第一話
暗いこの部屋に柔らかな月の光が入る。それだけなら何も問題ないのに、月明かりは赤黒い液体を可視化して、気味の悪い光景を俺の目に映す。部屋の中は不快な臭いが充満し、あちこちには人の脂が飛び散っている。早くこの部屋と臭いとおさらばしたいが、ジジイの迎えがくるまでまだ時間がかかる。くそっ、あのジジイ何をちんたらしているんだ。少しでも動けば不快な臭いが鼻を刺激する。何度やっても慣れない、俺は殺しなんて全く好きじゃない、死体も見たくなければ血ですら見たくない。昔のトラウマを思い出しそうになるから。
「やあ、ジャック。仕事は済ませたいかい?」
「来るのが遅いんだよエセ紳士」
「全く、my boyは素直ではないなぁ」
「うるさい、早くしてくれ。吐きそうだ」
ジジイのマイボーイ呼びはいつも腹が立つ。特に仕事を終わらせた後は余計に。こんなに毒を吐いていても、俺はこの人に頭が上がらないし、感謝しかない。行くあてのないただの殺人者である俺に衣食住と、温かい愛をくれた。俺はこの人を信じている。謎だらけで何一つ信用できないこの男を信じている。
少年は貧しかった。優しく愛のある母親と姉がいても、酒と暴力だけの父親が存在する限り、少年はいつまでも貧しかった。母は少年とその姉を連れて夜逃げしようと計画した。しかし、その計画はむなしく金が目当ての父親が自殺に見せかけて母を殺した。警察による捜査や取り調べが行われても、結局自殺ということで片づけられ、母にかけられていた保険金がそのまま父親の懐に入ることになった。母が死んだこの家は今まで以上の地獄となった。少年を守るために姉が必死に守り抜いた。すべての暴力を己に向けて、時には自分の尊厳すらなげうって。苦しく終わらない地獄の日々でも少年にはいつも優しい言葉と笑顔を向けていた。少年にとって亡き母の言葉と笑顔、そして姉が希望の光だった。しかし、ある日希望の光だった姉も母と同じように自殺をした。父親はお前が殺したも同じだと、呪いの言葉と笑みをこぼした。少年の何かがぷつんと切れ、湧き上がる衝動のままに父親を殺した。喜びも悲しみもない、ただ吐きそうな不快な臭いと父親だったものがそこに転がっていた。後にジャック・ザ・リッパ―と呼ばれる少年の最初の殺しだった。
今までと違った展開をしてみたいと思いました。頑張ります