足元をさらに固めよう
そろそろ冒険させたい!
「あんた達ってどこで寝泊まりしてんの?」
私は喜んでいる3人に向かって声をかける
「へいっ!俺らはここからちょっと行った所のぼろ宿屋で暮らしてます!」
「弟子って事になるなら一緒の所で寝泊まりした方がいいでしょ、あ、もちろん部屋は別よ、荷物持ってきなさいな」
「へいっ!わかりました!師匠!」
(師匠か・・・本当に私にそんな事できるんだろうか・・・)
「師匠、これ俺が持ってる全財産です!弟子入りという事で受け取ってください!」
マックは腰についている袋をとりそのまま私に向かって渡してきた
「お金?師匠ってお金取るものなの?」
「へいっ!あ・・・いや・・・俺的にはそんなものかなって思ってましたけど・・・まあ、でもそんな感じだと思います!じゃあ俺は荷物持ってきますね!」
言うや否やばっと駆け出したマック、私がええ?ちょっと待ってと声をかけたがどうやら聞こえてないようだ
「「「はぁ・・・」」」
またしても3人の溜息が重なる
「それでドーナとルードだっけ、あんた達は実家に帰って職人としての技術を学ぶって訳なのね」
「「へいっ!そうです!」」
「じゃあこれ選別よ、2人で半分にしなさい」
私はマックから受け取った袋の中身も見ないでドーナの手元へ投げた
「いや、でも姐さん、この中身は本当に兄貴の全財産なんでさ!」
「そうなんすよ、だから宿代とかも持ってないまさに素寒貧の状況なんです!なのでこの中から宿代を出してもらえれば嬉しいんですけど・・・」
「まさか姐さん!まずは野宿からとかっすか!?そりゃ俺らも野宿は慣れてますが街中で野宿となると色々問題があります!警備兵とかに目を付けられるかもしれねぇ!」
「あー、その辺は大丈夫よ、とりあえず半年くらいは面倒見るから、それで私の所じゃ何も成長しないと思えば別の人頼ればいいし、だから別にお金もらっても重荷になるだけなのよ、じゃあそのお金は好きにしなさい、半年後ダメだった時にそのままマックに返すとかでもいいと思うわ」
「「へいっ!姐さんわかりました!!」」
「姐さん姐さんって・・・まあ、いいわ・・・」
またため息をつきそうになった時遠くから「お~い」と手を振りながら走ってくるマックが見えた
(嬉しいそうだしまあいいか、さて・・・師匠としてどんな事をすればいいのかしらね・・・)
それから半年間私とマックはともに行動していた
一緒に冒険者ギルドに行く事もあったが最初はかなり驚かれた
悪童としての名前が広がっていたマックが私に対し敬語を使い師匠と呼んでいたからだ
中にはボコボコにされたうえ奴隷のように働かせているなんて噂もあったみたいだ
私が師匠としてマックに命じたのはそんなに多くない
朝早めに起きて軽くストレッチをしたうえで街の外にでてランニング、そしてお互いの武器は斧という事で木で作った斧(木斧とでもいえばいいのだろうか)での模擬戦、そして食事メニューの改善である
この世界、いや、元の世界でもこのくらいの文明度だった時には食事というのはあまり重要視されていない
美味しくするといっても味付けを濃くするだけだったり近場では取れないような珍しい食事がもてはやされ金があるものはぶくぶくと太り健康を害していく一方だ
なので
「まず弟子入りしたからにはお酒は禁止よ、とりあえず半年は禁酒です!そして食べるものも肉類はいいとして豆類、あと野菜をしっかり食べてもらいます、あなたのお腹を殴った感触としてはちょっと贅肉が付きすぎてます、それをなくしてあとは体力ですね、持久力をしっかりあげていけばそれなりに階級もあがっていくと思います」
そういえば私の階級はいろいろなお使いをしていて2になっている
マックの階級は4だ
