旅は道ずれとは言いますが
書けそうだと思ったから書いた
どうしてこうなったのか誰か説明をしてほしい
今目の前には私よりも身体のでかい男が縮こまって私よりも小さくなっている
例のあの3人が目の前で土下座しているのだ
(この世界にも土下座はあるのか・・・じゃなくて!なんでこうなった!?)
話は約30分前まで遡る
私が最近泊まっている宿屋は安い代わりに料理がない素泊まり専用の宿屋なので隣にある食堂でご飯を食べていた時の事だ
ここの料理はしっかり塩で味付けがしてあるからちゃんと美味しい
胡椒がないのは残念ではあるがどうやらこっちの世界でもこのくらいの文明の時は胡椒は高いみたいだ
硬いパンと干した肉は今後冒険の途中でイヤって程食べる事になるだろうから今の間にちゃんとした温かい食事を堪能していく
今日のご飯はジャーマンポテトのような料理だ
美味しいが・・・やはり胡椒が欲しくなる
ブルストなどの肉料理はこの辺ではよく食べられる料理らしい
前の世界の料理や調理技術などを持ち込めば料理革命が起こせそうな気もするがここに永住する気もないし変にお金を持っても変な事に巻き込まれるだけなので遠慮しておく
ただ確かにこの半月の間になんどもお米食べたいとは思ったしスイーツを食べたいとも思った
お酒は・・・ちょっと飲みたいが我慢しようと決めたばかりだ
将来1人でちゃんと冒険ができるようになったその時にこういった街の中でなら少し飲める事にしよう
いや、街の中で1人で飲むなら少しじゃなくてもいいか?いいよね?きっといいはずだ、アハハ
お酒に関しては自分に甘くなる、なにしろ前の世界ではそれが楽しみだったのだから
街を出ていった後の事を簡単に考えているとバタンと店の扉が開かれた
音は私に届いているがこの店を貸し切りにしている訳でも高級店でもない
扉を開く音が他の人よりも大きいな、くらいの事しか思わなかったので私は扉の方へ眼を向けなかった
そんな事より今は今後の事とブルストがいつ届くのかという事の方が私には重要だ
私は目の前のジャーマンポテトにフォークを伸ばす
ズカズカズカ、なんだ足音も大きいな
ズカズカズカ、あれ、近くに座るのか、うるさかったらさっさと食べて店を出ようかな、ブルストは包んでもらってもいいか
ズカズカズカ、隣の席かー、うん、やっぱりそうしよう、気を悪くされてもいやだからちょっと経ったら自然に店員さんに頼めば大丈夫よね
「オーカさん!俺を弟子にしてください!!」
「へ?」
店中にいる人間の視線が私の元へと集中した、そしてそれから綺麗に土下座をしている3人に注がれる
悪童のが頭下げてる?あの子は誰?知ってる?知らない、冒険者なのか?俺は知ってるぜ、あいつは女オーガだ、女オーガ?女オーガ!女オーガ?女オーガ!
