エモエモ詐欺
「悠斗、最近“泣ける話”がバズってる」
「……それ、俺の作風じゃないんだけど」
「関係ない。“泣ける”って書いてあれば、読者は勝手に泣く」
「いや、泣かないだろ普通に」
「泣く。“これは泣ける”って言われたら、脳が“泣く準備”を始めるんだよ。つまり、先に泣けるって言えば勝ち」
「……そう……か……?」
奧昌が提案したのは、“泣ける風”の演出だけで感動を演出する技法だった。
* タイトルに「泣ける」「涙腺崩壊」「最後に涙が止まらない」を入れる
* 冒頭に「これは、ある一人の少女の、短くも美しい物語です」と書く
* 本文は普通の異世界バトル
* 最後に「彼女の姿を、もう誰も見ることはなかった」で締める
「これで泣ける話の完成だ」
「いや、ただの死亡エンドじゃん!」
「違う。“余韻”だ。“余韻”があれば、読者は勝手に感動する」
◇◇
タイトル案(奧昌作)
* 『【涙腺崩壊】最弱だった少女が、最後に見せた“強さ”とは』
* 『「ありがとう」その言葉を最後に、彼女は消えた』
* 『【実話風】この物語を読んで、泣かない人はいないと思う』
◇◇
「これ、全部バトルもののプロローグに使える」
「……なんか、俺の作家としての良心が削れていく気がする」
「良心よりPVだ。PVがあれば、良心も救われる」
「……それ、名言っぽいけど最低だな」
◇◇◇
公開後。
コメント欄には、
* 「泣けるって聞いて読んだけど、泣けなかった。でも嫌いじゃない」
* 「最後の“彼女の姿を〜”でちょっとウルっときた」
* 「泣けるかはともかく、タイトルに釣られて読んだ自分が悔しい」
「……これ、意外とアリかも」
「だろ?“泣ける”はジャンルじゃない、マーケティングだ」
「え、主人公死んだけど大丈夫?」
「一旦闇堕ちさせて……」