階級が下の私なんかを師匠って呼んでいいのかと聞いたら師匠の階級がこれからどんどん上がっていくのは師匠を知っている人間なら皆わかっているから今のうちだけでさ!と笑って言っていた
その時自分は弟子なんだから呼び捨てでいいしタメ口でいいとも言われているのだがこれがなかなか難しい
年上の男性相手にタメ口なんて使った事がないからだ
これは私もちょっとずつ練習していかなくては
朝になり1日が始まる
私はタンクトップとたまにへそ出し、そしてハーフパンツ姿で宿を後にし街の外まで向かう事が多くなった
最初の頃は宿の店員さんや例の女好きの門番にも、そしてマックにすらそんな格好で出歩くのはダメだと言われたがこれから走りこんで汗をかくのだ
いちいち現地で着替えてとかの方がめんどくさい
2,3か月も経ったらその3人も慣れたものでもう何も言われなくなった
たまに街中で会う人にじろじろ見られたりもしたがそいう人には後ろをついてくるマックが一睨みすると大体逃げ出していった
こいつ、結構怖い顔してるからなぁ・・・
「よし、じゃあ今日も走るんだけど最近マックも私についてこれるようになったからちょっと負担かけて走ろうか」
「へいっ!師匠を担げばいいんですか?」
確かに今この場所には何もない、負担をかけるとなれば私を担ぐくらいしかマックの頭の中にはないだろう
「違うわよ、最初に走り込みをするって話をしたときいったでしょ?魔物は人間より体力が多いのが普通で対人戦だって体力が多い方が有利だって、だから今日からは普段冒険にでかける時と同じ格好で走る事にする、マックの鎧とかは私のマジックボックスに入ってるから、今だすね、ん-・・・とりあえず今日は武器は持たないで防具だけにしようか」
過酷なマラソンが待っている事がマックにも想像できたようだ、顔が引きつっている
それも仕方のない事だ
私の体力、持久力はスキルによって底上げされているが彼のスキルは斧戦闘術
斧を使い戦うのが上手になり斧を持った時の筋力に補正がかかるものだ
それでもちゃんとランニングについてこれるようになったのは成長の証だろう、初日はすぐに息切れをしてはるか後方まで距離が離れてしまっていた
「やるぞ!返事っ!」
「へいっ!」
最初の返事はよかったがやはり途中でばてていた
私も私で鎧を着て走るとやはり疲れる
だがこの走り込みをしていた結果セットしたスキルは成長していくという事がわかった
セットしたスキルの横に数字が表れ効果が増加したのだ
これは嬉しい誤算だった、ただスキルを作りセットしていくだけのモノだと思っていたがちゃんと成長させる事ができるのだ
おかげで今は体力、持久力だけでなく腕力や身体操作などのスキルも成長している
使っていけばそのうち成長していたのかもしれないが早めに気づけた事は幸運である
マックに感謝しなくては
疲れ果ててマックが動けなくなったのでランニングは打ち切りだ
ただ疲れたからと言ってその場で寝転んではいけない、走った後は軽く歩かなければいけないという元の世界のルールに則りマックに檄を飛ばし歩かせたりもした
「とりあえず汗かいたから汗流すよ」
「へ・・・へい・・・」
これも日課である
だがこれから模擬戦がありそれでも汗をかくのにいちいち宿に戻りお湯を買い汗を流すなんて時間もお金もかかる事なんかしてられない
私はまず地魔法で湯舟を2つと私の方にだけ壁を作りそして水魔法と火魔法で私が思うちょうどいい温度のお湯を作った
「人前では地魔法は使わない方がいい」
神様にこう言われていたが人通りはない所とは言え誰かに見られるような危険性がある所で裸にはなりたくない
なのでマックの馬鹿さ加減に賭け地魔法が使える事を打ち明けたのだ