さっきまでは居心地がよかった店が一気に最悪のシチュエーションに変化する
なによりも
「ここは食事をする場所よ、そんな所でそんな風にしてても店と他のお客さんとなにより私に迷惑です、立ち上がってください」
そういうと取り巻き2人はそれもそうだよな、とばかりにお互いに見合い立ち上がろうとする
「いや!俺はもう決めたんだ!オーカさんの弟子になるまでここを動かねぇ!!」
脳筋だ・・・目の前にいるのはまさに脳筋だ
いや、ここまで行くとただの馬鹿だ
相手の事を一切配慮しないで自分で勝手にルールを決めるエゴの塊
私は正直こういう人は大嫌いだ
大男の言葉に取り巻き2人も上げようとした頭を再度地面につける
この2人がもうちょっとこの大男に意見できたらこうはならないんだろうけども・・・
「はぁ・・・しょうがない・・・」
私は立ち上がり大男の首根っこを掴む
「店員さん、荷物そこに置いてますんですぐに戻ってきます、あ、ブルストは包んでもらえますか?持ち帰るんで」
びっくりしている店員さんに向かってそういうと親指を立ててくれたのでにこりと微笑みかける
「ほらっ!いくよっ!」
首根っこを掴んだ手を持ち上げると流石の大男も慌てて立ち上がる
「あんた達も迷惑だからさっさと立つ!」
「「はいっ!」」
3人の男を引き連れながら私は食堂からでていく、後ろから凄いとか強いとかかっこいいとか言われているみたいだがとりあえず今は無視だ
明日には女オーガの名前で噂が広がるだろう、あーあ、やな感じ
食堂から少し離れた所で私は後ろを歩いてくる男達の方へ姿勢を向けた
すると大男がまた土下座をしようとするので
「ふんっ!」
腹に一発いれてやった、もちろん手加減している、吹き飛んでいない
「やめろって言ってんの、あんた人の迷惑とか考えてない訳?」
「ゴホッゴホッ、い、いや俺はオーカさんに弟子入りしたくて」
「それで私がご飯食べてる所に乗り込んできて土下座して、はい、わかりました、いいですよ、って言うと思ってるの?」
「いや、俺、とりあえず頼んでみなきゃ始まらないと思って」
「後ろの2人!あんた達もちゃんと止めなさいよ!」
いやぁ・・・とかそれは無理ですよ・・・と言いたげな視線をこちらに向けてくる
「私そういう自分の事しか考えてない行動嫌いなのよ、自分が良ければすべていいみたいなそういう考え、もちろん頼んでみないと結果はわからないけど少しでもいい結果が得られるようにする為に行動してみた?というかあんたこの前まで私の事倒すんだとか今日は勝てそうだとかなんだの言ってきたわよね?あれだって迷惑してたのよ、大体弟子ってなによ、冒険者なり立ての15歳よ?そんな奴が何を教えろっていうのよ!」
3人の男は冒険者なり立ての15歳という所に1番反応していた
後ろの2人はそれなら弟子とかそんな事を考える場合じゃなく自分の階級を上げたりする事の方が大事だろうと思っていた
しかし大男との方はと言うと
「15歳という若さであの強さ!お願いします!弟子にしてください!」
今度は土下座じゃなく頭を下げただけだったので腹パンはなしにしておいた
「「「はぁー・・・」」」
取り巻き2人と私の溜息が重なった瞬間である
「じゃあとりあえず話だけは聞いてそれから断るから、さっきの食堂じゃ話も聞きづらい雰囲気だし・・・そうね、あっちの方に空き地とベンチがあったわよね、そこにしましょ、会計してくるからちょっと待ってなさい」
「はいっ!待ってます!」
断るという言葉は彼の耳には入らなかったのだろうか
これは難儀しそうだ
だがとりあえず言えば少しは理解をして考える事は出来るみたいだ
別に私はあの大男の事は嫌いという訳ではない、テンプレ的な出会いをくれたのでありがとうと思っているくらいだ、騒動の原因に私の行動がゼロではないという点を見れば大男だけが悪い訳ではない
だが弟子と言われても何を教えればいいのか全くわからない
むしろ私が誰かの弟子になって鍛えた方がいいんじゃなかろうかと頭によぎったくらいだ
まあ、この世界でも武器の主流は剣なのでメイスと手斧、それにハルバードしか持ってない私には何も教えられる事なんてないのだ
