で聖獣の力を絶対視している。ならば、その癒し手を正妃に迎える男こそが、次の王にふさわしい)


 柔らかな笑みを浮かべながら、手を差し伸べた。


 「あなたのために、特別なお部屋をご用意しております。どうか、ごゆっくりお過ごしください」


 その言葉に、クラリスはひとつ頷いて応じた。


 (この人のこと……少し、気をつけた方がいいかもしれない)


 クラリスの直感がそう告げていた。


 だが同時に、胸の奥に浮かんだひとつの願い――

 (レオン、あなたが無事でいてくれますように)


 その祈りは、風のように静かに王宮の中へと消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