第三話
「あなたの身柄を保護することを約束します。どうぞこちらへ」
調査員を呼び犯人役の男を保護してもらう。そして、俺とすずの二人だけになったことを確認し再び向き合う。
「久しぶり、元気そうだね」
「おかげさまでな」
「怒ってる?」
「お前が面倒なことをするから危うく一般人を巻き込むところだった。そこまでして俺と会いたかったのか」
すずの縄を切りながら問いただす。
「ありがとう。だって、君は霧裂きジャックだなんて言われる殺人鬼。こうでもしないと会ってくれないでしょ」
首のダミーの爆破装置まで取り除くと、すずは少し伸びをした。
「何より嬉しかったのは、優真君が私のことを覚えていてくれたこと」
「ただただ思い出話をするために呼んだのなら親元に返す」
「ごめん、そんなに怒らないで!」
車に引き返そうとした俺の手をつかむ。仕方ないのでもう一度向き合う。
「私は君を助けたい、救いたい。昔、私を救ってくれたように」
光のようにまっすぐな目、でも俺にとっての光は姉さんだけだ
「言いたいことはそれだけか」
「君に何があったのか私は知らない。でも、君がやっていることは間違っている!」
「どうしたら俺は救われるっていうんだ?少なくとも俺は知らないのにすずは知ってるのか?知らないならどうすることもできないだろ」
俺は携帯で待機していた調査員の方を呼び、すずの身柄を保護してもらうことにした。
「今はまだ分からないけど、いつか必ず救い出す!」
「何をしても無駄だ」
車へと案内され保護されるのを見届ける。そして、もう一度形態を取り出し、ジジイに連絡する。
『Hello,What's up?』
「ファーザー、詳しく説明してもらうぞ」
『What do you mean?』
このジジイ、完全に俺のことを馬鹿にしているな、腹が立つ。
「今回の仕事、経緯から何からすべて教えろ」
『Calm down すべて話してやるからまずは屋敷に戻ってきなさい』
電話はすぐに切られ、別動隊の調査員の車がすぐ到着した。屋敷に戻るや否や俺はジジイの書斎に向かった。
「ファーザー、全部教えろ」
「分かったからまずは座りなさい」
諭されるままにソファにかけると同時に、使用人の方が紅茶とミルクティーを持ってきてくれた。
一週間ほど前、すずちゃんは私のところに直接来てくれてね。ちょうどジャックが仕事に出ていたから分からないのも無理はない。私は彼女に、「直接私のところに来れるのならジャックに会うことなんて簡単じゃないか」と言ったよ。わざわざこんな面倒な形で会うことに意味があるのか、疑問でしかなかったよ。彼女は、「直接会おうとすれば彼は話をしてくれない。面倒な方法を取ってでも彼と会いたい、話したい。あなたを救い出す、助け出すと伝えたい」こう答えてくれた。彼女の意思を尊重して部下の者たちにもお前にも何も言わずに今日まで待ったんだ。面倒な形でもいいから霧裂きジャックに会う、これが彼女の依頼さ。
「健気なアリスだよ」
アリスって、すずのことか。
「こんな健気なアリスを突き放すというのか?」
「例えあいつでも無理なものは無理だ。俺にとっての光で救いだったのは姉さんだけだ。誰も姉さんの代わりになんてなれない」
「全く、my boyは困ったやつだ」
これ以上の会話は不毛だと判断し書斎を後にし、屋敷から出た。先ほどまでの雨雲はどこにもなく、代わりに気持ちの良い青空が広がっていた。
「救う、か……俺は救われることはない、俺の手はもう洗い流すことができないほど血で汚れてしまった。そんな俺は救われちゃいけない」
神さまはいるか、と聞かれれば、いる、と俺は答えるだろう。この世界のほとんどの事象は科学やらなにやらで証明できるとはいえ、まだまだ証明できない”奇跡”はあると思う。人が何を信じるのかは、その人の勝手だ。だが仮に神がいると信じても、神はすべての人を救うことはない。救われるのは神に選ばれた奴だけだ。俺は神から見放され選ばれなかった怪物。どれだけ酷い環境にいたとしても、神が選ばなきゃ意味なんてない。怪物は神に裁かれるなら、この世界から怪物らしいことをやってから裁かれた方がいい。俺が救われることなんてないのだから。