第13話 王宮からの使者
森に、重たい空気が流れていた。
カフェの前に停まった馬車。その周囲には王宮からの使者たちが整列し、慎重な面持ちで森の奥のカフェを見つめている。
「この場所に、“癒し手”がいるという神託があった」
「銀髪に紫の瞳、猫たちに囲まれた存在だと……」
彼らはその姿を見るなり、静かにひざをついた。
「我々は、王命により“癒し手”を迎えにまいりました」
名を呼ぶことはなかった。
この者が“誰”であるかは、彼らも知らない。ただ、神の言葉に従い、国を護る者を迎える――それだけだった。
クラリスは静かに頷いた。
「……分かりました。準備をさせてください」
店の奥に戻ると、黒猫のセドがそっと足元に擦り寄ってくる。
「行くんだな、クラリス」
「ええ。……もう、逃げられないもの」
セドは黙って彼女の紫の瞳を見つめ、小さく頭を下げた。
「お前なら、大丈夫だ。……けど、気をつけろ。あの王宮には“敵”がいる」
クラリスは小さく微笑んだ。
「分かってる。……でも、レオンがいる」
そう信じていた――はずだった。
◆
馬車に揺られながら、クラリスは窓の外を見つめていた。
使者たちは終始敬意を払っていたが、誰一人として「クラリス」という名を口にすることはなかった。
そして、そこにレオンの姿もなかった。
(どうして……来てくれなかったの?)
胸の奥に、不安が芽吹く。
(もしかして、レオンは最初から私を王宮に連れていくために……)
浮かんだ疑念に、自分で気づいて顔を歪める。
「違う……あの人は、そんな人じゃない……」
信じたい。けれど、怖い。
どこまでも静かな森の道を、馬車は進んでいった。
◆
一方そのころ、別の馬車の中で、レオンは険しい表情で窓の外を見つめていた。
王宮の門が近づく。
兄・パウルに命を狙われた夜の記憶が、重く心をよぎる。
だが今は――
「守りたい人がいる。俺は、もう逃げない」
王宮の門がゆっくりと開く。
その先に何が待っていようと。
クラリスのために、立ち向かう覚悟は決まっていた。