(しいて言えば筋トレとか食事メニューくらいかなぁ・・・それだけなら口で言えばいいし教えてあげて諦めてもらおう)
会計を終わらせ包んでもらったブルストを受け取ると私は彼らの方へと歩き出した
店に入る時から出る時までずっと見られていた事は言わずもがなと言った所だろう
「お待たせ、行くわよ」
「「「へいっ!」」」
なにがへいっ!よ・・・これじゃあ女幹部と下っ端じゃない・・・
今日の天候は晴天だった
夜になっても雲はなかったので星のきらめきがよく見える
この世界に来て初めて星を見た時は感動した
森の中で歩いていた時の疲れがすぅっと引いたような気がしたのを今でも覚えている
見上げればそんないい景色なのに私の目の前には土下座した男が3人
魔石を使っている街灯がほのかな明かりで4人を照らしていた
「それで・・・弟子入りってなによ」
私がベンチに座った時3人は私の前で正座をした、あ、しまった!と思った時にはもう遅い
そしてその顔をみられて慌てて土下座を始めた3人を見てさらに苦虫を嚙み潰したような顔になったのだが残念ながら相手には見えていない
土下座に関してはもうあきらめて話を進める事にした
「大体私あんた達の名前すら知らないわよ、悪童の~とか呼ばれたのは聞いた事あるけど」
「へいっ!俺はマックって言います、後ろの2人はこっちがドーナでこっちがルードです」
「「よろしくお願いします、オーカ姐さん」」
師匠かと思ったら姐さんときたもんだ
いや、確かに師匠になるとは言ってないけど姐さんになった覚えもない
「それで、なんであんた達は弟子になんかなりたいの?」
「へいっ!いや、実は弟子になりたいのは俺だけなんです!というのも俺達3人はこの街出身の幼馴染なんですが20歳になっても冒険者として大成しそうにない時は実家に戻ってこいって後ろの2人は言われてまして」
どうやらマック、ドーナ、ルードの3人はもうすぐ二十歳になるらしい
(5歳も離れた女の子に土下座できるのも凄いな、それだけ本気なんだん・・・、いやいやいや、ほだされるな私)
「ドーナの家は大工、ルードの家は鍛冶屋とやってまして、まあ2人とも長男じゃないからこの年齢まで許されてたんですけど大成するのは難しいかなって・・・」
「姐さん!違うんです!」
「大成しそうにないのは俺達2人だけで兄貴はもうちょっと考えて行動できれば大成すると思うんです!」
(もうちょっと考えて・・・か・・・今までも猪突猛進な考えなしの行動ばかりだったんだろうなぁ・・・)
「なまじ体格が良くて力があってその上戦闘系のスキルを持っているから成功しちまうんですよ、でも俺達には戦闘系のスキルはないんで兄貴の足を引っ張っちまってるんでさ!」
(あー、やばい・・・男の子のこういう関係性ってなんかこう・・・好きだ!!お姉さんは大好きだ!!)
「馬鹿!お前らが足引っ張ってるなんて思ってねぇよ!俺はこの3人ならやれるって思ってる!俺がもっと強くなればいいんだ!」
(あー!!!)
「兄貴、それじゃダメだってこの前も言ったじゃないですか!」
「そうっすよ!兄貴は才能があるんだからもっと上を見て進んでいかないと!」
(あー!あー!!)
「でも・・・俺は馬鹿だからよ!戦いとかわかんねぇけど!お前らと一緒に上を目指すって決めたからよ!」
「「兄貴!」」
「ああああああ!!!!わかったわよ!!!」
これをもし計算でしているっていうならこいつらは相当な詐欺師だ
「わかったけど私だって田舎から出てきたばっかりでまだ身体だって鍛えてる途中だし戦術とかそんなに得意な訳じゃない、それに私の武器はこれとこれよ、だから剣なんか教える事はできない、それでもいいの?」
「姐さん!!俺の武器も斧っす!!」
マックが元気に答えた
「んー・・・んじゃまぁ・・・いっかぁ・・・?」
すべての事は明日の、いや、未来の私に丸投げしよう
目の前で喜び抱き合っている3人の男を見て他人の人生なのに軽く引きうけてしまったなと若干後悔もしたがきっともう取り消す事はできないだろう
溜息をつきながら星空を再度見上げる
明日もきっと晴れるだろう
マック、ドーナ、ルード
繋げて発言してはいけない