星輝の支配者
0時 12時 18時の1日3回投稿です
《異世界に行ったらチート能力を授かりました。iPadが。〜iPadが何でもしてくれるのでゲーム三昧の生活を送っています〜》
学校で支給されたiPadが大好きだった。
iPad中毒者?そんなもの生ぬるい。兎にも角にも『iPad』という存在に魅入られて、あらゆる会社が新しい型を出すたびに徹夜で並んで買い、愛でていた。
それは新作のために徹夜で並んでいた時だった。当然列は一人であり、そんなに早く並ぶ必要はないのだが万が一誰かが先に並んだとなると、iPad愛情で負けたことになるので徹夜を選んでいる。
列に並んでいる時は暇なので、これまたiPadでゲームをしていた。「英雄戦争」というゲームがアツいのだ。
不意に聞こえた、けたたましいブレーキ音。iPadに夢中になっていた俺は、何が起こったのか確認することも叶わず
◆
「息絶えた」
そう書こうとして、キーボードを打つ手が止まる。星乃悠斗のスマホに着信音が鳴ったからだ。悠斗は大体の着信は通知が来ないようにしている。着信音が鳴ったということは、悪友の奧昌か、あるいは——。
[アネゴ : 今すぐ事務室へ来てください]
悪い方だ。編集者のアネゴ。これまでこういう連絡で、いい知らせだったためしがない。
悠斗は小さく息をつくと、ネクタイを締めた。
◇
「『星輝の支配者』って先生の小説、今連載してますよね?」
読者の反響がそこそこいい作品だ。悠斗は多少なりともそのエクリチュールに自信があった。
「PVが少なすぎます。平均評価は良いようですが、評価数自体が少なすぎて話になりません」
どんなにいい作品を書いたとて、抑見てもらえなければなんの価値もない。小説とは読者がいて初めて価値がつくのだ。
編集者のアネゴが淡々と告げた。
「これ以上PVを稼げないようなら、打ち切りですよ」
分かっていた。いつまでもこの状況を許すほど、アネゴは優しい人では無い。
だが、思いつく限りは全力でやって、伸びなかったのだ。俺にこれ以上PVを伸ばす方法は思いつかない。
俺は、一縷の望みを賭けて友人に電話をした。明日、カフェ集合とのことだった。
◇◇◇
その友人、というより悪友——奧昌は、その短髪をボリボリと掻きながら、俺の話を聞いていた。
一頻り話し終えて。
「1話1話が長すぎる。そして下手なくせに文学的にしようとしてるから読みずらい。投稿頻度が低い、タイトルが微妙!」
まったく、痛いところをつく。奧昌は細い目をさらに細めて、ニヤニヤとコチラを見ている。散々な言われようだった。しかし確かに、どれもに納得してしまった自分もいた。
「だからって……どうすればいいんだよ?」
「まず1人称視点にして星乃アイリっぽさを文章に出したらどうだ?文章は拙くなるが読みやすさはだいぶ上がると思う」
「なるほど…」
試しにノートパソコンに書いてみる。
「相変わらずタイピングは早いな」
覗き込んでくる奧昌を無視して10分ほど打ち込む。
「できた…ざっと2000字くらいか?」
「10分で2000字って…さすがだな」
「こんな文章ならいくらでも書けるさ。でも面白くないだろう」
「大事なのはPVだろう?面白くなくても、話数を増やして1話を短く読めるようにすればPVはふえる」
それもそうな気がした。
「じゃあ、この文章を4分割するか」
「4分割って…1話500文字になるぞ?」
「それでいいんだよ。単純に考えてPV4倍だぞ?」
少しばかり疑いながらも、どうせ俺が何やっても目標PVには届かないだろうと思い直し、全て助言を受け入れることにした。
「まず毎日2回投稿か」
「まあとりあえずはそれでいいが…あまりに伸び悩むなら、もっと増やしてもいいぞ」
「そうしよう。もうこれ以上改善点はないか?」
「タイトルだよ!なんだっけ?」
「『星輝の支配者 ~マイペース悪役令嬢の転生譚~』だよ」
「やっぱり微妙だな……」
分かってるけど思いつかない。そんないいタイトルが思いつくならもっと伸びているだろう。
「思い切って、いろんな要素を取り入れてみるのはどうだ?内容も濃くなるだろ」
「たとえば?」
そう聞くと奧昌はスマホをいじり出して、とあるサイトの画面を見せてきた。
◇◇
今のなろうで激アツジャンルランキング!
1位、異世界転生
2位、スローライフ
3位、チート・無双
4位、悪役令嬢・ざまぁ
5位、パーティ追放・ざまぁ
6位、Vtuber
◇◇
奧昌は、口角を歪ませて——。
「全部、入れよ?」
かくして、『【【コミカライズ】【書籍化】【ゲーム化】したいな】左遷された悪役令嬢、前世がvtuberだったので田舎でスローライフします〜婚約破棄×パーティ追放×左遷ですが、めげずにざまぁします〜』の草案が出来上がった。