劫初の鬼
ひねくれた性格の青年・天野は、人が嫌がる仕事ばかりしている。
様々な実験台になるという危険なものだ。
それが出来るのも特異体質のおかげで、普通の人間と同じ細胞や体をしているが、死んだとしてもすぐに生き返るのだ。
それは自分の意思で行える。
・ ・ ・(時折、ある男が人を多く殺す夢をみる…)
そんな毎日をおくっていた彼を訪ねて来た一人の美女。
彼女は陰ながら天野を見守っていた。
しかし今回、姿を現したのには理由があった。
「あなたを保護しに来ました」
突然、あやしい男たちに襲われる。
彼女は天野を連れて逃げ切ることに成功する。
到着した施設にはとても変わった人間がいた。
マッドな科学者
イケメンの殺人快楽者
感受性の強すぎる美少女
子供みたいに無邪気なナイスバディ美女
感情が欠落しまくった天才少年
変態思考が神レベルの男
羊の皮を被ったエリート警察官
・ ・ ・(時折、地獄で拷問を受けている、ある男の夢をみる…)
天野を襲ったのは世界的に有名な製薬会社で、彼を永久的な人間モルモットにするために狙っていた。
助けてくれた女と組織によって守られていたが、彼一人を守るために多くの被害が出てしまう。
このひねくれた男一人を守って何の意味があるんだと、内部もバラバラになってくる。
そして、とうとう敵の組織力の大きさに屈することになり、天野は見放される。
しかし、施設で親しくなった変わった友人たちは天野を見放さなかった。
組織は天野を多額の金で相手に売りわたすことを決定する。
味方だった者が敵になり、逃げることが困難になって来た。
それでも仲間達は最後まで戦ってくれた。
……なぜ、親密でもない天野の為に命をかけたのか。
施設にも闇があり、問題があった。
天野と自分自身を重ねた者もいたのだろう。
人とは違う。変わっているだけで、ひどい目にあう。本当の意味での…自由が欲しい。
しかし、一人また一人と死亡する。
死の間際の彼らの表情は……様々だった。
安堵・涙・恐怖・快楽・無・希望・理解
彼らは……己のために戦い、自分自身と戦ったのだ。
・ ・ ・(時折、血の海から姿を現した男が、鬼に変わる夢をみる…)
そしてとうとう天野は一人になってしまう。
癖があったが初めて出来た友人たち。
天野は思った。
一人孤独だったあの生活が幸せだったのだと。
だが、今まで感じたことのない感情を知ることが出来た。
それは彼らのおかげだ。
自分の為に死んでしまった彼らの為にも、限界まで逃げることを決意する。
日本の田舎を渡り歩く。
一人で行動していて初めて感じる孤独。
今までなんとも思っていなかった孤独が…………つらい。
そして、徐々に精神を汚染していく。
眠れば悪夢に苛まれ、起きていれば心が苦しい。
厳しい精神実験をこなしてきた自分だとは思えない。
天野は恐怖する。
精神的に追い詰められた天野は、何度も死のうとする。
しかし、その体は…死を受け入れてはくれない。
何度も生き返ってしまう。
考えられる死に方をいくつも試したが、駄目だった。
・ ・ ・(時折、永い年月を拷問にあった鬼が、ついに果てる夢をみる…)
倒れている天野を介抱してくれた家族がいる。
その優しさや温もりにふれ、落ち着いてくる。
家族の中に、とても愛らしい幼い少女がいた。
彼女と遊んでいる時だった。
少女は天野に一輪の花を差し出す。
それを…笑顔で受け取る天野。
今までこんな自然に笑顔が出たことなどなかった。
受け取った時だった。
頭の中に、“シャラン”…という鈴の音のようなものが響く。
そして……
その場に倒れる天野。
彼は……、二度と……動かなかった。
花を受け取った天野は……
“天の邪鬼”であり、“天の邪鬼”
では…なくなっていた。
ーーー彼の…罰は終わったのだ……。
最期…、彼は……、
邪悪な鬼ではなくなったため、天に召されたのだった。
もしも、あの時……
花を受け取らなかったら、彼の罰は…
続いたのかもしれない……。
・・・・・・・・・
天野は大変重い殺人などを繰り返してきた男で、ついには……邪悪な鬼となる。
死んだ後も地獄をさまよい、やがて人間界に転生する。
そこでも彼は罪を償うため、生かされた。
少しずつ心が豊かになった鬼を、天は許した。
少女は……神の使いだった。