「そうなんすか?確かに魔法を使う魔物とかは戦った事ありますけどどいつがどんな魔法使うかとかは覚えてなかったす、俺も落ちてる石とか投げたりしてたんで同じような事を魔物がやってきたんだとばかり思ってましたよ!師匠が誰にも言うなっていうなら絶対言いません!へいっ!」
馬鹿にオールインした賭けにはどうやら勝てたらしい
私としては本当にオーガなんじゃないかとか血を引いてるんじゃないかとか言われたりするかな?とは思ったのだがそれは杞憂に終わった
風呂で汗を流し洋服を軽く洗った後は魔法で乾かし軽くご飯を取る
そしてそれが終わったら模擬戦だ
正直斧の使い方自体はマックの方が数段上だ
私はただ腕力に任せメイスや斧を振るくらいしかできなかった
マックを観察しここはいいだのこれはダメだのを言いながら更に打ち合いをする、そんな事くらいしかできる事はない
だがそれがどうにかこうにか枠にはまったというか上手くいったというか
マック自身が考えなしに振り回していたのを頭を使い改良出来た事でかなり実力はついたと思う
近場でゴブリンなどは倒しにいっていたがそろそろ本格的にダンジョンアタックやもう少し強い魔物を相手にして稼げるようにしていいのかもしれない
「今日はこんなもんでいいだろ、お疲れ」
「師匠!ありがとうございました!」
「また風呂作るからちょっと待ってな」
「へいっ!」
ちなみに最初あんな事を口走っていたがマックが私の入浴シーンを覗こうとかした事は1度もなかった
まあやったらやったで殴られて師匠と弟子の関係も終わるだろうからそりゃあそうだという話なのだが
湯舟につかりながら私はマックに話かける
「なあ、マック、そろそろダンジョンでも行こうか、前に3人で行ったけど1階層で帰ってきたってダンジョンがあるって言ってたね、そこ行ってみようか」
「へいっ!ロー・テリアのダンジョンっすね、でもあそこ確か階級が3にならないと入れないっすよ」
「うわ、まじで・・・じゃあまずは階級上げるために依頼こなしていくか、多分依頼数の方は足りてると思うからあとは魔物の質だね、帰りにちょっと森の方に行って探してみようか」
「へいっ!それならここからちょっと行った所にコボルトが住んでる地域があるんでそこ行きましょう、俺達もそこで階級あげたんでさぁ!」
「よし、そうと決まったら早くいくか、さくっと倒してさくっと帰って階級あげて、明日はロー・テリアダンジョンのある街に出発だよ」
「へいっ!わかりました!」
そういって湯舟から立ち上がり自分と洋服に向かって乾燥させる魔法をかけ壁になっている石を崩す
目の前にいるのはズボンをはいただけのマックの姿だ
マックの身体にはもう贅肉はついていない
たんぱく質をしっかりとったおかげで腕や肩周りにはしっかりとした筋肉がついている
なんだかんだ街で結構人気が出てきたという噂をドーナやルードから聞いている
(これはさっさと一人前にして弟子の関係を解消しないと怒ってくる女性がでてくるかもしれないな)
「師匠!俺にも乾燥お願いします!」
「おう、それが終わったらさっさと行くよ!」
「へいっ!お供します!」
長いようで短い準備期間がようやく終わりを迎える
明日は初めてのダンジョンアタックだと思うと心が震える
私は高揚し抑えられなくなった口元を隠すように走り出した
「師匠!そっちじゃないっす!!」
「なんだと!?こっちって言ったじゃないか!」
「へいっ!言ってないっす!あっちっす!」
指さされた方向へとまた走り出す
ああ、明日が楽しみだ
今はまだ楽しみでいいだろう、明日はしっかりと冷静になるはずだ
言いようによっては明日がこの世界での第一歩ともいえるかもしれない
足元を救われないようにと固めた足場がしっかりとしたものになったのを感じた
だが・・・やはり初めてというものはそこまで上手くいかないものだという事を痛感する羽目になったのだった
こういう最後の引き、わりと好き