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アゴラでの探索
リナは、どうにかして今の時代の手掛かりを探そうと決め、ソクラテスの了解を得て、アゴラをじっくり巡ることにした。石版がある場所――つまり、もともと自分が現代で拾った場所あたりに何か痕跡がないだろうかと考えたからだ。
ソクラテスの弟子たちの一人が付いてきてくれ、アゴラの商人や職人に話を聞いて回る。すると、ある老人が奇妙な伝承を語った。
「むかし、この広場には“問答の器”と呼ばれる不思議な石板があった。そこに触れた者は、己の無知を認めたときにのみ、真に答えを得るのだ――と、そう言われていたものさ」
さらに老人はこう続ける。
「ただ、その石板は行方不明になったと聞いたがのう……」
リナはハッとする。自分が現代で拾ったあの石版が、“問答の器”かもしれない。もしそうなら、そこには時空を超える力が潜んでいる可能性がある。
(やっぱりソクラテスの言う“無知の知”と繋がっている……?)
胸の奥がざわつく。だが、どうすれば再び現代に戻れるのかはわからない。